閑話① 洗顔指南
これはロザリアたんと私――。
前世ではごく普通の女子高校生な佐藤 美咲、今世では乙女ゲー『つるりん卵肌なキミに恋したい☆』のメインヒロインなパール・ホワイト――な私がルームメイトになった夜のお話。
***
授業に夕飯、お風呂も終えて部屋に戻ってきた私とロザリアたんは、二人並んで洗面台の前に立った。もちろん夜の洗顔指南をするため。思春期ニキビを滅殺するためだ。
「よーく泡立てて、ふわっふわの濃密泡を作って。この泡で優しーく顔を包み込むんです! ごしごし洗うというよりは撫でる感じです!」
泡立てネット代わりに使っているのは、前世のヘチマによく似た植物――ルーファを輪切りにして、乾燥させたスポンジだ。ヘチマよりも目が細かいし柔らかく、ふわっふわの泡が作りやすい。
「今朝も思いましたけど、固形だった石鹸がふわふわの泡になるのを見ていると……なんだか不思議な気持ちになりますわね」
ルーファスポンジでふわふわ濃密泡を作りながら、ロザリアたんが困り顔で微笑んだ。
今日、生まれて初めて石鹸を目にし、手に取ったロザリアたんからすると固形物がぬるぬるになって、さらに泡立ち始めるのは〝不思議〟らしい。今朝、石鹸を水に濡らしてからさわったときも、ぬるぬるとした感触にかたまり、泡立ち始めると今度は目を丸くしていた。
ちなみにロザリアたん。お風呂上りということで、すでにゆったり罪深ワンピース姿です。うん、マシュマロおっ……天使か女神!!
「それにしても、どうして一日二回なんです? ニキビの原因がパールさんがおっしゃる通り、顔についた目に見えないキンだというのなら、徹底的に何度も顔を洗った方が良いのではないですか?」
「え、えーっと……それは……」
ふわふわ濃密泡で撫でるように優しく! 洗い過ぎは厳禁!! 一日二回まで!!! ……と、いうのは覚えているのだけど。どうして洗い過ぎると良くないのかはよく覚えていないのだ。
「た、確か……洗い過ぎると必要な何かまで洗い落してしまって肌に負担がかかる……とか?」
洗い過ぎてはいけない理由もこれくらいの、曖昧な説明しかできない。首をすくめていると、せっせせっせとふわふわ濃密泡を作っていたロザリアたんが顔を上げた。
「なるほど。薬も過ぎれば毒……この石鹸もまた、適切な量、頻度で使わなければならないということですわね。腑に落ちる説明ですわ、パールさん」
とんでもなく頭の悪い説明にもかかわらず、ロザリアたんは真剣な表情でうなずいてくれた。多分、お世辞なんかじゃない。ロザリアたんのそういう天然で優しいところは、やっぱり天使で女神だと思う。
でも、なんていうか――。
「これって……」
私の曖昧で拙い説明をロザリアたんが補ってくれる……って!
「初めての共同作業じゃない!? 結婚式のケーキカットみたいなものじゃない!!?」
「え……?」
「これはもう、このままロザリア・ホワイトたんに改姓させちゃうしかない! つるタマ世界、夫婦別姓みたいだけど改姓させちゃうしかない!!」
「え、え……?」
困り切っているようすのロザリアたんの胸の内にあるだろう疑問についてはそっと受け流し、私はシュバッ! と、両腕を広げて天井を仰ぎ見た。
「朝チュンからの!」
「朝チュ、え……?」
「同棲開始からの!」
「いえ、ですから、ただのルームメイト……」
「ついに初めての共同作業! ロザリアたんとの仲は順調かつ急速に進展している! ……と、いうことは今夜は初夜!?」
「しょ……!?
天井に向って高らかに叫ぶ私を見つめて、ロザリアたんはかたまった。
かと思うと――。
「何をおっしゃっているのかはわかりませんが……お願いですから妙なことはなさらないでくださいね? パールさん、聞いてらっしゃいます? パールさん!?」
顔を真っ赤にして、キッ! と、目をつりあげた。
……なんていうか。
慌てふためているロザリアたんもやっぱり天使で女神!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます