第34話 告別式でギンギン


 葬儀とは別に、身近の者だけが集まって王妃に別れを告げる場がもうけられた。


 六年前、晴れやかな結婚式を行った礼拝堂に王と白雪はもちろん、王妃の父や継母、義理の兄妹たちが集められた。


 親族の女性は伝統的なベールをかぶることになっており、白雪と王妃の継母、王妃の義姉妹は黒いドレスに黒いベールをすっぽりとかぶった姿で参列した。


 カレンは白雪の世話係として同席していた。


 カレンと侍女は親族ではないのでベールはかぶらないが、漆黒のドレス姿なのは同じだった。


 王妃が安置されるひつぎの前で、王妃の父だけが人目もはばからずに泣き崩れていた。


 カレンには黒いベールのどの人が誰なのか、さっぱりわからなかったが、誰一人として、急あつらえのように見えるローブを着た王妃の父のようには泣いていないようだった。


 カレンはベールの下の白雪の手を握っていた。


 顔はうかがい知れないが、小さなその手は、とても冷たかった。


 白雪がお別れをする番になり、カレンは小さな手を引いて祭壇さいだんの前に立った。


 よいしょと抱っこして、白雪を母の死に顔と対面させる。


 王妃は、まるで眠っているかのように安らかな顔をしていた。


 白雪は母の顔に手を伸ばした。カレンがもっと白雪を上げようと抱き直すと、ふいに王が手を伸ばしてきた。


 ひょいっと白雪を抱き上げ、カレンに「ご苦労だった」と、声をかける。


 カレンは頭を下げて一歩、退しりぞいた。


 王は白雪と共に安らかな死に顔を見下ろす。


「大きくなったな」


 王のその言葉は娘に向けられたものだった。王はもう一度言う。


「大きくなったな。以前より重くなった」


 その優しい眼差しに白雪は王の首に抱きついた。


「お母さま、ネンネしているの?」 


 そうだと言って欲しいと、その小さな声は礼拝堂に響いた。


 カレンも侍女も、グッと目頭が熱くなる。


 王はベール越しに、娘の頭をでた。


「そうだな……ずっとネンネだ」

「ずっと?」

「そうだ。ずっと、ずーっとだ。だから邪魔をしてはいけないよ」

「はい、お父さま……」

「いい子だ」


 侍女とカレンは、父と娘の関係が正しい方向に修正できたのではないかと感じた。


 死を近づけるほど気にんだ王妃のねんは、その死をもって正常な親子関係に結び直すことができ、カレンはこれが王妃の役割りだったのではと思う。


 全員が別れの言葉を王妃にささげ終わり、王はベールをかぶる幼な子を侍女に返した。


 もちもちの白雪の尻の感触を腕に感じたはずなのだが、王はそんなことをおくびにも出さず、目を細めてカレンを見下ろした。


「ご苦労だな。これからも白雪を頼んだよ」


 王はカレンの金色の髪をで、優しく声をかける。


 カレンはスカートを少しつまみ上げ、軽く膝を曲げて「はい。ありがとうございます」と返事をした。


 王の目にイヤらしさはなかった。


 それよりも、娘の死に泣きらした目で、頭の先から足の先までめ回すように見てくる王妃の父の視線に不快ふかいさを感じながら、カレンは白雪を連れて礼拝堂をあとにした。


「白雪、王様に抱っこしてもらえて良かったね」

「うん! お父さま、だ〜い好き!」


 母の死という深い悲しみは、父の愛情で少しは薄まったようだと感じ、カレンは白雪と同じように王を好きになった。


 しかし、ガチ変態はそう簡単には治るはずはない。


 に服す一年とは言わないが、せめて葬儀が終わるまでガマンするようにと、硬く言われれば言われるほど変態の鼻の下はガマン汁で匂い立っていた。


 白雪のベールが、ガチ変態ロリ王の初恋の妖精とそっくりな姿を隠したことは幸いだった。


 そうでなければ、我が子をひと目見ただけで鼻水を噴き出すという離れ技を披露してしまったことだろう。


 やはり、そう時間を開けずに王はカレンを寝所に呼びつけた。

  

 白雪と遊んでいたカレンは、家臣の出迎えに驚きつつ、ふと、白雪を誘うことを思いつく。


 家臣は、王はカレンだけを所望しょもうしていると断ろうとするが、王の寝所で嫌な思いをさせられなかったカレンは、母を亡くした娘が父と会おうとすることに、なにを反対することがあるのかと、くってかかる。


 王がカレンでナニをしたいのか知る家臣は、白雪姫を連れて行けば叱られると思う反面、に服している今、少女を呼びつけたと批判が出ることを防げるのではと考えた。


 まさか、実の娘に欲情はしないだろう。


 あの変態なら、そうとは知られずに姫の美しい世話係でヌくことは朝飯前のはずだ。


 家臣はそう思い直して首を縦にふった。


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