ちず
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
最近、裏の山に竜が出る、払ってほしい。依頼人は好々爺というべき外貌の持ち主だった。裏山は先祖代々の彼の土地らしい。
その山は木々で覆われ、地面は上下に起伏があり、岩があり、ちょっとした野生動物も出て、いろいろ入り組んでいるという。依頼人は高齢のうえ、竜と遭遇したとき足を少しくじいているらしく、竜の目撃場所まで一緒に行くのが難しそうだった。
「おお、そうだ、そうです」話していると、依頼人は何かを思いついた。「ちょっと待っててください」
家の奥へ一度、ひっこみ、戻ってきたときには、手に何か筒状のものを持っていた。
「裏の山の地図です」
言って、広げてみせる。ぼろぼろの羊皮紙で、古るそうな地図だった。
「ええっと」依頼人はその地図に、赤で印をつけた。「ああ、竜はこのあたりだす」
「そうだすか」と、口調を若干移植してしまいつつ、渡された地図を片手に裏山へ入る。
山には一応、道があり、地図と比較しながら進む。赤い印を目指す。
地図を見ながら、目的地までの行程をはんぶんほど進んだ頃だった。
着けられていることに気づく。おそらく、人間だった。四人はいる。
「そこのお前!」
とたん、現れた男たち二人に行き道をふさがれる。と、同時に、退路をもう二人にふさがれる。
手にはそれぞれ抜き身を持っている。蛮族らしい。
「とまるんだ」と、この集団の頭目と思しき男が言ってきた。「うごくな」
「いったいなんだ」
「おとなしく、その地図を渡すんだ」
「地図」指さされ、地図を見る。そして見返した。「この地図がどうかしたのか」
「わかってぜ、その地図のその赤いまる。ふはは、そこに宝があるんだろ!」
「いや、ぜんぜん、それ、わかってないぞ」まっすぐにそれを教えてみた。「この赤いまるは、宝のありかじゃない」
「しらばっくれるな! やるぞ、おおい、おまえ、嘘つくと、やるぞお、おおい!」
頭目が怒鳴ると、他の三人もややと騒ぎだす。
「でも、この地図の赤いまるは」
「おおう、力づくでもいいだぜ。俺の力で、ぶいいいん、とその地図を奪っても」
とたん、なんだかこのやり取りが面倒になった。地図を見ていて、竜の目撃場所はだいだいわかったし、なら、いいやとなり「地図を渡す」といって、丸めると、頭目へ投げた。
ただし、少し取りにくい高さへ投げる。それで相手が「うおっとっと」と、地図をつかむのに慌てているうちに、その場から駆け出し、離脱した。後ろから、ああ、待て、と叫ばれたが、待つはずもない。
距離を充分にとると、ふたたび竜の目撃場所へ向かう。ただし、ひとまず、彼らと鉢合わせしないように、途中、きれいな川があったので、休憩し、近くに生えれていた木の実をうり坊などに与えつつ、頃合いを見て再出発をした。
現場につくと、あの頭目と、三人の手下たちが倒れていた。少し焦げているため、竜にやられたらしい。
「おまえか」頭目の男は、地面に大の字に倒れたまま、声をかけてきた。そして「ふっ」と笑った。
竜にも手加減があったのか、彼らの命に別状はなさそうだった。おそらく、町のすごく強いならず者に、殴り飛ばされたぐらいの損傷度だった。よく見ると、四人とも、あたまに大きなたんこぶが出来ている。竜に、ぽか、っとやられていた。そのうえで、炎もかるく炙る程度に吐かれている。
「やれやれだぜ」頭目の男は倒れたまま、すかしてくる。「やられ、ちまったさ」
やられたのは見ればわかった。子供から、老人まで、見ればわかる。やられている。この世のなにより、やられていることがわかりやすいほど、やられている。
「はは、宝に目がくらんだ人生だった」
なんだろう、生涯の締めみたいなに突入してゆく。
とりあえず、泳がせた。
「おまえはまだ若い、俺みたいにはなるな」
「そうですか」
つい、つめたく言い返してします。すると、頭目は「俺は、少しねるぜ」といって目をつぶった。
その後、寝息が聞こえるし、本当に少し眠ったらしい。彼の近くに地図があったので、拾って広げた。やはり、このあたり赤が丸の場所だった。目の前の近くの岩のそばについている。
近くに竜の気配はない。彼らにあきれて、どこかへいってしまったのか。
それからなんとなく、地図上で赤いまるのついていた岩のそばにいった。しゃがみこんで、押していた木の枝でその場所をほじってみる。
まもなく、枝がなに固いものをつついた、さらにほじると、鉄の箱が出てきた。
箱の中をあけると、黄金の王冠が出てきた。
そして、それをどうしていいかわからない。
途方にくれた。
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