にぎりしめたる
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
大陸でも熱い地方だった。この土地には時々、かなり激しい雨が降って地面を叩くという。
依頼をうけて、農園に現れた竜を払うに向かう。さいわい、雨は降っていなかった。
農園には均等に並んだ高い木が植えられていた。木には人工的に整えたように枝分かれがなく、加工した柱がたっているようだった。木の頂上付近にだけ、葉がなっている。農園と聞いたが、なにかの実がなっていることもなく、あまり見覚えのないかたちの葉っぱだった。猫の目みたいな形をしていて、やたらと表面がつやつやしていて固い。
未知の形態の森めいた印象を受けた。独特な匂いいも気になった。けれど、急ぎの依頼ということもあり、すぐ竜を払いに向かう。
竜は騾馬のほどの大きさだった。農園の中を矢のよう飛び回り、こっちは追いかける展開となる。
やがて、竜を空へ還した。
そして、依頼元である農園の主のもとへ完了報告へ向かった。
「わざわざ、こんな遠いところから来ていたたうえに、こんなにすぐに払っていただけるなんて、助かります」
農園主は二十代くらいの男性だった。知性的な顔立ちは、陽にずいぶん焼けていた。作業中なのか、手も汚れている。
「ありがとう。これで明日の朝の収穫ができます」
収穫。けれど、さっき、あの農園に入ったとき、木に何も実っていなかった。
何を収穫するのだろうか。
そこでおれは「それはよかったです」と、返事をしつつ、そして、訊ねた。「ところで、ここは何の農園なんですか」
「あ、ここですか」
「はい」
「これです」
農園の主が手に取ってみせたものを見る。胡桃ほどの大きさで、真っ白な丸い玉だった。
「護謨です」
「ごむ」
「はい、護謨です」
さもご存じという様子で言われたので、つい「そうか、ごむか」と、納得したふりをしてしまった。けれど、知ったかぶりは後の大けがにつながるため「ごむ、ってなんですか」と、質問した。
「この木たちからとれる、樹液でつくったものです」
「実じゃないんですか」
「あ、これをどうぞ」農園主の男性が、その白い物体を手渡して来た。「これは説明用に少し加工してある状態なんですが、さわってみたください」
おれはうながされるまま、それを受け取り、白い球を手に乗せる。うっすらと妙なかおりがした。
「握ってみてください。ぎゅ、っと、弾力ありますから」
言われるがまま、軽くにぎってみる。ぬめりがあり、かすかに弾力がある気がした。
「機械の部品に使う素材なんです、ほら、さいきんは車の車輪を覆う部分に使ったり、つまり素材です。まだ、この大陸では試験的にここで育ててるだけですが。他の大陸から持ってきて、木を植えたんです。もとの大陸と似た気候の場所で育てようと」
彼は農園の方を見ながら説明してくれた。
「これがないと、じつはたいていの機械がつくれなかったりする。すごい素材なんですよ」
「ごむ」おれは、そんなにか、と思いながら、白い物体を見る。
濃いめの煮凝りに似ている。けれど、対象な存在らしい。
「いまは、外の大陸から輸入しているです。ですが、いずれこの大陸内で自給自足できるよう、ここで試しているところです」
そう話す顔は、やる気に満ちていた。
なるほど、大いなる可能性がある素材なのか、べんきょうになる。
「あの、もっと、ぎゅー、と強く握ってもだいじょうぶですよ、どんなに強くにぎっても壊れまえん、うちの護謨は品質がいいので、もう、ぜったいに、なにがあっても壊れませんから!」
快活な様子でそういわれた。
そこで、おれは竜払いとして、もてる力のすべてを注ぎ、握ってみる。すると、白い球体は手の中で破裂し、霧散した。
すると、彼はいった。
「いずれは」
未来に希望をたくした、と、いえなくもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます