第29話

2035/11/25(日)  午後三時四十五分 邸宅・客室A号室 長良ながら折神おりがみ加藤かとう・ウィル・ラウ


「こいつの中身を確認しましょうぜ」といってラベル未記入のVDヴァイオレット・ディスクとラベルに“No.2”と書かれたVDを懐から出していった。


 未記入のVDをパソコンにほりこんで、内容を確認するべくVDフォルダを開こうとするとパスワードウィンドウが開いた。


 私に任せてくださいとウィルはパソコンと自身を繋ぐと、パスワード解析に入った。


 恐ろしい速度で解析ウィンドウが、数十枚開きあっという間に解析する。


 さすが擬体のなせる業といったところか、肉体を機械に置き換え、電脳というモノに身を移したウィルならではの技だ。


 パスワードが全角十五文字打ち込まれ、VDのフォルダが開いた。


 地図や見取り図の詳細なモノが展開されてくる、「コレは? どこの地図だ?」と加藤さんがいう。


 ウィルが颯爽さっそうと整理していく、データ整理なら任せてくださいというふうに。


「封鎖区画EF1659Bの地図ですね」と、ウィルが答えを弾き出した。


 ウィルが重要なルートだけ印刷に回した、レーザープリンターが地図を吐き出していく。


 ウィルがラベル未記入のVDを抜いた。


「ウィル、もう一つも頼む」と“No.2”とラベルに記載のあるVDを渡した。


 やはり厳重なパスワードがかかっている、さっきと同じことになった。


 だがこちらは何かの化学式のようで、構造体データもかなり細かく載っている。


 薬のデータだと分かった、精製方法や何かも詳しく載っているものだった。


 加藤さんがいった「どうやって壊すかだが、VDは熱や衝撃にかなり強い仕組みになっている。ヒビ割ってから王水で溶かすか?」と。


「王水は材料がありますから、作れんことはないですが。溶けますかね?」と俺がいう。


「ドリルで細かな穴をあけてから、王水にぶち込めばいいんでは?」とラウがいった。


「最悪44マグナムで穴開けますか?」と折神も乗った。


「その手にしよう」と加藤さんがいったところで時計が十八時の鐘を鳴らした。




2035/11/25(日)  午後六時 邸宅・客室A号室 長良・折神・加藤・ウィル・ラウ


「ウィル、ラベル未記入のVDを複製できるか?」と加藤さんが聞いた。


「未書き込みのVDがあればできます」とウィルが答えた。


 俺はデスクから箱を取り出し未開封の黒いVDを一枚取り出してウィルに渡した。


 ウィルが新品の黒いVDを開封し、ラベル未記入のVDを複製し始めた、だがパスワードは入力済みの物を作るようで少し手間をかけていた。


 複製し終わると、俺がVD専用の運搬トランクを用意した。


 厚み十センチ、縦横三十センチほどのアルミ系の色合いの、特殊合金使用の運搬トランクである、重量は一キロ程度だがかなり頑丈なつくりになっている。


 その中に一枚黒いVDをケースに入れて、ケースサイズの穴に嵌め込むようにしてそいつを入れた。


「一旦、私がこの原版二枚を預かろう」と加藤さんがその二枚のVDヴァイオレット・ディスクを懐に入れた。


「運搬トランクは突撃班に渡そう、二班から五班までの三十六名を動員しよう。その間我々は、藍を死守しなくてはならないが」と加藤さんがいう、そして検非違使けびいし神戸分署八課に電話をかけた。


「二班で取りに来るそうだ、受け渡しは午後九時に車寄せのところだ」とも続けられる。


「飯がそろそろですな」とラウがいった、時計は十八時二十分を示していた、半から夕食だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る