たよりはたよりにせず
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
以前いた大陸では、竜払いたちが所属する竜払い協会があった。
この大陸には、竜払いたちが所属する協会のような仕組みは存在しない。竜払いの依頼は、すべて、竜払いたちの個人で請け負っている形式だった。
おれは、この大陸へ、竜払い協会の調査員としてやって来たいた。調査の他、この大陸の竜払いたちの手助けも入っている。
とはいえ、基本的には、詳細な協会から指示はない。ただ、高い自由度を与えられている反面、向こうからの支援は薄い。
定期的な書簡報告はしている。ただし、これも厳密な報告義務はない。ふんわりと、書簡で、という程度だった。
竜について、大陸で違うがありそうだとか、この大陸の竜払いたちの状況だとか、そんな程度の内容だった。きっと、どこかで文面を検閲されたとしても問題になる内容でもない。実質、おれの生存報告に近しい。
その日は、現状の書面へつづって、書簡を大陸間航行をする船に託した。なかなかの高額手数料ではある。
その受付口にいたときだった。
「なぜにだぁ!」
叫んでいる青年がいた。安価な生地で仕上げた背広を羽織っている。
受付口には、おれと青年しかいない。どうやら、青年はつい叫んでしまったらしく、すぐに、正気を取り戻し、周囲を見回した。誰か迷惑かけていないか確認している。
おれと目が合うと、彼は気まずそうに、頭をさげてきた。
見たところ、青年は受付口で受け取った、肩幅ほどの大きさの木箱を、受付口に設置されていた椅子の上で開けている様子だった。
青年は頭をさげた後で、なお「ごめんなさい」と、おれへ謝って来た。
で、反射的におれは「どうかしましたか」と、訊ねていた。
「ええ、じつは」と、まだ動揺や興奮もあるのだろうか、彼は問いかけると、とりあえずでもいいので聞いてほしい様子で、わけを話し始める。「両親から頼んでいた荷物が届いたのですが」
「ご両親から、ですか」
「はい、わたしはいま留学中でして、向こうの大陸にいる両親からのこの荷物が届きまして」
なるほど、その荷物をここで受け取ったのか。
「で、両親には、手紙である本を送ってほしいと書いたんです。こっちでは手に入らない本なので、送ってほしいと。ですが、見てください」
うながされて視線を箱のなかへ向ける。そこには、衣類や乾麺を中心とした品々がぎっしりと入っている。あまりに、ぎっしり入り過ぎて、箱がやや膨張して変形しているほどだった。
「本が入ってないんです、頼んだ本が。すべて、頼んでいない支援物資ばかりで。いえ、ありがたいのは、ありがたいのですが、あの、頼んだ本を送ってほしい………」
片手で頭を抱えて悩みだす。
「これまでも、何度も手紙にあの本を送ってほしいと書いたのに、なぜか、なぜにか! 本は送らず、こういった支援物資ばかりを。いえ、だから、ありがたいは、ありがたいのです………がー、本を、本を送ってほしいのに………」
なぜ、と、今度は表情でその精神状態を示す。
いっぽう、話は聞いたものの、こちらからつよく出来ることもない話でもあった。おれに出来たのは、とりあえず、彼の話を聞くことにより、その精神損傷を多少でも緩和させる手助けぐらいしかできない。
「あ、あの、そうだ、ちょっと相談いいですかね」
あ、相談とか、開始されるのか。
おれはひっそりと呼吸を整えてから「はい」と、返事をした。
「あの、手紙に、なんて書けばー………うちの両親は、あの本を送ってくれると思いますかね? なにか、こー、いい案がないですかね。求めていない支援物資じゃなくって、ほしい本だけ送ってもらえような、そんな手紙の書き方って」
彼は、必死になって助けを求めて来た。
対して、問われたおれは、少し考えた末、それを伝えた。
「ない本は、がまん」
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