じかん
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
午前中の授業中、その学校の校庭に竜が現れた。生徒たちに危険があるため、急遽な依頼を受け、竜を払いに向かった。
二階建て校舎の学校には、およそ百人ほど児童が通っているという。校舎のすぐ近くの木影に、馬ぐらいの大きさの竜がいた。いまは目を閉じて、鎮座している。
竜は人間が手を出さなければ、攻撃してこないが。それでも、生き物には手違いもある。
生徒たちはすでに校舎から避難していると聞いた。竜と間合いをはかり、この状況において、互いの生命の落としどころをさぐる。
「がんばれえええええええええ!」
すると、後方から、腹でも刺されたのかと思うほどの種類の声量でそれがきこえた。
振り返ると、校舎の方から女子生徒が手を振っていた。叫んだのは彼女らしい。
生徒は全員避難済みだと聞いた。けれど、彼女はあきらかに学生服を着ている。
もしかて、この学び舎には学生服を着ている職員がいるのか。一瞬、そんなことを考えていた。けれど、次の瞬間、窓からべつの生徒がたちが顔を出す。
その数、およそ百人ぐらい。みな、女子生徒だった。
いっせいに叫んだ。
いっせいに叫んだため、ぐわあああああああんばっでええぐがざああああ、と、声が集合し、言語にとどまっていない。気のせいだろうか、もはや、微量の衝撃波も感じた。
見返していると、彼女たちはまた、いっせいに手を振ってきた。白い歯を見せ、笑っている。
応援しているらしい。彼女たちはまた、ぐわあああああんばっでえええええぐだざあああん、っと、声援を結集してぶつけてくる。
生徒は避難済みという話だったが、教師の支持に従わず、避難しなかった生徒がいたらしい。というか、数からして、ほとんど避難していない。
せんせいの言うことなんて、聞いてやるものかという感じだった。
はたして、教育とはいったい。と、大きな単位で考えている場合でもない。
竜の方を見ると、目をあけていた。仮に、このまま竜を払ったとして、竜が校舎の方へ飛んでいっては彼女たちが危険だった。けれど、彼女たちはというと、がああばあばばばばば、っと、濁音の混じった声援をぶつけてくる。
とにかく、竜を払うまえに、彼女たちを払わなければ。考えた。
けれど、わからない。竜、一匹を払うより、百の女子生徒を払う方法がわからない。
しかたなく「逃げなさい」といった。ただ、彼女たちの集合声量に負ける。そこで「せんせいに言うぞ」と、幼少期以来、口にした記憶のない台詞を放ったが、もちろん、それも彼女たちの声に負けた。そして、たとえ聞こえていたとしても、そんな言葉で、避難するとも思えない。彼女たちの歯ごたえには通じそうにない。
暗礁に乗り上げていた。手詰まりだった。声援がいらない。
すると、竜が動いた。彼女たちもいっせいに叫んだ。こちらも構えた。
そして、竜、百の女子生徒たち、おれが動きを止めた。
油断なく、竜と目を合わせ続けた。互いに最大の警戒し合う。
そして、どうやってあれを払うか。考えつき、それをためしにかかる。
で、動きを止め、およそ五時間は経過した。
「じゃあねー、りゅうりゅう!」
夕方、最後まで残っていた女子生徒たちが手を振り、別れを告げて来た。五時間の間、勝手に向こうがつけた、りゅうりゅうという、あだ名をぶつけてきつつ帰ってゆく。「なんか食って帰ろう」という会話もきこえた。
あまりに変化のない時間に、彼女たちが、あきた結果だった。みな、帰ってしまった。
きっと、退屈は、いまの彼女たちにとっては最大の攻撃だった。
気持ちはわかる。けれど、よし、強敵だった。
勝ったぞ、払ったぞ。その副作用で、やや、人気がなくなった感をくらっているけど、勝った。
しかたない。
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