第23話 大出産!
陣痛が始まり10時間以上が経過した。
王妃の心臓は、押し寄せる陣痛の波が引くたびに心拍数を減らしていっていた。
(腹の子はそれほど大きくはないようだが)
城の老医師が最後にお産を取り扱ったのは国王が生まれた時だったので、もう45年も前の話だ。
しかも、魔法を
お産が思い通りに進まず、母子に命の危険が迫った時、通常ならば母体を優先させる。しかし、王族の血をなによりも
王の子を救うために王妃の腹をかき切って取り出せと言い出す者も現れ、老医師は困り果ててしまう。
その時、王妃の侍女が大きな音をさせて扉を押し開き、息をせって駆け込んできた。
「王妃様!」
侍女は、顔面蒼白で冷たい汗をかく王妃に駆け寄る。
「次の陣痛でいきますよ! 私も一緒にやりますから!」
実は侍女は、頼りない老医師に見切りをつけて町の産婆からコツを教わってきていた。
「失礼します!」と、ガバッと王妃にまたがり、陣痛がくるタイミングを推しはかる。
「いいですか、痛みから逃げてはダメです。大きな波に乗って子供が出てくるところを想像して。さあ、行きますよ!」
侍女は、あてた手の平から王妃の腹がこわばり、硬くなるのを感じ取った。
全身の骨が粉々に砕かれる痛みと、股間の皮が引きつれて裂ける痛みに逃れようとするのは当たり前のことだが、それらから逃げようとしていては腹の子を押し出すことはできない。
侍女は、王妃が
痛みの波に合わせて王妃に深呼吸をさせ、波がきたら口を閉じて痛みの全てを股間に集中させる。
何度か繰り返すと王妃はコツをつかみ、侍女が腹を押すタイミングもぴたりと合って徐々に
「王妃様、次で産まれます。大丈夫です。じきに終わります」
幼い王妃は気丈にうなずき、陣痛の波が来たことを侍女に知らせた。
「ん〜!」
痛みを真正面から受け止め、骨盤はミシミシと音を立てるが王妃は逃げなかった。
「おんぎゃ〜! おんぎゃ〜!」
次の瞬間、元気な産声が城内に響き渡った。
「こ、これは⁈」
産み落とされた赤ん坊を見て老医師は目を疑う。
その
その金の粉に思い当たるフシがある侍女は、しかし、理由を話すわけにもいかないと驚く老医師と同じように驚いてみせた。
「黄金の子……」
老医師の言葉に、痛みが引いた王妃は首をもたげて足の間の我が子に視線をやる。
元気に鳴き声をあげながら手足をバタつかせる様子に、王妃は微笑んでつぶやいた。
「こんにちは……」
母の笑顔を見せる王妃に侍女は我に返る。
「おめでとうございます、女の子でございまよ。さあ、産湯に……王妃様はお体を拭きましょう」
その日、王国に100年ぶりの雪が降った。
女児誕生の一報は国を駆け巡り、諸外国から婚約の申し込みが殺到した。
たいして豊かではない国の姫が、生まれたばかりだというのにプロポーズされまくる理由は “黄金の姫” であると噂が広まったからだった。
しかし、そんな
それらは、偉業を
それは、我らがガチ変態王の美少女産業が全幅の信頼をおかれていたからに他ならない。
王の目にかなった少女は間違いなく美少女で、美女に育つ。そんな
そんな伝説級の美しさをすでに持つ赤ちゃんだから “黄金の……” と、呼ばれているのだ。
エロ貴族やスケベ王の勝手な解釈は一人歩きをし、噂は噂を呼ぶ。
始めは赤ん坊を手に入れたがる男達を軽蔑し、自分達の地位が
そのうち「奥様のご長男と年齢が釣り合うのでは? 羨ましいわ〜」と、歳の近い男児を持つ家は
金持ちの虚栄心はそれだけで満たされる。
そして、黄金の赤ん坊を手に入れれば不動の地位と巨万の富が約束されると信じる者も現れ、国王の子であるから、あながち外れてもいないと
《あとがき》
さあ、白雪姫が誕生しましたよ!
二十三話にしてやっと主人公が生まれるという、この暴挙。
すんませーん( ̄∀ ̄)
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