3.男の誤算

「兄さんのさっきのやり取りは見てたよ。EランクでCクラスのクエストを受ける。よほど切羽詰まってるようだね」


「・・・だったらどうした」


男は覚悟を決めている。「今更どう見られようと、変える気はない。」と言わんばかりの表情で、黒フードに返す。


「なるほどなるほど。だが一応言っておくが、兄さんが思うだけの金は手に入らないと思うぞ」


立ち去ろうとしていた男は、その言葉にピタリと足を止め、険しい表情で聞く。


「・・どういうことだ?」


「このクエストを見事達成した場合は、言うまでもなく提示された報酬が手に入る。

Eランクが一人で倒したとなれば、今後にも大きく繋がるだろう。それは間違いない」


「だがもし不幸にも、・・いや、兄さんの場合かなりの可能性だな。やられて命を落とした場合。

その場合、EランクがCクラスのクエストを受けた上での死亡となり、見合った多額の保険金が受取人に送られる。

・・・とはならないだろうってことだよ」


「何故だ?」


黒フードは、心持ち同情するように説明する。


「ギルドだって馬鹿じゃない。「Eランクが二つ上のCクラスのクエストに単独で挑む」なんて無謀、

半ば自殺行為の命がけの保険金狙いくらい考えつく」


「そりゃあ、本当に実力のある奴がいるかも知れないから、止めはしないが・・」とちいさくつぶやき、


「それに該当するかは、ギルドの保険調査員が確認すればまずわかる。」


「例えば、今回のクエストは凶暴な魔獣退治だが、死因は元より、倒されなかった魔獣が受けたと思われる傷の程度でも変わってくる。

もし戦闘で受けたと思われる傷が無いなら、自殺とみなされ保険金が出なかったり、出たとしても半値くればいい方だな」


「・・・・・・」


男は愕然とする。


「さっきの受付嬢が、確認してきただろう?あれは純粋に兄さんを気にかけてかも知れないが、その辺りを含めた事務的な通告でもあるのは事実だな」


「・・・そうか」


受付嬢だって仕事だ。この際、対応についてはどうでもいい。

想定していた額のお金を、家に送れない可能性が高いことを男は憂えた。


「・・・・・・だとしても、俺にはもうこれしかないんだ」


「・・そんな兄さんに提案があるから呼んだのだが?」

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