第11話 夜のハーレム


「し、しかし、乙女たちは皆帰っております。無人でございますが……?」

「うむ、かまわない。パンティを用意せよ」


 長年ながねんこの変態につかえる家臣は、なにをするつもりなのかさっした。


 そして、少年のような空気をまとうこの王は、言い出したらきかない子供のような性格だとも知っていた。


 巨大な温室ハーレムに明かりがともされる。


 昼間、少女たちの笑い声が響くそこは、しんと静まりかえり、トーチの明かりに木々が深い影を作っていた。


 小さな子供向けの遊具も、水草が花をつける池も、昼間とは違うおもむきで、王は嬉々ききとしてお気に入りの壁の裏に回り込んだ。


 そして、手を差し出す。


 家臣は、その手にポケットに入れたままになっていた王妃のパンティを置いた。


 王は、いつも美少女たちをのぞくと決めている葉っぱに、そのパンティをそっと置く。


「どうだ、これはソソられるだろう。それにしても、お前は本当に頼りになるな」


 いつの間にパンティを用意したのかなど、王にとってはどうでもいい。


 とどこおりなく望みを叶えてくれる者がいれば、それで良いのだ。


 家臣は、君主くんしゅめられたことは嬉しいが、これでは子作りミッションが後退してしまうと危惧きぐした。


 そして、美少女産業も。


 そんな家臣の気持ちなど、これっぽっちも気にする様子もなく、王は緑の葉の上の、純白のパンティの置く位置に頭を悩ませる。


 情けない気持ちで肩を落としながら王のが終わるのを待った。


 しかし、王は手を止めた。


 そして、身の毛もよだつことを口にする。


「おい、いてみてくれ」


 はぁ⁈ あんた正気か⁈ と、国家の最高権力者にむかい顔が語ってしまう。


 躊躇する家臣を王はかした。


「いいから、早くせよ!」

「は、はい!」


 いくら王の頼みとはいえ、パンティに足を通すなど、ましてや、その姿をさらすなど簡単にできるはずがない。


 しかし、王は真剣な眼差まなざしで家臣を見つめた。


 顔だけ見れば、世の為・人の為に自分の人生を差し出さんと硬く決心しているように見えるが、下半身はガッチガチのままで、変態を通り越して脳みそが海綿体かいめんたいなのでは? と、勘繰かんぐってしまう。


 家臣は恐る恐る腰紐こしひもをゆるめ、ズボンをそろりと下ろした。


 靴を片方ずつ脱ぎながらパンティに足を通す。


 両手でパンティを持ち上げると、毛むくじゃらのふくらはぎに引っかかり、上がらなくなってしまった。


 子供サイズの下着をこうというほうが間違っている。


 どう頑張ってもパンティの穴は膝上には通せなかった。


「王様、これ以上は上がりません。破れてしまいます」

「うーむ。では、仕方がない。そのままでおれ」


 変態王は、薄暗い公園の一角で純白のパンティをふくらはぎにく、すね毛ボーボーのおっさんの足元を見ながら、鼻の下が伸びてこないか待った。


 しかし、やはりと言うか当たり前だと言うべきか、いつまで待っても鼻の下はでろ〜んと伸びてこない。


 王は努力を続けるが、通る足の毛むくじゃらさに、さすがにをあげた。


「えーい! お前ではダメだ! 少女をここへ呼べ!」

「し、しかし、王様。すでに夜中です。少女たちはおねんねの時間です」

「そ、そうか。おねんねか……」


 王は、指をくわえながら夢を見る、長いまつ毛でクルクル巻毛の美少女を想像する。


「お、おお……」


 鼻の下は瞬く間にでろ〜んと伸び、結局、いつもの葉っぱに放出して城に戻って行った。


 子供のパンティを中途半端にいた家臣は、ボー然と立ち尽くす。


(こんなはずかしめを受けると分かっていたら王妃のパンティをぎ取るようなマネはしなかったのに……)


 なぜだか涙が出ちゃう、だってオッサンだもんと、鼻をすすりながら一人パンティを脱いでいると、どこからか、クシュッとくしゃみをする声が聞こえた。


 誰もいないはずの薄暗い温室ハーレムで、家臣は辺りを見回して耳をすませる。


 しかし、くしゃみのようなその音は聞こえない。


 空耳そらみみだったかとパンティをポケットにしまうと、今度はカサッと葉をふむ音がした。


「だ、誰だ!」


 ここは、王の家族がプライベートで使う庭よりも、もっと奥まった魔法の森に近い庭だ。


 そんな場所のこんな時間に誰が王のハーレムに忍び込むというのか。


 家臣は、ウサギかリスでありますようにと祈りながら辺りに目をこららした。



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