6.男の選択
男は、討伐の証である「フェンリルの首」を、黒フードと共にギルドに持ち帰る。
DランクとEランク二人での快挙に、周囲にいた冒険者がしばしどよめく。
「・・・確かに、クエスト達成です。報酬をどうぞ」
たまたまだろう。達成報告を受けたのは、そのクエストを受けた際と同じ受付嬢だった。
何となく、嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか・・
「・・・さて、想定外の事態だろうが、多分だが、入り用の額には届いていないんじゃないかい、兄さん?」
「・・・・・・」
図星である。
男はもちろん、今回の報酬の自分の分け前分、つまり半分全てを、今まさに困窮にあえいでいる家族に送るよう手配した。
だが、これでもまだ厳しいのは事実だ。
「さて、どうするかい?・・・もう一度俺と組んで、もっと高報酬のやつに挑んでもいいんだぜ?」
その言葉に、男はハッと相手を見る。
「なぁに、やることはこの前の奴と変わらない。「調子に乗ってまた挑んだが、今度はしくじった」。そんなシナリオでどうだい?」
「あんた、は・・・」
黒フードはおどけるように続ける。
「おおっと、今度の取り分は俺が6にさせてもらうぜ。それは文句ないな?」
相変わらず下卑た笑いだ。客観的に見れば、最低なことを言っているように見えるだろう。
「・・ああ、それでいい。また頼む」
だが男は、自分でもマヒしてしまっていると思いつつ、その提案に乗った。
そして受けたクエストは、同じくCランクの「ダンジョン・トロール退治」。
その名の通り、「ダンジョン・トロール」を討伐すればよく、この魔物自体は力と体力はあるものの、総合的にはフェンリルが勝る。
なのに何故、先より高難易度・高報酬設定されているかと言うと、これまたその名の通り「ダンジョン内に巣くう」魔物だからだ。
ダンジョンは、そのイメージ通り魔物の巣窟。
しかも、奥に陣取っているダンジョン・トロールと戦っている際も、その戦闘音に近くを徘徊している魔物が集まってくるため、
(雑魚が割って来て、トロールに効果的なダメージを与えられない!!)
決定打に欠けたまま、体力勝負に持って行かれる。
そうなると、体力自慢のトロールの思うが壺だ。
「ちっ、後ろから横から、嫌なタイミングで増援が来る!」
黒フードの方も、襲い掛かってくる雑魚の対応で手一杯のようだ。
(これ以上時間をかけると、どうしようもなくなる・・・無理にでも飛び込むしかない!!)
割り込んできた2体の雑魚魔物を、これまで通りとりあえず斬り伏せる。
・・・ように見せかけ、1体を斬った後、残り一体は無視し、そのままトロールに飛び掛かる!
「ムホッ!?」
意表を突かれ、攻撃のテンポがずれたトロールは、男にその出っ張った腹を斬られる。
「ムホ―――!!!」
だが浅い。追撃を掛けようとした所に、先程無視した雑魚魔物が後ろから襲ってきたので、やむなく撃退。
「ムヒーーーーー!!!!!」
その間の一瞬で十分だった。腹を斬られ、怒りに燃えるトロールは、人間が喰らえばひとたまりもない一撃粉砕の棍棒を振り上げる。
(あと一手、あと一手あれば!!)
バチィィーッ!!
それは一瞬だった。
雑魚魔物の相手をしていた黒フードの放った雷魔法は、雑魚を「貫通」し、振り上げたトロールの腕にちょうど当たる。
「ムァ!?」「いまだ!!」
機を逃さず男は、トロールの心臓目掛け、全体重をかけた剣をくり出した。
「ムホ!?・・ホッ・・・ホ」
断末魔の後、息絶えてトロールが静かになると、その場にいた雑魚魔物も一目散に逃げだした。
・・・男たちは、またもや生き残ったのである。
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