第31話 ニャスポーン決死隊
「おお、なんと……!」
俺のニャスポーン化を目の当たりにしたレオ丸が、なにやら感極まったように声を上げる。
「やはりニャスポーン様は御三猫の側仕えに値する存在であったのですね……! ありがとうございます、貴方のおかげで神殿が抱えるやっかいな問題を解決する道が開けました……!」
なんでニャスポーンの功績みたいに言うんですかね?
周りから突っ込みがあってもよさそうなものだが、誰も彼もがすっかりニャニャたちのご訪問に舞い上がってしまっているようで指摘どころか賛同する始末である。
「うにゃにゃーうー……あーあー、えー、おっほん。なあ、わざわざ俺……ニャーをニャスポーンにする必要はあったのかニャ?」
やれやれ、また面倒な間接会話をすることになってしまった。
おチビたちは絶対『ニャスポン喋り』にこだわると思ったので、あらかじめ一人称を変更して語尾に『ニャ』を追加しておく。
「あるかもしれないし、ないかもしれないニャ。でもその状態のほうが強いことは事実だニャ。念のためニャ」
「物騒だニャァ……。具体的に、その『悪夢』ってのはどんなものなのニャ?」
「色々、様々だニャ、共通するのは猫が恐れるものということニャ」
「なんでまた、神さまはそんな怖いものの夢を見るニャ?」
まあ悪夢ってのはそういうもの、と言われたらそれまでなのだが。
「たぶんお前の考えていることは正確ではないニャ。まずニャー様はそもそも寝てるニャ。でも夢の中で起きていて、普通にあれこれものを考えたりできるニャ。今回ニャー様はちょっとしたきっかけで昔を思い出すことになって、それで寂しくなってしまったんだニャ」
「昔というと……まだ普通の猫だった頃のことかニャ?」
「そうだニャ。ご主人とのんびり穏やかな生活をおくっていた頃の想い出だニャ。そのせいでニャー様は眠りながらふて寝したニャ」
「うニャ?」
寝ながら寝るとはさすが神さま、実に器用である。
「ふて寝して、なるべく良い想い出に浸ることで精神を安定させようとしたんだニャ。ニャー様が不安定だと世界まで不安定になってしまうニャ。大問題ニャ」
「そしてニャー様は良い夢に不必要なものを弾き出したニャン。それが問題になっている『悪夢』だニャン。お前がやるべきことは、その『悪夢』を片っ端から退治することニャン。我が送り込んだ先で出会うもの、そのほぼすべてが『悪夢』だニャン。見た目はどうあれ、構わず倒すニャン。殲滅だニャン」
ニャニャの説明を引き継いだのはニャゴで、なかなか物騒な発破をかけてくる。
だが、やるべきことがわかりやすいのは助かる。
「ニャゴがその神域に送ってくれるんニャ?」
「そうだニャン。我はこういう『門』を管轄しているニャン。では、やることもわかっただろうし、さっそく行くニャン?」
「ニャ? そんなに急を要するニャ?」
「そこまで急ぎではないニャー。ぶっちゃけ『悪夢』がこっちに溢れるまで数年の余裕があるニャ。でも急ぐにこしたことはないニャ」
「なにか準備があるニャン? なら待ってやるニャン。準備ができたら話しかけるニャン」
なんかニャゴがゲームのキャラクターみたいなことを言う。
これで話しかけて『準備ができた』を選択するとイベントが進む、みたいな。
「これってニャーだけでやらないといけないのかニャ?」
ちょっと急すぎるのでひとまず待ってもらったが、かといって俺に必要な準備などなかったので確認をしてみた。
「そんなことはないニャ。協力者を募ってもいいニャ」
であれば、戦力になる面子を連れていくべきだろう。
なにしろ汎界での決戦となれば竜族が出張るような相手なのだ。
ひとまずシルには付いてきてもらうことにして、さらにエレザと爺さんにも声をかける。
「うむ、わかった。お前だけに任せるのでは心配だしな」
「全身全霊でもって事に当たりましょう」
「ほほっ、まさか目覚めた先で、このような大ごとに関わることになるとはのう。人生というのはわからんものじゃ」
三人も世界の一大事とあって協力には前向きだ。
「んで、あとはどうするかニャ……」
「師匠、師匠、オレ! オレ! 協力するぜ! なっ、グロール!」
「ぴよっ!」
どうなんだろう、この、不敵に笑うエルフとヒヨコは。
それなりの戦力になるのは確かだろうが……。
「ここで活躍すれば支店の話も現実味を帯びてくるってもんよ! オレはやるぜ!」
世界の命運をかけた戦いが迫ってるのに、すでにどうにかなったあとの皮算用をしている。
まあ囮にはなるだろう。
と――
「ニャスポン! 私もいくー!」
ここでしがみついたままのノラが声を上げた。
「わ、わたしも! ニャスポンと一緒!」
「私も行きますわ!」
さらにディアとメリアがむぎゅーっとしがみつきながら言う。
しかし、だ。
「お前たちはお留守番ニャ」
『ええぇー!』
不満を露わにされるが、ダメなものはダメである。
「今回は騒動の現場に居合わせてしまうのと話が違うニャ。わざわざ危ないところに連れていくわけにはいかないニャ」
まあペロ、テペ、ペルあたりは戦力になりそうだが、三人(?)は幼児に毛が生えたようなお子さんである。そんな子供を戦いの場に駆り出すようなことは、この胸に宿る高潔な精神が許しはしないのだ。
というわけで、俺にしがみつきたそうにわたわたしているラウくんの襟首を掴んで阻止しているペロに言う。
「ペロはニャーたちがいない間、みんなを守ってやるニャ」
「むー、言われなくてもまもる! まったくケーはもー、ちょっとゆだんすると、すぐ猫になっちゃうからもー!」
俺のニャスポーン化を快く思わないでいてくれるのはペロだけだ。
でも俺だって好きで猫になってるわけじゃないのよ?
「ああ、皆さん、どうかお気をつけて! 私はみんなと仲良くお菓子を食べつつ皆さんの無事を祈っていますね!」
おやおや?
偉大な聖騎士さんが、なにやら
とりあえず説教か、と思われたとき――
『ごるるぁぁぁ!』
シセリアの近くで黒い靄が噴き出し、怒声と共に現れたのはもちろんスプリガンであった。
確か聖都の大広場で人々の話し相手をしていたのが高じて人生相談を始めたとか聞いたが、それをほっぽりだして現れたようだ。
『この緊急事態になにを静観するつもりでいる! 我はそのような他人任せの主を持った覚えはないぞ!』
「私だって貴方みたいな鎧を配下にもった覚えはありませんよ!」
スプリガンの言うことはもっともだが、シセリアの言うことももっともであった。
『お前は聖騎士としてふさわしい行動をせねばならん!』
「どうして称号に行動を合わせなきゃいけないんですか! そこは称号が私の行動に合わせてくださいよ! そもそも竜の皆さんが任されるようなお仕事なんですよ!? 私なんかが加わってどうにかなるわけないでしょう!?」
『そこは我がどうにかする! というわけで装着だ! どぶるぁぁぁぁ!』
「あーん、もー、誰でもいいからこの鎧をどうにか……!」
こうしてシセリアは暗黒騎士となり――
「よーし、じゃあワタシたちもいくわよ!」
「戦だ! 戦だ! いっちょやってやろうじゃないの!」
「オレ、この戦いが終わったらお菓子を腹一杯食べるんだ……!」
さらに邪妖精たちも突撃。
こうしてシセリアは妖精騎士フォームとなり、悪夢退治への参加が決定した。
「わ、私なんて、とても戦力になるとは……!」
「今のおめーが戦力にならないんなら、誰が戦力になるニャ。ダダこねてないで大人しく参加するニャ。きりきり戦うがいいニャ」
「ぴえーん!」
まあ、べつに妖精騎士フォームにならなくとも、シセリアは連行するつもりだった。
シセリアがいれば妙な事態になっても妙な感じで解決してくれるかもしれない、そんな期待があるのだ。
要はパルプンテ要員である。
「さて、ひとまず助っ人はこんなもんかな」
「あの! ニャスポーン様、ぜひ私もお連れください!」
そう訴えてきたのはクーニャだ。
「こう見えてけっこう戦えます! いざとなったら見捨てていただいてもかまいません!」
「そんなこと言われても、普段そこらに捨ててきたいと思ってるのとは話がべつだニャ……。ニャニャ、こういうのは連れていかないほうがいいニャ?」
「怖い思いや痛い思いをすることはあっても、死ぬようなことにはならないニャ。だから参加したければ参加したらいいニャ。やっかいな『悪夢』はお前が相手して、ちんけな『悪夢』は任せたらいいニャ」
「なら……まあいいかニャ?」
「ニャスポーン様! でしたらわたくしもぜひお連れくださいませ!」
そう言いだしたのはヴァーニャで、これを皮切りにレオ丸や枢機官、そして神殿騎士たちも同行させてくれと願いでてきた。
これまで神に仕えてきたとはいっても、勝手に崇めていただけだったところにこの話だ。
神猫の要請で神さまのために働けるとなれば、そりゃあもう身の危険があろうと参加したがるのが信徒というもの。
「んー、じゃあ少数精鋭の部隊を作るニャ。そいつらを連れてくニャ」
こうして出発はひとまずレオ丸たちの編成待ちとなった。
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