第十話 問題確認も重要だよね☆(問題2)
「できるわけあるか、くそったれがぁぁぁ!!!!」
こんだけの勢いで机に額を擦り付けて絶叫すればドン引きしそうなものだけど――。
「どうした、パール。そのように悩まし気なため息をついて。話してみよ。つるりん卵肌なお前を悩ませるものなど余がすべて粉砕してみせよう!」
暴力皇太子はそう言って、ぐっと拳を握りしめた。例えでなく本当に、物理的に、粉砕する気だ。私の奇行にドン引きする気配なんて少しもない。どんだけつるりん卵肌にご執心なんだよ、この暴力皇太子……とかなんとか思いつつ。
私は机に頬杖をついて、実験のために言った。念のためにもう一度、言っておく。これは実験のため。実験のために心にも思ってないことを言っているだけ。細かいことを言うなら四割くらいは思ってるけど、過半数は思ってないんだから思ってないうちだ、うん。
それでは。少々、お聞き苦しい単語が混じりますがご容赦ください。
「誰がロザリアたんを泣かせる暴力皇太子なんかに相談なんかするか、クソッたれが。て、いうか話しかけんな。こちとらイケメンのつもりで顔面偏差値にあぐら掻いてる野郎が大っっっ嫌いなんだよ。私に話しかけたいのなら、まずは性別を変えて出直してこい。別にチ〇コちょん切って、タ〇抜いて来いなんていわねえよ。ちょーっとケツの穴に〇棒突っ込んでメ〇堕ちしたうえでやっぱり話しかけずにどっかに消えろ、このチ〇カスが!!」
念のためにもう一度――。
実験のために言ってるだけだからね☆
さてさて。こんだけの暴言吐いたら普通はドン引きしそうなものだけど――。
「まるで詩を司る女神ウルミノが紡いだかのように美しい言葉! 余に心配を掛けさせまいとしてそのように健気なことを……なんと愛らしいんだ、つるりん卵肌なパール!」
「ぐふ……っ」
暴力皇太子はガバッ! と、両腕を広げて感動の涙を流した。
ちなみにくぐもった悲鳴はクライヴくんだ。暴力皇太子が勢いよく両腕を広げた拍子にクライヴくんの前方の急所を粉砕したのだ。なんて迷惑な。お前はミリも動くな、暴力皇太子。
てか、今のが本気で美しい言葉の羅列に聞こえてんなら耳鼻科に行け。あと〝つるりん卵肌な〟って修飾語をちょこちょこ付けるのはやめろ、こっ恥ずかしいから。
「……っ、殿下の仰る通り……ですっ。パールさんが紡ぐ言葉は、う、うぐ……まさに女神ウルミノが紡ぐ言葉そのもの……!」
お前もだ、クライヴくん。今すぐ耳鼻科に行け。いや、その前に急所の治療に行ってこい。
とかとか☆
乙女ゲーのメインヒロインなパールらしからぬドスの効いた低音でツッコミたいところなんだけど……多分、耳鼻科に行ったところで二人のポンコツな耳は治らない。これは『つるりん卵肌なキミに恋したい☆』という物語の強制力、メインヒロイン補正が掛かっているせいだ。
そうでなければ暴力皇太子はさておき、むっつりスケベオーラこそ漂っているものの常識人っぽいクライヴくんまでさっきの暴言を聞き流しているのはおかしい。絶対におかしい。
この物語の強制力とその強力さこそが二つ目の大きな問題だ。
「とは言え……」
物語の強制力やメインヒロイン補正をどうにかする方法は全く思い付いていない。どの攻略対象キャラとのルートに進むかについても正直、決められない。だって、私か悪役令嬢たちのうち、少なくとも一人が死ぬことになるのだ。
そんなこと――。
「できるわけあるか、くそったれ!!」
私は頭を抱えて机に突っ伏した。でも、こうやって悩んでいるあいだにも物語は進行し続けている。
だから――。
「とにかく! まずは!!」
小さな問題から対処していかないといけない! 差し迫っては皇太子との重要イベントを発生させず、皇太子ルートからいつでも離脱できるように準備をすること。
それが、私が目下しなければいけないことだ――!
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