第32話 抱き合って寝よう
二人では鏡を抱えてあの狭い階段を降りられないからと、移動は後日、考えることにして、白雪とカレンは、一旦、部屋に戻った。
すると、部屋では王妃の侍女が気を
「ああー! どこに行っていたのですか! と、とにかく、お戻りになられて良かった。王妃様の葬儀の日取りが決まりましたよ」
母を亡くした子にかける言葉ではないだろうとカレンは
しかし、白雪はその意味がわからず首を傾げた。
「そうぎ? ひどり?」
「あ、申し訳ありません。王妃様のお葬式をあさって
「……うん、わかったー」
カレンには白雪が理解していないとハッキリと見てとれたが、侍女は仕事をひとつ終わらせたと、うやうやしく頭を下げて出て行った。
「白雪、本当にわかったの?」
「うん、明日の明日は早起きしなくちゃってことだよね?」
「まあ、そうだけど……」
カレンは白雪が頭のいい子供だと思っていた。しかし、それは、周りの大人のいうことを聞いておけば良いということを理解しているだけで、小さな子供に噛み砕いて説明してくれ、膝を折って目線を合わせてくれる大人が皆無だということを今さらながら思いしる。
膝に座らせて、いろいろなことを教えてくれた自分の父のような存在は、この城の中に存在しない。
(いや、みんなが変態だと陰口をたたく王様は白雪の父親だ。そうだ、お父さんなんだから……)
ガチ変態ロリ王に、それほど嫌な思いをさせられなかったカレンは、そういう密室の行為はエスカレートする可能性があると思い
危険を察知する力が
「王妃様は残念だったけど、ずっと病気だったし……でも、白雪には王様がいるから! 一人じゃないんだからね!」
「あのね、お父さまは国王なの。だから、簡単には会えないんだって。とても忙しいから、お父さまが呼んでくれるのを待たなくちゃならないんだって」
「それ……誰に言われたの?」
「お母さま。絶対に一人でお父さまに会ってはいけないんだって」
「そ、そうなんだ……」
10歳のカレンには、なぜ、あの程度のことを女の子にはさせられないのか理解できなかった。
ただ一つ確実なことは、小さな姫も自分も、とても疲れているということだった。
カレンは、すっかり忘れられている白雪と自分の食事を厨房に直接出向いて用意してもらい、魔法の鏡をどこに置くかなどと話しながら早々にベッドに入る準備をした。
満腹になると白雪はふわっとあくびをした。
カレンは微笑んで小さな姫を寝衣に着替えさせる。
二人で並んで歯を磨き、二人で髪をふたつに結び、二人でベッドによじ登る。
カレンは、いつものように向かいあって白雪の背中を優しくたたいた。
「白雪? 鏡さんの魔法の言葉なんて、よく知っていたね」
「鏡よ、鏡ってやつ? なんでだろ……お母さまに聞いてたのかも」
「そっか。そうだよね……うん、きっと、そうだ」
「うん」
まだ、夕焼けが部屋を赤く染めている時間帯だが、白雪のまぶたは閉じていった。
小さな黄金の姫の寝息を聞きながら、カレンは鏡の言葉を思い出していた。
『
『思っていたよりも影響を受けている』
魔法の鏡だから男の子だと見抜かれていることも母のことも、すべてわかるのが当たり前だと思って聞いていたが、思い返すと、全部、わかっているのではないらしい。
『妖精の粉にまみれて生まれた……』
(これは、どういう意味だろう? 黄金の姫と呼ばれているのは、あくまでも美しさの
『魔女を箱に閉じ込めて鍵をかけ、その鍵を違う箱に、その箱の鍵をまた違う箱に……』
王妃も “箱に鍵をかけて” と言っていた。
(鏡の最初の持ち主は女の子……白雪のお母さんのお母さんも持ち主だったってことは、母から娘へ? 最初の持ち主が白雪の祖先なのかなぁ……あれ? 王妃様は嫁いで来た人だから白雪がどこかへお嫁に行ったらどうなるんだ? あれれ? わからないことだらけだ……)
カレンもまた、睡魔に逆らうことなく落ちていった。
翌朝。カレンは、いつもなら今日のドレスは何色にしようかと白雪と二人で選ぶはずなのにと、すでに用意されていたドレスにため息を振りかけていた。
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