7.男の決断

「前回の「フェンリル」に続き、厄介な「ダンジョン・トロール」まで!おめでとうございます!!」


前回同様。いや、それ以上にギルドが騒然とする。

さもありなん。Dランクはもちろん、Cランクを含んだ冒険者でもままならないクエスト。

それを、DランクとEランクの二人組で達成したのだから。


・・だが、男自身、今の状況に現実感が持てず、全く別のことを考えていた。


(また同じ受付嬢。・・・案外、人手不足なのか、このギルド?)


「そしてもう一つ!おめでとうございます!!今回のクエスト達成により、Dランクへのランクアップとなります!!」


「・・・なに?」


「うおぉぉぉーー!!」


この世界の冒険者は、Fランクからスタートし、そのほとんどがDランクまでで終わる。

つまり、ランクアップの機会は、一人頭2回程度。そんなに目にかけることは無い。


そんなまあまあ珍しい瞬間が、まずまず珍しい討伐報告と同時にあったのだ。

たまたま居合わせた周囲が、興奮してもおかしい事ではない。


「・・・・・・」


それを、黒フードの男は、外から眺めるように冷静に見ていた。



「・・まずは、Dランク昇格おめでとさん、兄さん」


「・・・ああ」


当人たちを余所に、それを話のネタに、ちょっとした宴会が周囲で起こっていた。

・・だが、二人は沈黙がちだ・・・


「・・まぁ、」


沈黙を破り、黒フードはいつものように軽く振舞う。

だが、男にはそれが「振り」であることはわかった。


「俺の兄さんはどうやら相性がいいようだ。この際どうだ?

思い切って受けられるようなBランク挑んでもいいし、Dランクの楽なクエストでしばらくのんびりしてもいい」


「・・・・・いや、」


男は決断し、黒フード・・・彼の相棒をやってくれた男を真正面から見て、告げた。


「あんた・・・あなたの助けは、もう大丈夫だ・・・」


「・・・・・」


黒フードは一瞬、真顔になる。だが、やはりその感情の仮面は外さず、


「ははっ。死ぬつもりだったのが、窮地を脱した途端いらないという。・・兄さん、あんたも相当のワルだねぇ」


「・・そう思ってくれて構いません」


男は静かに断言した。


「・・どういうつもりかは知りませんが、あなたは相当・・少なくとも、私などよりずっと上の「剣の腕前」を持っている。そうですね?」


「・・・」


黒フードは答えない。それが答えと男は察した。


「フェンリル討伐の際は、自分自身がいっぱいいっぱいで気づきませんでした。」


「・・だけど、ダンジョン・トロール戦。あの時は、雑魚の相手もしなければならなかったので、周囲も見えました。・・そしてあなたも」


「・・・・・・」


やはり黒フードは答えない。つまり、男の勘は的外れではないと言う事だ。


「魔術の腕の良し悪しは、私はわかりません。おそらく、おっしゃる通りDランクなのでしょう。・・ですが、「剣士」のランクなら」


「・・そう思うなら何故、組むのを断る」


黒フード、いや、「凄腕剣士」は、初めて素の態度を見せた。


「・・・もしも、あなたの腕前が今の私の及びそうな範囲なら、乞うたかも知れません。・・・だけど、貴方の実力は遠すぎる」


「どのくらい遠いかすら、未熟な私にはわかりません。・・・そんな方と一緒に冒険するのは、私自身がダメになってしまいます」


「そうか・・・」


再び男たちの沈黙。・・・だが今度は、未熟な男の方から破る。


「私は、もっともっと強くなります!あなたのように。・・そして、少しでもあなたに近づけたなと思えたその時、改めてお礼をさせてください!」


「それまで俺は・・・生き抜いてみせます!!」


それを聞いて凄腕の剣士は、満足そうに「怪しげな黒フードの男」として言う。


「はっ!それでこそ兄さんだ!!」


こうして二人の男は、別々の道に歩き出した・・・

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