白雪姫はガラスの靴なんてお断り

ヌン

第1話 私は白雪


 昔々、あるところに深い森に囲まれた小さな王国がありました。


 平和な国の穏やかな国民たちは、心優しい王さまが再婚されると聞いて心から祝福し、国中がお祝いの準備に忙しくしていました。


 そんな中、いよいよ今日は新しいお妃を迎える喜ばしい日だというのに、お姫さまは純白の靴下だけを身につけた、あられもない姿を大きな姿見すがたみにうつして、ため息をついていました。









「お父さまったら、白雪だけを愛してるって言ったのに……」


 陶磁器のような白い肌に艶やかな黒髪。薔薇のように紅い唇に、思わずつまみたくなる小さな小鼻。


 14歳の、大人になる数歩手前の体を鏡に押しつけて、白雪姫は鏡の中の自分にキスをした。


 はぁーと、ため息が出るたびにくもる鏡を唇でいていると、ふいに、背後に男が現れて裸の白雪姫を見下ろした。


 その男は美しい金糸の髪を後ろにたばね、整った顔立ちは礼拝堂の聖母像を思わせた。


 その切れ長の淡いブルーの瞳に見つめられ、白雪姫は白い肌をほんのり桃色に染める。


 その男は薄い唇を開き、そして呆れたように言い放った。

 

「よくまあ、きもせず……」


 白雪姫は可愛らしい小鼻にシワをよせる。


「カレン、邪魔しないで」


 カレンと呼ばれた男は、ハイハイと肩をすくめて白雪姫が脱ぎ散らかした下着を拾い集めた。


 そして、部屋のすみに置かれた、頭のないひとがたに着せられた純白のドレスと、内臓を二分にぶんするようなあり得ない角度のコルセットを見比べた。


「白雪、コルセットはつけないのですね?」


 白雪姫はキッとカレンをにらむ。


「邪魔しないでってば!」


 大きな姿見すがたみに向き直り、自分の体をあらためて舐めるように見回した。


 国一番とほまれ高い顔も、誰も触れたことのない未開の体も完璧としか言いようがない。


 そんなを目の前にして、王すら理性を失ったというのに、目の前の聖母を思わせる美しい男は眉ひとつ動かさない。


「さ、早く支度したくをしなくては。新しい王妃さまを機嫌よくお迎えして下さいよ」


 城だけでなく街中に大輪たいりんの花が飾られ、人々は正装をして国中が祝賀ムードにわいている。


 そんな中、白雪一人が苦々にがにがしく爪をんでいた。


「お父さまったら私だけを愛してるって言ったのに」


 白雪の実母が亡くなって久しかった。


 王の子供は女の子である白雪しかおらず、家臣から次の王妃を迎える話が出るのは当然のことなのだが、肝心かんじんの王はすでによわい69。


 到底、跡継あとつぎが望めるとは思えないが、白雪が苦々しく思うのはではなかった。


 なんと、王、みずからが結婚を望んだというのだ。しかも、王族の娘でもなんでもなく、外交に出向いた国の、とある貴族のめかけおんなだという。


「絶対、なにか裏がある」


 家臣にそう訴えたが、父をとられる寂しさの裏返しで、14歳の思春期の一時の気の迷いだと取り合ってもらえなかった。


「バカばっかり」


 白雪はひざまずくカレンの肩に手を置き、純白のドレスに足を通しながら悪態あくたいく。


「ええ、本当にその通りだと思いますよ」


 カレンは、その美しい手を動かして白い肌にドレスを着せていく。


「コルセットは着けなくて良いのですね?」


 背中のひもをクロスさせ、腹の前に回してリボンを作る。


「コルセットなんてしたら、お父さま好みの体型にならないじゃない。お父さまは幼児体型にそそられるのよ。もっと上で結んでちょうだい」


 カレンは主人あるじである14歳の少女に従い、胸の真下に紐を結び直した。


「靴はかかとの低い靴にしてね。小さな女の子に見えるように」


 白雪はかされた白い靴のかかとをトントンと床に打ちつける。


「髪はどうしようかしら? 上げたら大人っぽくなってしまうわね。ティアラよりもリボンの方が幼く見えるかしら?」

「花嫁よりも王の目をくつもりですか?」


 カレンは呆れた目を向ける。


 そう、この国の王はロリ……とても若い女性を好む困ったへきがあった。












《あとがき》

 えー、改稿しました。で、新しい作品として再出発いたしました。

 突然「14歳・25年」が読めなくなり、驚かれた方もいらっしゃったと思います。エロすぎて公開停止になってしまいました( ; ; )

 すでに多くの方に読んでいただいていたので、このままエタるのは非常に申し訳なく、ヌンの『書き始めたからには死ぬ気で完結させるぞい!』という初心にのっとった再出発です。

 どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。

 m(_ _)m

 

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