ぜんぜんい

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 ある晴れた日、地面に扉をみつけた。

 土の上に、横たわるように鉄の扉があった。

 たとえば地下の貯蔵庫などへ続く、正方形の蓋のようなものではなく、そのまま玄関につけるような長方形の扉だった。扉には取っ手もついてあり、枠があり、蝶番もある。

 部屋へ出入るする用の扉が地面についていた。場所へ草原のただなかである。

 あたりに人家はなかった。ふさふさと緑の生えた草原の地面に、扉だけがあった。

 その扉をみつけようと思ってみつけたわけではなかった。近道をしようと、道を外れ、草原を横断しているとき、草もなく、少し開けた場所の地面に鉄の扉があるのを見つけた。

 なにもなく、横切りつもりだった土地だった。けれど、足をとめてしまった。いったいなんだろう、この扉は。

 気になって、いまいちど、周囲を見回す。やはり、人家はない。どこまでもふさふさの草原が広がっているのみだった。

 もしかして、鉄の扉が地面へ落ちているだけなのか。疑い、観察する。けれど、扉の枠は見事に地面へ結合されているようにしか見えない。

 なにかあるのか、開けると。

 とうぜん、その疑問の襲われる。むろん、やはり、扉のみがここに落ちているだけの可能性も濃厚にある。

 まさか、人家。地底の住居など。

 荒唐無稽な想像が生成され、好奇心が猛る。そして、その好奇心に屈して、おれは扉のそばにしゃがみこんだ。

 まずは、扉を二度ほど手で叩いてみる。

 しばらく待っても反応はない。

 そこで、思い切って、取っ手を持ってひねる。とたん、爆発の可能性も考慮して、警戒は怠らない。

 扉には鍵がかかっていなかった。取っ手をひねって持ち上げると、そのまま開いて行く。鉄製なのでかなり重かった。扉をすべてを開き切ると、そこに、石の階段が現れた。階段は下へ続いていて、先は暗く、太陽の明かりも途中までしか届かず、先が見えない。まるで地の底にでも続いているかのような雰囲気だった。

 おれは所持していた光源をとりだした。太陽の下、明りを燈すのは、妙な気分だった。光源に明りを燈すと、階段を降りてみる。

 すると、階段は案外すぐに終わった。丁度、大人ひとりぶんの高さしかない。階段が終わると、通路が闇の奥へと続いていた。

 天井も壁は土だった。崩れないように、いくつかの箇所は木材で補強されているが、歪な配置にされ方だった。職人が掘った印象が隧道には見えない。

 そのまま、隧道を進む。

 しばらく進んで隧道は行き止まりになる。すると、そこに、つるはしなど、穴を掘る道具の数々と、ふたつきの箱が置かれていた。箱の蓋を開けると、なにか、ちらしの束が入っていた。

 光源で手にとり、ちらしを照らす。

 そこにはこう書かれていた。

『ここまでみんなありがとう! 引き続き、みんなの善意のみでつくろう、地下迷宮作成企画進行中! というわけで、いきなり地面に設置された未知の扉を開いてしまうような、おかしな好奇心を持つ君へ提案だ! そこの道具をつかって、ひと掘りでもいい、きみもみんなと一緒に迷宮制作に参加しないかい! みんなの善意のみで地下に迷宮をつくろう! さあ、完成に何十年かかるかは、みんなの善意しだいだぞ! もちろん、地下迷宮をつくる目的はないよ、雰囲気でやってるのさ! でもね、善意だけでどこまで地下迷宮をつくれるか、これは善意への挑戦でもあるよ! さあ、いっそ、善意! 掘ろうぜ、善意! あ、追伸、ここまで善意を提供してくれたみなさん、ありがとうね! またの善意をよろしく!』

 それを読み終えると、おれはなるべく丁重にちらしを箱へ戻した。

 それから、隧道を引き返し、階段をのぼって、扉を閉めた。光源の明かりも消した。

 そして、草原を歩きながら考えていた。

 ああ、意外と掘られてたな。善意のみであんな深くまで。

 地下迷宮って、人気あるのか。

 おれ以外に。

 

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