第16話 ある意味絶倫


 その日の夕暮れ、王はいつものように少女たちに別れを告げ、その残影ざんえいと残りが消える前に早々はやばやとベッドに入り、鼻の下をびろ〜んとばしていた。


 巨大な鳥かごのようなハーレムでも、いつものように幾度いくどとなく昇天しょうてんしていた。


 その様子をティンティンとタンポ、家臣の三人は木々に隠れて見ていたのだが、葉っぱからしたたり落ちる、鼻の下がびろ〜んとびた瞬間にき出た、濃厚で白濁した液体を見て、ティンティンはあきれたと声を上げる。


「ぜんっぜん、薄くなんないなんてどんなスキルやねん!」


 家臣はそれを無視してティンティンとタンポに手のひらを差し出す。


「さあ、急いで乗って下さい。王はこの後、しんしょで四・五回は鼻の下をばして寝てしまいます」

「それ、毎日⁈」

「はい、ルーティーンです」

「アッチョンブリケ!」


 タンポは、いまひとつ乗り気でない様子を見せた。


「ねえ、本当にやるの?」

「いまさら、なにを⁈ すでに王妃を眠らせているのですよ⁈」

「だからさー。せめて、同意を取ってからとか……」

「誰が世継ぎのためとはいえ、こんな妖精を……」

「こんなって! こんにゃろめ〜のパープリン!」


 妖精言葉は理解できないが、プンプンと頬をふくらませて憤慨ふんがいするティンティンを尻目に「さいは投げられたのです! 急ぎますよ!」と家臣は歩みを早める。


 すべては王家存続のため。


 そのためには王と王妃に顔をそむけられてもかまわないと心に決めていた。


 誰にも出会わないことを祈りながら胸元むなもとに二人の妖精を抱え、王の寝所しんしょに向かう廊下を小走りに進む。


 背中で扉を押し開き、二人を床におろした。


 ベッドでモソモソとしている王の気配を感じながら、そっと、テーブルに置かれた王愛用のティーカップをちょうだいする。


「いいですね。この中にびろ〜んを出させて下さい。そうしたら、私がすかさずティンティンとこれを王妃の部屋に運びます。タンポは王が追ってこないように引き止めておいて下さい」

「ガッテンしょうちのすけ!」

「もー、ティンティンってば。なんでそんなにノリノリなの?」


 眉間にシワを寄せる親友に、ティンティンは満面の笑顔を見せた。


「アタイの魅力のおかげで人間の子供がこの世に生を受けるのよ! 素晴らしいじゃない! しかも、その子が王様になるんだから、人間の世界も魔法の森もアタイたち妖精も、み〜んな、ハッピータ〜ンだよね〜」


 長年、この幼児体型で飛べない妖精とつるんで来た美しい妖精・タンポは、親友の性格をよく把握していた。


「で? 本音は?」

「アタイが国母こくぼじゃ〜! あの顔面オカメチンコで体型リアルチンコのフェアリーグランマザーの脳天を踏みつけて、ウンコの上で土下座させてやる〜! アタイをのけ者にしてきた積年せきねんの恨みを今、晴らす時が来たのじゃ〜!」


 妖精とは思えない悪い顔をして、ガハハと下品に笑いあげるティンティンを見て(ああ、つまはじきにされていた自覚はあったのね)と、そこまで無神経ではなかったことに安堵あんどしつつ(その性格がフェアリーグランマザーの悩みの種だったのよ)との言葉を飲み込み、ついでに(体型リアルチンコはティンティンじゃん)と、ツッコミたい気持ちも飲み込んで、親友の肩に手を掛けた。


「わかったわ、ティンティン。動機は不純だけど人間のために一肌ひとはだ脱ぐのは良い行いだと……思う……フェアリーグランマザーも理解してくれるわ。きっと……たぶん……」

「なによ、その奥歯にチン毛がはさまったような言い方! 問題ナッシング! このアタイの魅力にあがらえるモノなどいない! さあ、王よ! 存分ぞんぶんに沼落ちするがいい!」


 すると、人の気配に気がついた王が手を止めて、顔を向けた。


「そこに、誰かいるのか?」


 家臣はすかさずティンティンをわしづかみにしてティーカップに放り入れ、王のベッドに投げ飛ばす。









 



《あとがき》 

 目がかゆい〜。

 自転車で通勤中に前が見えなくなる〜。

 鼻の中がかゆい〜。

 マスクに汁が染みてくる〜。 

 全身かゆい〜。

 きな粉餅の気持ちがわかる〜。

 けっこう重症じゃね⁈



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