ピザの世界大会で2連覇したオーナーのお店


Kがフィレンツェ市内を2時間彷徨ってもお店が決められず、代わりにらぷんが秒で決めたお店は、ピザの世界大会で2連覇したオーナーが経営するピッツェリアだった。

お店の中に入ると、薄暗い間接照明とテーブルにある小さなランプがお洒落な空間を作り出し、周りの客はフィレンツェに住む地元のカップルたちばかりだった。


らぷんはお店に入り、ウェイターに案内された席に座った瞬間悟った…



「ここは…男2人で来る店やない……」



このお店に入るまではフィレンツェ市内を2時間もずっと歩いていて疲れてるし、お腹はさっきからずっとグーグー鳴っていた。

「もう美味そうなお店ならどこでもええわ!」とらぷんもどこかで思っていたから、秒でこのお店を選んだ。

しかし、デートで来るようなお洒落なお店だし、メニューはらぷんたちが考えていた予算よりも少しお高めで、どう見ても貧乏男子大学生の観光客であるらぷんたちはこのお店の中で浮いていた。


らぷんたちがメニューを見ていると、「Ciao!」と陽気なコックが話しかけてきた。



『Are you ゲイフレンズ!?』



コックとの会話一発目がこれである。


「いや!なんでやねん!!!

男2人で来ているからってゲイフレンズちゃうわ!

高校の友達や!」


らぷんはそうツッコミを入れると、コックはゲラゲラ笑っていた。

きっと、この時にコックにツッコんだせいで、らぷんたちは奴に「こいつら…ジョークがいける口か!」と思われたに違いない。


「うちのお店に男2人で来るなんて珍しいと思ったんだ。観光客かい?どこから来たの?」

「そう、観光客なんよ。日本から来たで。」

「へーっ!ジャパニーズかい!?俺、日本語喋れるよ!!」

「えっ!そうなん!?ちょっと喋ってよ。」



『キチガイ!!』



ブッッッッッ!!!!


目の前でKが吹き出した。


「なんっでやねんっ!!!!なんで知ってる日本語がキチガイなんっ!?」

「他のジャパニーズも知ってるよ〜。」

「ほな、それも話してや。」



『おっぱい大きいお姉さん!!!』



今度はKもらぷんも吹き出して、涙が流れるほどゲラゲラ笑った。

言っておくけれど、ここはピザの世界大会で2連覇したオーナーが経営する、フィレンツェカップル御用達のお洒落な店である。

かっこいい彼氏を連れた可愛いイタリアのお姉さんが周りの席にはたくさんいる中での、コックのこの爆弾発言である。


まぁ、日本語だから聞かれても何言ってるのか周りのカップルはわかんないんだけど。



「ねぇ、なんでそんな変な日本語しか覚えとらんの?」

「前に来た日本人が教えてくれた〜」


おいっ!前に来た日本人!!!

なんつーこと教えとんねんっ!!このコックに!!


「注文決まった?」

「決まったよ〜」

「ちょっと待ってて、今’’おっぱい大きいお姉さん’’呼んでくるから〜」

「あんた注文取らんのかいっ!!」


そしてコックは厨房へと姿を消した。


余談だけど、さっきの会話もちゃんと’’おっぱい大きいお姉さん’’の部分だけは日本語だった。



そして、しばらくするとちゃんと’’おっぱい大きいお姉さん’’が注文を取りにやってきた。


いや…お姉さんというか、どっちかって言うとおばちゃんって言った方が見た目的には合ってた。


「あなたたちゲイカップルなんだって?」


だ!か!ら!

ちゃう言っとるやろぉぉぉぉぉ!!!!!!


「じゃあキチガイ?」


それも違うわぁぁぁ!!

何、言っとんじゃぁぁぁ!!!あのコック!!!


「おっぱい大きいお姉さんが好きなんだって?

私、おっぱい大きいでしょ?」


もうらぷんはツッコミ疲れたし、実際そのおばちゃんはおっぱい大きかったし、テキトーに流した。


「うん。お姉さん、おっぱい大きいね。」

「でしょ?貴方なかなか私のことわかってるじゃない〜」


いや、おばちゃんが自分でおっぱい大きいって言ってただけよ…


「私、嬉しくなっちゃったわ!

一緒にタンゴ踊りましょう!!!」



イマ…ナンテ……?



そう思っている間に、らぷんはおっぱい大きいお姉さんに手を取られ、席から立たされる。


「いやいやいや!!!無理無理無理!!!

タンゴなん踊ったことないで!!!」

「あら、初めてなのね!

今お店にかかっている曲がタンゴだから、一緒に踊りましょう!

大丈夫よ!アタシがリードしてあげるわ!」


いや!そういうこと、ちゃうねんっ!!!


おっぱい大きいおばちゃんがらぷんの腰に手を回す。


「ララララララ〜♪♪」


おばちゃんは歌い出して、らぷんと手を繋ぎ踊り出した。

らぷんはタンゴなんか全然わからんし、ノリが全く意味わからんけど、おばちゃんに合わせてステップを踏んでいた。


「あなたタンゴのステップが上手ね!」

「いや、だから…タンゴなん知らん言うてるやろ!」

「良いのよ!知らなくて〜

タンゴのステップなんか、私も知らないし〜」


アンタも知らんのかいっ!!!!!!!




わけわかんないままタンゴを踊り終えて、最後はクルッと回って決めポーズまでかましたらぷん。

らぷんが席に座ると、ようやくおばちゃんは注文を取ってくれた。


「マルゲリータとクワトロフロマッジとティラミスね。すぐに用意するわ。」

「ほな、お願いします〜」

「でも貴方たち、ほんとに最高よ!

オーナーが面白い子たちが来てくれたって言っていたわけだわ!」

「オーナーが言ってた?オーナーって誰なん?」

「あれ?言っていなかったかしら?

さっき貴方たちに話しかけていたコックよ!」




あのコックがオーナーかよっ!!!!!!




ピザの世界大会で2連覇したオーナーが一番’’キチガイ’’だった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る