にわのやくそう

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 竜を払い終え、依頼人の家へ向かう。依頼完了の報告を行いにいった。

「ありがとうざいます」依頼人の男性は礼を述べ、さらにこう続けた。「あーは、せっかくですので、お茶でも飲んでいってください、我が家特製の薬草茶をお出ししますから」

 依頼人は三十代くらいの男性で、頭髪全体が、わらびを重ねたみたいに、くるんくるん、と丸まっている。

 それはそうと、せっかくのお招きである。

「では、ありがたくいただきます」

おれはうなずき、お茶に応じた。

 彼はおれを家の庭まで案内した。席はすでに用意されている。

 そこに広がる庭には、花はすくなく、代わりに多種多様な緑黄植物が植えられていた。

「この庭に生えているのはすべて薬草なんですよ」

 彼は、そう教え、席に座った。こぷこぷと、お茶を注ぐ。

 目の前で湯気立つそれは、見たこともない紫の色の液体だった。かおりにもくせがある。食堂がこのお茶が出て来たら、まず、店長に問い合わせすべき案件の色と香りだった。口にしてはならない気がする種類の色とかおりである。

 おれは長考したすえ、お茶をみつめながら訊ねた。

「あの、このお茶は、失格のお茶なのでは」

 品質確認と情報収集である。安心材料を求めた。

「ああ、はは、これはそこの薬草が入ってるんです」彼はそういって、席を立ち、指さした薬草を手にした。「胃の働きをよくする薬草なんですよ、そのままでも食べれますから」

 そういって、むしって、口に入れてしまう。薬草を食べてみせた。

「がっ」

 けれど、すぐに彼は口から濁音が出た。

「ま、まちがえた、これは毒のある薬草でしたっ」

「いちだいじじゃないですか」

「しかし、ご安心をっ」と、彼は手で制す。「こちらに解毒の薬草がります、これを食べてはだいじょうぶ、ですからっ」

 いって、そこ生えていたべつね薬草をむしって食べる。

「がっ」

 また、すぐに濁音を放った。

「こ、これもちがった、これはべつの薬草だった」

「さらに自滅へ向かっていったんですか」

「いえいえい、だいじょうぶです。ああ、こっちだ、これです。これこそが、最初に食べたやつの本当の解毒になる薬草です。これを食べればそりゃもう、まず安心確保!」

 いって、その薬草をむしって喰らう。

「くぼっ」

「しんだか、ついに」

 とっさにそういってしまった。

「いえ、だいじょうぶです、ただ、葉っぱについてた虫を一緒に食べてしまって」

「虫」

「解毒の薬草はあってたのですが、しかしいま食べた虫には強烈怪奇な毒があるんです」

「まちがいしか起こさない生き様ですね」

 伝えておいたが、彼のこころに届いたかは不明だった。

「くっ、は、はやく、はやくあの虫を体内から出さないと、腹のなかで半透明な卵をどばどば産み、そ、そそ、それが孵化されてしまった日には! 孵化されてしまった日にはぁあああ!」

 そして、かなり怖いことを言い出す。

「あ、でも、まてよ」そのとき彼は気づいた。「そうか、さっき二回目に食べたのは、虫下しになる薬草だぞ! ということは、お腹のなかの虫はいずれぇ!」

 表情を明るくさせた。

「そうですか」

 おれはそういって席を立ち、一礼をし、家を出た。

 お茶はありのままにしておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る