第9話 変態のギア


 王妃となった娘は身を清め終わり、長い髪をすいてもらいながら鏡にむかってため息をいていた。


「王妃様。王様はとてもお優しい方です。王様に身をまかせておけば、すべて良きにはからって頂けますよ」


 侍女は幼い王妃がおびえていると思っていた。


「ありがとう」


 大人びた顔は、笑顔を作ってみせる。


「お城の人達は、みんな親切ね」

「当たり前です。皆、王妃様を心待ちにしておりましたから」


 しかし、幼い王妃は、実は自分は家族から厄介払やっかいばらいされたと気づいていた。


 物心ついた時には、すでに母はおらず、そんな自分を父は大切にしてくれた。それが継母ままはは兄姉きょうだい達の反感をかった。


 学校にも行かせてもらえず、父が屋敷に帰って来る日だけ、部屋から出ることを許された。


 父に連れられてお城の公園で遊んだ時、王の姿をチラリと見かけたが、それよりも同じ年頃の友達ができたことが嬉しかった。


 日を開けずに城に遊びに行っていた楽しい時間は一年ほどして禁止になってしまった。


 また、家族から冷たく扱われ、部屋に閉じ込められる生活が始まって二年ほど経ったある日、父が投獄とうごくされたと聞いた。


 もう、二度とこの部屋から出してもらえることはないと涙したのもつか、父は家に帰って来れたが自宅軟禁状態だった。しかし、大切にしてくれる父といられることは幸せだった。


 継母ままははと父のケンカがえなくなって来たある日、また、城に行けると言われ、友達に会えると胸がおどった。


 城に行く数日前、父がその理由を話してくれた。


 普通の娘ならば、その栄誉えいよに半狂乱で家族と喜びを分かち合っただろう。しかし、王妃に選ばれた喜びよりも、友達に会えるのではない落胆がまさった。


 そんな娘の様子をさっして、お前を売るようなマネをしてすまないと父は涙を流した。


 幼い王妃は、たった数日、世話をしてくれた侍女に、そんな心のうちを話して聞かせた。


 侍女は、なにかしらの事情がない限り、王様といえども30も歳上の男にとつぐはずがないと思っていたので、その事情に心を痛めた。


 あまりに幼い王妃に必要なのは世話係ではなく友人だと心に決め、自分と友達になろうとハグをする。


 そして、本来ほんらいならば男子を産んで正式な王妃になってから知らされる部屋に案内をした。


 その城内とは思えない殺風景な部屋の真ん中に大きな姿見すがたみが置かれていた。


 侍女はその姿見の布を取り外し、魔法の言葉を口にした。


「鏡よ、鏡。出て来ておくれ」


 姿見すがたみの中央がゆらゆらと波打ったと思いきや、ぼんやりと男性の顔が浮き出て来る。


『あれ。今度のおきさきはんは、ずいぶんとチンチクリンでんなー』


 鏡の中の男は幼い王妃に遠慮なく毒をいた。


 魔法の鏡は、代々、王妃が守って来た代物しろもので、魔法をあやつる者が森を守る王家に感謝して与えた物だと侍女は言う。


 『鏡よ、鏡』と、呼べばあらわれ、なんでも答えてくれる。


「なんでも⁈」

『まあ、死んだらどこ行くねんとかは、やめてくんなまし。わて、死なんさかい興味ありゃしませんわ』


 おかしな言葉を使うと幼い王妃は笑う。そして、友達の行方ゆくえを聞いた。


『ああ、あんたさんと王様の変態 遊戯場ゆうぎじょうでパンツ見せて遊んどった、あの子でんな。えーと、今はピアノの先生になりたいゆーて、音楽学校に進学したみたいでっせ。ま、やりたいことと、やれることは別ってことでんな。先生にやめろ言われて噛みついたみたいでっせ』


 噛みついた⁈ と、王妃は笑う。


 他の友達の近況も聞きたいが、時間切れだと侍女が止めた。しかし、この部屋は王妃の部屋なのでいつでも使ってかまわないと言う。


「鏡さん、ありがとう。また、来るわね。あなたの名前はなんて言うの?」

『な、名前⁈ そんなこと始めて聞かれましたわ。えーと……好きに呼んでええで』

「そう。じゃあ、今度、来る時に考えておくわね」

『よろしゅうな〜』


 鏡の顔は消え、幼い王妃の笑顔がうつる。


「さあ、王妃様、お時間ですよ」

「うん。ありがとう、元気が出たみたい」

「それは良かったです。さ、王様がお待ちですよ」







 まだ、日が落ちる前、侍女は幼い王妃を引き連れて王の部屋に向い歩く。

 

 王の部屋の前に立ち、侍女がノックをするとドアは内側から開いて側近の家臣が顔を出した。


 家臣はジロジロと値踏ねぶみをするように幼い王妃を見下ろす。侍女は王妃の前に立ちふさがり、その視線をさえぎった。


 家臣は無言でドアを押さえ、二人を部屋に入れる。


 王は部屋の奥にある大きなベッドの上に腰を下ろしていた。


 それを確認した侍女と家臣は、頭を下げて部屋を出る。


 大昔は、本当に王の子か確認をするために初夜を公開する習慣もあったそうだが、心優しい先代の王が、それはしき習慣だと廃止にしていた。


 王は所在しょざいなさげにたたずむ幼い少女を見る。少し大人びてはいるが自分的にはギリOKだった。


 王妃の足首を見る。くびれのないそこは、ドンピシャだ。


 王は足フェチだった。しかも、モチモチとして足の指先がまん丸く、爪の小さな足がタイプだった。


 いつもは見ているだけで満足しているが、触っても良い、むしろ触った方が良い日がくるとは思っていなかった。


(まずは、優しい言葉をかけてリラックスを……)


「今日は疲れただろう。ここに座りなさい」


 王はベッドをトントンと叩いた。


 王妃は、父親ほど歳の離れた王の隣にちょこんと座る。


「休めたかい?」


 王はつとめて優しく言い「本当はいけないのだけど」と、クッキーを差し出した。


「ベッドでものを食べると怒られるんだよ。だから、これは内緒ね」


 ウインクする王に、幼い王妃はクスッと肩をすくめて笑った。


(か、可愛いー!)


 変態のギアが入る。












《あとがき》

 お疲れ様です。

 なんとか改稿しながら頑張っております。

 今日は休みなので思いっきり寝ました。

 で、腰が痛いです。なぜ⁈


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