いまじゃない

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



「恐ろしい竜だと伝え聞いております、いぜん、この村の勇者といえる、屈強な男たちが、三人、竜を追い払いに向かったのですが、うまくいきませんでした。激しい戦いになり、ひとりは火傷を。その竜の巨大な身体は、目にした者に素早く死を連想させ、鋭い氷柱のような牙が生えていたとか。口から吐く炎は、他の竜とは比べものにならないほど激しいと語っておりました」

 その男性が村の代表として、これから払う竜について教えてくれた。

「うちの村の腕自慢たちがやられて戻るくらいです、わたしたちでは、まともに近づくこともできません」

「その竜は北の岩場にいるんですね」

 かんで、北だと思う方を向きながらたずねた。

「はい、竜はそこにいると聞いております。我々も、めったにいかない場所ではありますが、こどもたちが、遊びはんぶんで行かないとも限りません」

 男性はひどく不安げにいう。もしかすると、自身もそこは子供の頃は遊び場だったのかもしれない。

「恐ろしい竜ときいてます、そんな竜なのに、こんなのお願いして、心苦しいのですが、どうか」

 頼まれ、現場へ向かう。

 岩場に着くと、竜はすぐに見つかった。

 猫ぐらいの大きさの竜だった。羽根があるいが、ちょっと大きい蜥蜴にみえる。

 小さな竜と定義可能だった。岩のうえに、ちょこんといて、こちらを見て、小さな口を開き、小さな炎を吐く。炎も、一秒もなく、消えた。

 たしか恐ろしい竜だと聞いた。しかし、そこにいた竜はかなり小さい。

 きっと、この竜ではない。そう考えていた時だった。

「おい、やとわれ竜払いめが!」離れた岩場の影から、屈強そうな身体つきの男が現れた。「そこまでだ!」

 竜以外の気配はずっと感じていた。そして、いま、それが姿を現す。

 さらに別の岩影から、ほかにふたりが姿を現す。

 合わせて三人だった。みな、屈強な身体つきの男たちだった。

 見返すと、三人のなかでもっとも強そうな最初に出てきた男がその場から指さしてきた。

「やい、てめぇ!」

「はい」

「その竜のことは放っておいて、いますぐ帰れ。で、二度この村に来るな!」

「なぜ」つい、反射的にきいてしまった。

 けれど、問われると「なぜ、って、おまえ」最初に出て来た男は、戸惑い、くちごもった。他の二人を見ると、目をそらす。

 竜をみると、まだ岩の上にいた。

「とにかく、出てけ! 村には戻るな!」

「あ」

 そこでふと状況の予測がつく。そして!小さな竜を見ながら言った。

「もしかして、いぜん、この竜を払いにやってきたという、村の三人さんですか」

 回答はなかったけれど、わかりやすく、ううっ、という反応をした。人間が不味いときに出す音だ。

 それから竜を見ながらさらに続けた。

「ここの竜、話に聞いてたのと違うんですが」あえて、発言の途中で切って、三人を見た。「みなさん、きっと竜の感じを、盛って、村の人たちに伝えたんですね」

 こんな小さいにやられたと知れれば、恥になるし、ひどく大袈裟な話だったことも明らかになる。

 だから、おれの口から真実がばれるのが、嫌で、こうして襲撃を。

「だまれ! おまえら、やるぞ!」

 とたん、男たちはこちらへ迫って来た。

 ただ、その動きに反応して、小さな竜も岩の上ら飛んだ。すると、男たちは「うぎぁわん!」と、悲鳴をあげ、一目散にその場から逃げていった。

 竜が怖いらしい。

 しかし、なぜ。

 そんなに竜が怖いなら、なぜ。

 なぜ、竜とおれが一緒にいる場面で襲撃に来たんだ。

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