とうとうある
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
とくに夕暮れ時、その岬には異様な光景が完成する。
赤い太陽が、海へ沈んでゆく光景を背後にし、それは巨大な怪物に見える。
その岬には高い塔が聳えていた、けれど、一本ではない。
塔たちは、一か所に寄り添い建っていた。見上げても足りないほどの高い塔や、短い塔、他では見たことのない奇抜な形状の塔や、不可思議な配色の塔もある。
統一感のない塔は、合計十個。多種に渡る塔が一か所に建ち、それらは溶け合うように、すべてが結合し、ひとつの建造物と化している。
塔の集合体だった。複数の塔がくっついて、ひとつになっている。岬には、それが建っていた。
そこを通過するたびに、おれはその存在感に、気をとられる。
塔の集合体は、並みの城よりも巨大な建造物だった。
あれは、はたして、あの建造物はなんなのか。ずっと、気になっていた。そして、あるとき、おれ知った。
岬にはもともと一本の灯台が建っていたらしい。灯台があって、そこに灯台守の親子が住んでいた。その灯台守は、暗黙の世襲制だったらしい。
そして、ある時代、父から子へ灯台守としての役目を引き継ぎ時が来た。そこで、父はいったという。「我が子よ、俺を越える灯台守となれ」
引き継いだ子どもは「わかったよ、とうさん」と、答えたという。
それから、子どもは扉をあけ、父が守り抜いた灯台をあとにした。
で、すぐそばに新しい灯台をつくった。より、高い灯台を。
そういう意味で親を超えたといえる。
それが素直さに行動か否かは、不明だった。ちなみに、灯台守を譲った父親が早期引退しただけで、その後も、すこぶる健康体で、食欲はどっさりあるという。
こうして岬に灯台が増えた。実家にすぐ帰れるよう、くっつけて造った。
おそらく、ここまで語られれば、後の想像は容易い。あの岬の灯台守は、後を継ぐたびに、先代を超える灯台が建てられた。引き継いだ者たちは、先代を越える灯台守となるべく、動き出す。
先代の灯台を越える灯台をつくった。
より高い灯台、よこ幅で勝る灯台、派手な灯台、地味な灯台、有名設計による灯台、などなど。
度重なる灯台守交代で、やがて岬は灯台で、ぎちぎちになった。灯台の集合体になり、遠目からは、毒きのこの群生に見える。
灯台守の役目は、親から子へ。
そして、子からその兄弟へ。つぎに次男、さらにへ長女、三男、中継ぎにでいとこ、はとこ、なぜか義母へ、義母の義弟、などなど。
灯台の群生に至るまで、十年ほどかかった。
十年で十人の灯台守。
引き継ぎの間隔が、まるで、光の速さのごとくである。きけば、歴代の灯台守は、みな、あきやすかった。すぐ投げ出しがちだったらしい。
けれど、新しい灯台をつくるのは好きでたまらない。
ややっこしい条件がそろい、そして、ここの岬にあの灯台の群が誕生した。
と、おれが、そんな狂った経緯を思い出していると、陽は完全に沈んだ。
灯台の群れに光がともる。ともったのは、一箇所のみだった。
以前は、すべての灯台にあかりを灯していたという。けれど、いっせい、すべての塔に灯をつけた禍々しさといったら、凄まじいもので、航行する船も、まったく目指したく無い感じだったらしい。近隣住民もすごい顔で抗議して来たという。
ゆえに、いまはひとつの塔に明りがともっているだけだった。巨体の意味は、まず無い。
おれは、ぼんやりと、すべてに光がついた姿を想像しながら、灯台に近づいた。
一月前ほどから、使われていない他の灯台部分は食堂になっていた。素早く引退した灯台守がはじめた。空いている灯台の有効利用である。
空腹とともに扉をあける。食堂は雑貨屋になっていた。
見ると民芸品がなかなかのお値打ち価格である。
だからどうした。
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