第15話 おティンティン


 しかし、長い一日に疲れた頭をふって、その恐ろしい発想を振り払った。


(妖精を傷つけることは出来ない。それよりも責任を取って妖精の力で王の性癖を治してくれと……)


 その時、ティンティンの言葉に家臣は耳を疑った。


「それにしても、あの子。相変わらずアタイの頭にぶちまけてくれるわよねー。なりはオッサンになっても中身は変わらないんだから。アッチョンブリケ」


 懐かしそうに遠い目をしながら両頬をムギュッとつぶす幼児体型の妖精に家臣は聞き返す。


「相変わらず? 以前にもあったのですか?」

「そうよ。茂みから、どんどん近づいて来てとか、昼寝をしていたら突然とか。髪にかけないでって言ってるのに〜彼ったら好きみたいで〜。どんだけ〜」


 家臣の中で、漠然ばくぜんとしたアイデアがいてくる。


 幼児体型でずんむりむっくりな体型。真ん中分けの髪が肩でくるりとカールをする、そのフォルムを凝視ぎょうしする。


(王は決して少女たちに汚いものを見せなかった。天使のように可憐かれんな乙女をけがすまいと細心の注意を払っていた。そんな王が、このチンチクリンでポッチャリ幼児体型の妖精にぶちまけていた⁈ 妖精とはいえ、異性に向けてぶちまけることができるとは、なんたる吉報きっぽうか)


 家臣は姿勢を正し、現在の跡継ぎ問題を正直に話して聞かせた。


 しかし、人間よりもはるかに長い寿命を持つ妖精にとっては、実にくだらない問題にしか聞こえない。


 ティンティンは鼻で笑い飛ばす。


「だからなに? 人間の王様なんて誰がなってもオケ丸でしょ? あんたがなれば? 一応、オスなんでしょ?」


 黄色の美しい妖精・タンポは、ティンティンよりは人間の事情を理解していた。

  

 呆れた顔で友人をたしなめる。


「ティンティンが面白半分で王子様に変なことを教えたんでしょ。そのせいで、この数年、お城は迷惑をこうむっていたのよ? お城だけじゃないわ。少し前まで川の水に白濁はくだくしたなにかが流れ込んできたって、森が騒いでいたの知らないの? あれも、跡継ぎ問題の弊害へいがいだったのよ」

「え! アタイのせいだって言うの⁈」

「そうよ。川の水を浄化するのに何年もかかったんだから。まあ、馬屋番に動物たちが襲われなくなったから良しとするかって、フェアリーグランマザーが許してくれていたのよ」

「ガビーン。あのオカメチンコ、なにも教えてくれないから……でも、アタイにはどうしようもないわ。人間をはらます魔法なんてないし」


 家臣はタンポに感謝を示しつつ「では、性癖を矯正きょうせいする魔法は?」と、食い気味に聞く。


「んなもんあるかっ! あ、性力増強の薬草ならあるけど……でも、跡継ぎ問題じゃなくて跡継がないで問題が発生するかもね〜」


 ケタケタと笑い飛ばすチンチクリンな妖精に殺意を覚えるが、グッとこらえて慎重に言葉を選んだ。


「おティンティン様の……」

「“お” をつけるんじゃねー!」

「すみません! ……ティンティンの責任だと思ってくれますか?」

「アタイだけのせいじゃないわよ! あのガキに変態の気質きしつがあったのよ!」

「まあ、そうですが、それをあおったというか増長させたというか……?」

「う。それは……アイムソーリー・ひげソーリーだけど……」

「へ?」

「悪かったってことよ!」

「では、協力してくれますか?」

「はあ……アタイになにをさせるつもり?」


 家臣は、腕を組んで生意気なまいきに顎を上げる幼児体型の妖精に、真っ直ぐに立ってみてくれと言う。


 そして、少し離れた場所にタンポを連れて行き、ティンティンを見るように言った。


 トーチの灯りは背後から直立不動ちょくりつふどうのティンティンを照らし、先端の割れた寸胴ずんどうのシルエットを浮かび上がらせた。


「どう思います?」

「どうって、見事な筒型つつがたの……あら、イヤだ。これって……」

「ね? そう見えますよね?」

「チン……」

「はい。小ぶりですが王妃にはジャストサイズかと」

「でも、妖精は妊娠させられないわよ」

「王様のタネを頭に……」

「ティンティンに塗りたくってってこと⁈ それで上手くいくかしら⁈」

「やってみる価値はあると思います」

「王様はなんとかなるとしても、王妃様に説明できないでしょ!」

「深く眠りにつく薬草はありますか?」

「それってレイプドラッグじゃん! そんなことに妖精は手を貸さないわ!」


 タンポの言うことは正論だと家臣も充分にわかっていた。


 しかし、家臣はこれしか方法はないと力説する。


虎視眈々こしたんたんと王座を狙う者がおります」


(これは本当)


「そいつらが国を手に入れれば、魔法の森は伐採ばっさいされ……」


(……るか、わからないけど)


「火をはなたれ……」


(……るわけ、ないだろうけど)


「あなた方の住処すみかはなくなります!」


(そうなったらの話だけど)


「魔法を使う者とそうでない者の戦争が起こりかねない!」


極論きょくろんだけどー)


 外国の侵略しんりゃくにでもわないかぎりは、魔法の森に手を出そうなんて不埒ふらちやからはこの国にはいないのだが、なんとしてでも心優しい先代の無念むねんを晴らしたいと、家臣はミュージカル俳優さながらに身振り手振りで訴えた。

  

 可憐な妖精タンポは耳を疑う。


「せ、戦争⁈」

「そうです! ここは三つの大国に囲まれた小さな国です。しかーし、魔法の森の恩恵おんけいを狙う者は大勢いる! 歴代の王達が守って来たのです! その王の血筋をやさないことは、すなわち森を守ること! 森を守るのは妖精の仕事でもあるでしょう!」


 平和なこの国にいても、諸外国の内戦やゴタゴタの噂は流れてくる。


 ティンティンと違い、常識と良識を持ち合わせたタンポは、王が変態になったのは我が友が原因であり、それを放置した自分の罪も少しはあると感じていた。


 離れた場所で、大人しくイチモツのようなシルエットを見せるティンティンを一瞥いちべつし、家臣に向き直る。


「わかったわ。魔法の森を守るためになにをすればいいの?」


 家臣は心の中でガッツポーズをする。


「まずは、ティンティンに王の前に姿をあらわしてもらいます。そして……」











《あとがき》

 金曜日、お疲れ様でしたー。

 家臣がおティンティンでなにをするつもりなのか……次話はR15に抵触しないようにサックリと、アッサリと、皆さまの想像力にお任せして進みます! ←作家としてダメな開き直りですw

 お楽しみに〜^_^




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