第11話

2035/11/24(土)  午前十二時四十分 長良さんの隠れ家・ダイニング アイ香織かおり長良ながら折神おりがみ


「ご馳走様でした」と私はいった。


 その時、インターホンが鳴った。


 長良さんがダイニングから出て行く。


「副課長! なんでこちらに」と長良さんがいった。


 副課長さんが偉い人が何で? “一部の人は知っている”というのはこのことだったのかと思った。


 だけど長良さんに用事があるなら電話で済むのでは? と思っていたのだった。



2035/11/24(土)  午前十三時 長良さんの隠れ家・リビング 藍・長良・折神・副課長


 副課長さんもイケオジだった真剣にこちらを見つめる瞳の色は青だ、ダブルかな? と思った。


 黒髪をオールバックに決め、暖かめの色のジャケットに青のシャツを着こんでいる。


「私は検非違使けびいし神戸分署八課で副課長をしている加藤というものだ」とはっきりといわれた。


「これはどうしても必要なんだ、私も心苦しいが……規定だから曲げるわけにはいかない」と副課長の加藤さんはそういって茶封筒に入った手紙を私の前に差し出した。


「これは?」と私は聞いてその文字を見た、“藍へ”と書かれている。


 その字はお爺さんの字だと思われた、筆跡鑑定をした訳ではないがそう思うのだ。


 そして封を切るとおそるおそる開けて中身を読み始めた。



“藍がこの手紙を読んでいるときは、多分私はもうこの世にいないだろう、そして私が頼んだものも辿り着いてないだろう。今まで口五月蠅く言ってすまなかった。お前のためと思う勢いからつい口を出た言葉なのだと分かって欲しい、三日前に居なくなったお前を探すために警察と探偵社を回ったが受けてくれたのは探偵社だけだった。だが多分、探せてはいまい。この手紙を持って私、秋山善三ぜんぞうと父母秋山奏多かなたと秋山めぐみ、が持っている全ての財を秋山藍にすべて託す。すまない藍これは遺言状なんだ。何もしてやれなくてすまない、だからせめて財を全て受け取ってくれないか。この封書は知己の加藤亮二りょうじに託す。”と書かれていた。



 自然と涙が落ちた、「どうして、どうして副課長さんがこの封筒を持っているのですか?」と泣きながら聞いた。


「お爺さんのいう知己とは私のことなんだ」と加藤さんはいった。


「助けられなくてすまない」と深々と謝られた。


 リビングから出て、部屋に向かう途中に長良さんがいた、静かに抱きしめられた。


 耐えられなくって泣き出してしまった、堪えられず嗚咽も漏れるが長良さんは泣き止むまでしっかりと抱き留めていてくれた。


 そして二人でリビングに戻った。



2035/11/24(土)  午前十三時十分 長良さんの隠れ家・リビング 藍・長良・折神・副課長


「少し落ち着きました。お爺さんが亡くなったのは事故なんですか?」と聞いて父母と書いてあったことも思い出した。


「父と母は……」と声を絞り出した。


「お三方とも事件だ」と加藤さんが静かにいった。


「警察の管轄でね、手が出せなかったんだ。昨日まで、今日から私たちの管轄になったんだ」と加藤さんはいう。


「解決を望みます」と今度はしっかりと声が出た。


「全力を尽くさせてもらう所存だ」と加藤さんが力強くいわれた。


 その横で「すまない、ウチの上司らがもう少しものを考えられれば、直ぐに解決の意図口がどこにあるのか分かったはずなのに、現場を考えない管轄主義の頭の固いものばかりで……」と折神さんが私に誤った。


「折神さんがなぜ謝るんですか?」と私は不思議そうに聞いた。


「折神その辺にしておけ、お前が謝っても時代は変わらない」と加藤さんがいう。


「ただ君の護衛に長良と折神を付けたままにする」と加藤さんはいった。


 香織さんは一人ダイニングに居る、関係者ではないからということなのだろう。


「長良、香織君によろしく言っておいてくれ」と加藤さんがいった。


 そして加藤副課長は帰って行ったのである。


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