第2話 美少女産業


 王は若い娘を集めてハーレムを作っていた。


 しかし、その幼い少女たちを傷つけることは決してせず、一緒におままごとや絵本を読んで遊んだり、おやつを食べながらマナーを教えたりと愛らしいほお仕草しぐさを見ては、鼻の下を伸ばしていた。


 その少女たちは成長とともに王の好みではなくなり家に帰されるわけだが、泣く泣く娘を城に送り出していた両親は帰された娘が上流階級のマナーと言葉遣いを学び、洗練された美しさを身にまとって戻ったことに驚きを隠さなかった。


 王の目にまるほどの美少女は当然、美しく成長した。そして、その娘たちも、やがてはとついでいく。


 美しく、賢く、上流階級のマナーを身につけた彼女たちは寵愛ちょうあいされる。


 そして、高値たかねがついた。


 それは人身売買などではなく、地位も金もある男にわれ、第二・第三夫人や愛人におさまり、時には正妻を亡くした貴族の跡取りを生むなど確固たる地位を築く者もあり、この国の彼女たちの実家は潤っていく。


 家に潤沢じゅんたくな資金が流れ込めば、その屋敷で働く労働者階級の者にも恩恵おんけいはいった。


 金銭の余裕は心の余裕につながり、教育が行き届き、識字率しきじりつの高さは近隣諸国の比ではなくなり、生活 困窮者こんきゅうしゃは消え、治安の良さは世界一だといっても過言かごんではなくなる。


 そして、他国の王に見初みそめられた者は、愛人だとしても一家もろとも貴族の仲間入りをはたした。


 それがまた、この国のハーレム出身者だというブランド力を上げた。


 この国を囲む、三つ大国のすべての王に彼女たちは溺愛できあいされ、この国を侵略するなどと思う不届きな王は存在しなくなった。


 治安の良さは、小さなこの国にさらなる恩恵おんけいをもたらす。


 他国との貿易ぼうえきのさいの、物流の拠点きょてんになったのだ。


 三つの大国のすべてから、通行の関税を取るだけで外貨が稼げる。


 たった一人の王の趣味のおかげで、ここまで国がさかえるなど、誰が想像できただろうか。


 少なくとも、白雪の母が嫁いで来た時点では、誰もが王の性癖を治そうとしていた。







 白雪の父である現国王は少年の頃から小さな女の子に興味を示し、先代の国王は王子の矯正を国家の最重要課題にした。


 王子は思春期を迎えても同年代の女性には興味を示さず、手をこまねいていても仕方がないと先走った家臣が王子のベッドに娼婦を潜り込ませたが、その妖艶ようえんな姿を見た王子が、げぇ〜と嘔吐おうとして寝込んだと報告を受けてから、王は跡継ぎをもう一人作る必要に迫られたと感じた。


 好色こうしょくな王でなくとも、ある程度の地位のある男ならば公然こうぜんと愛人をかこっているものだが、この王は心のつながりを大切に思う高潔こうけつな男だった。


 政略結婚とはいえ、妻一人を愛し、妻もそれにこたえた。共に手を取り、小さな王国を守っていた仲睦なかむつまじい夫婦だったが、どういうわけか子宝は王子一人しか恵まれなかった。


 王は、立派な男子を生んでくれた、大切に育てれば良いと気にむ妻を慰め、公妾こうしょうを置くことをしなかった。


 その結果がこれである。


 聡明そうめいな王妃は、自分が子供を生むのは難しい年齢だと気がついていた。


 そして、家臣たちの進言を涙ながらに承諾しょうだくし、家臣たちは家柄の良い、若い娘をあてがった。


 王は王妃以外の女体にょたいに興味がないわけではなかったが、王妃を心から愛していた。


 なので、この娘にも愛を感じてほしいと、お互いを少しでも理解しようと提案する。


 しかし、娘は首を横に振った。


「父から男子を身籠みごもるように言われております。覚悟はできております。どうぞなぐさみものに……」


 高潔こうけつな王は、このような行為は覚悟をもってのぞむものではないと思っていた。


 その夜、心優しい王は娘に触れなかった。


 家臣たちは王の王妃に対する深い愛情に感涙かんるいしつつ、次の相手を考えなくてはならなくなった。


 次期国王の母君として相応ふさわしい身分があり、かつ、王をその気にさせられる者。


 公爵家にとつぎ、三人の男子に恵まれた、王からは従兄妹いとこにあたる女性に白羽の矢が立つ。



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