第12話 髪にかけないでよ〜


「クシュンッ。オエッ」


 今度はハッキリと聞こえた。


 家臣はポケットの中のパンティを握りしめ、足元の葉っぱに目をらす。


 すると、違う場所から小さな声が聞こえた。


「ほらー、気づかれちゃったわよ?」


 見ると、可愛らしいタンポポが揺れている。


「だって、頭からかぶっちゃったんだもん」


 その声は、白い液体をポタポタと落とす、葉っぱの下から聞こえた。


「そこは危険地帯だって言ったじゃない」


 またもや、タンポポが揺れる。いや、よく見ると、それはタンポポではなく、タンポポのように黄色い髪をした小さな妖精だった。


「よ、妖精⁈」

  

 この国の者は妖精をよく見る。しかし、それは子供の頃に限ったことで、大人になってから見ることのできる人間はひとにぎりもいなかった。


 家臣は手のひらほどの小さな妖精に目をこらした。


 タンポポのような黄色い妖精は、笑みを浮かべて家臣に挨拶をする。


「こんばんは。私はタンポ」

「タンポン⁈」

「ちゃうわ!」


 すると、葉っぱの下から笑い声がした。しかし、その声は笑いきれず、えづき始める。


「タンポンって! おもろ……オエッ、ヴェッ、吸い込ん……クサッ、オエッ、ゲェッ、助け……オエ〜」


 エロエロと何かを吐いている音がする。


「もー、ティンティン。大丈夫?」


 タンポは、細いウエストをねじりながら、軽やかに歩いて葉っぱをめくる。そこには、真っ白なベールをかぶった、もう一人の妖精がオエ〜と、吐いていた。


「あの、大丈夫ですか? 具合でも……」


 家臣が声をかけると、タンポは手を振り「大丈夫よ」と、笑顔を向ける。


 そして、葉っぱの下の妖精から白いベールをがし始めた。


 よく見るとそれはベールではなく、ベタベタモッチリとした液体だった。


 目をらして近づいて、臭いでその正体がわかった。


 家臣は思わず謝罪の言葉を口にする。


「も、申し訳ありません!」

「なんで、あなたが謝るの?」


 タンポは白いベタベタをティンティンと呼んだ妖精の頭から両手ですくい取り、ぺッと投げ捨てる。


 その作業が進むにつれ、ティンティンは漆黒しっこくの髪が美しい、ぽっちゃりした体型の妖精だとれた。


「あの、我が主人あるじが知らぬとはいえ、妖精さまに粗相そそうを……」


 タンポが肩を揺らして笑う。


 薄暗いはずのハーレムで、なぜか妖精の姿は表情までもよく見えた。


 それもそのはずで、妖精たちはみずからの力で全身をふんわりとした優しい光で包むことができるのだった。


「ここは、場所でしょ? こんな時間に王様があらわれたのは驚いたけど、王様がここに立ったのに、ボーッと下からながめていたティンティンが悪いのよ」

「ボーッとなんて、してないもん」


 ティンティンは小さな頬をふくらませる。


 家臣は、スレンダーなタンポも美しいが、ぽっちゃり体型のティンティンは王の好みドンピシャだと、目を細める。


 頭からかぶってしまった可愛らしい妖精に、もう一度、心からびを入れた。


「申し訳ありませんでした。おティンティンさま」

「“お” をつけるんじゃねー!」


 タンポとティンティンは、この温室ハーレムにたびたび遊びに来ていると言う。


「ていうか、もともと、ここは私達のテリトリーだったのよ」


 黄色い妖精・タンポが言うには、深い森の魔法の恩恵おんけいを受けた池のまわりに王がこれを建造してしまい、池が汚染されたり枯れたりしていないか忍び込んでチェックしなくてはならなくなった。


 そのため、この建物の目的を知り、ついでに王の趣味を間近まじかで見ることになったのだが、妖精にも似た美しい少女たちをでているだけなので実害はないと放置していた。


 その結果、まさか夜に王が来るとは思わず、葉っぱの下でサボって寝ていたために頭からベタベタをかぶることになった妖精・ティンティンは悪態あくたいきまくる。


「まったく、人間はこんな臭いものを出さないと子を宿やどせないなんて、本当、効率の悪い作りよね。しかも、ただ出したくなるなんて、ワケワカメよ。そもそも、なんで、こんなに臭いのよ。チョベリバって感じ〜」


 家臣は(ワカメ……? チョベリ……?)と、謎の妖精言葉に首をかしげつつも曖昧あいまいうなずく。


 タンポはあきれた顔でティンティンを見る。


「そもそも、昔、ティンティンが王様に見つからなければ、こんな建物が立つことも、私達が夜な夜なチェックしに来ることもなかったはずじゃない。ティンティンが悪いんでしょ」

「うわっ! げきおこプンプン丸! 勝手に王様がフォーリンラブしたのよ! アタイにメロメロになる気持ちはガッテンだけどね」


 やはりティンティンの妖精言葉は理解に苦しむが、それでも家臣はタンポの言う “見つからなければ” の、意味をうた。


「ああ。まだ王様が10歳くらいの時にね、ティンティンと出会っていたの。そしたら……」

「はーい! 当事者とうじしゃであるアタイが説明いたしまーす!」


 手をあげたティンティンの、謎の妖精言葉の説明はこうだった。


 今から三十四年前、ティンティンは仕事をサボって人間界で流行りのパラパラの練習をしていた。


「三十四年前? もうパラパラは流行っていなかったような……?」

「だまらっしゃい! 最後まで聞きんしゃい!」

「しゃ、しゃい⁈」


 謎の妖精言葉は続く。














《あとがき》

 うわ〜い! ギフトもらっちゃった〜!

 信じられない! 

 萌木野めい様、ありがとう〜♡

 (リンクの貼り方がわからない不届き者でごめんなさい(>人<;))

 

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