第28話 アホではなく
「それで、レンはニャーになにをお願いしたいのニャ?」
「えっ、この状況で話を続けるんですか!?」
中断された話を戻したらレン君にずいぶん驚かれた。
はて、なんか前にもこんな反応をされたことがあったような?
「続けるしかないニャ。シセリアは妖精界へ行ったニャ。レンには追う方法があるのかニャ?」
「ないですけど……ケインさんならなんとかなるのでは?」
レンは俺をなんだと思っているのだろうか?
しかし伝手があるにはある。
あっちこっち飛び回るのをやめて「どうして僕を連れていってくれなかったんだ!」と騒いでいるヴィヴィだ。
「ヴィヴィ、妖精界へはすぐに行けるかニャ?」
「すぐには無理だよ! 満月を待たないと! それにどこからでも行けるわけではないんだ! 神聖な場所でないと!」
「なら心当たりが二つほどあるニャ」
「えっ、二つもあるのかい!? この都市にもある神殿とかではなくて、本当に神聖な場所だよ!?」
「神さまが関わってるから大丈夫だと思うニャ」
一つはアロンダール大森林、俺の住居跡の空き地。
そしてもう一つはニャニャが降り立った魔界の聖地だ。
「本物の聖域じゃないか! すごい、見直したよ! 大森林のほうを候補にしよう! 魔界からは試したことがないから不安だ!」
なんだかよくわからない見直され方をしたが、これで妖精界へ向かうための目処はたった。
一応、あとで住居跡で大丈夫か確認に向かおう。
「確かに現状ではそれが最短ですか。先代がなにかの用件で僕に会いに妖精界から来てくれたら色々と手っとり早いのですが……」
「先代は好きに行き来できるのかニャ?」
「はい。シルキーの力ですね」
「レンリ君、それ本当にシルキーなのかい? 追放を免れた古い妖精がシルキーのふりをしている可能性はないかい?」
「シルキーですよ。先代に取り憑いたことで強力な存在になったんです。シルキーの力は宿った『家』に影響を受けます。おそらくは先代だけでなく、先代が妖精界に造り上げた『宿屋都市』の影響もあるのかと」
宿屋都市……宿場町みたいなものだろうか?
「まあともかく、現状は満月を待つしかないニャ。レンはシセリアの心配をしてるけど、妖精界はそんな物騒なところなのかニャ? 賛成派と反対派の対立が血を血で洗う抗争にまで発展してたりするのかニャ?」
「いえいえ、そんな物騒なことにはなっていません。冷静に考えてみると、魔物がいないぶん妖精界はむしろ汎界より安全でしょうね」
「なら心配ねーニャ。それにシセリアはあれでただ者ではないニャ」
出会った頃なら心配もしたのだろうが、最近は実はあいつ無敵なんじゃないかと疑っていたりする。
きっと妖精界では訪れて早々に愉快な目に遭って、なんだかんだで楽しく過ごすことになるのではないか。
まあ楽しく過ごす前に、スプリガンから解放されたところで猫スマホを使って連絡くらいしてくるだろう。
アホでなければ。
「エレザ、シセリアは妖精界で大丈夫と思うかニャ?」
「はい。シセリアさんのことです。そこがどんな場所であろうと、おそらくは愉快な目に遭ってなんだかんだで楽しく過ごすことでしょう」
同意見――とはちょっと違うな。
さすがに『どんな場所でも』とまでは期待のしすぎ……でもないのか?
無駄に魔法耐性が高く、俺の認識汚染もへっちゃら。
そもそもスプリガンに気に入られているのがでかい。
「結局、スプリガンってどれくらい強力なのニャ?」
「そうですね……。かつて私が計り知れない相手に立ち向かう際、装着することにより『これで最低限の目的は達成できる』と信じられたくらいには強力かと」
よくわからんが信頼をおけることはわかった。
しかしエレザがそんな弱気なことを言う相手がいたのか……。
こちらの世界も広いということだな。
△◆▽
シセリアは無敵ということで話はまとまり、レンの心配が解消されたところでやっと話を戻せるようになった。
しかしこのまま縁側に集まって話し込むというのもなんなので、場所を居間へと移すことに。
このあともディアとラウくんに聞かせられない話題が出る可能性もあるため、俺は足止めもかねて庭で遊ぶおチビたちのところへいってレジャーシートを敷いて色々とおやつを用意してやり、もふもふたちには燻製肉や果実などを提供してやった。
「日本家屋って落ち着きますね。僕もこういった建物を用意しようかな……? でも再現……あ、よければこの家を建てた大工さんを紹介してもらえません?」
「かまわねーニャ。でも依頼を受けてくれるかどうかはわからねーニャ。偏屈な髭モジャたちニャ」
そんな会話をしつつ、俺は座卓についた皆にお茶とお菓子を用意する。
今日はレンのために日本茶とこしあんの大福だ。
「ふうん、なかなか美味しいじゃない」
ちゃんとした和菓子店のものを創造したのがよかったのか、マリーは感心しつつもちもちと大福を食べている。
しかしその一方――
「ケインさんケインさん、このお茶と大福、再現度がはんぱないんですが!? ケインさんが作ったんですか!?」
レンがめちゃくちゃ食いついた。
「作ったわけじゃねーニャ。創造したのニャ」
「……は?」
ひどく困惑されたので、俺は神さまに魔法のことを詳しく聞かせてもらい、その結果として創造魔法が使えるようになり、さらにそこから物を創造できるようになったことをレンに説明した。
「じゃ、じゃあケインさんは食べたくなったものはなんでも用意できるってことですか!? 僕、魔法の才能貰いましたけどこんなことできませんよ!? 自力で神様の恩恵を越えるチートってどうなってるんです!? 羨ましすぎるんですけど!」
なんかめちゃくちゃ興奮してるな……。
興奮しすぎで、マリーに残る大福を盗られていることに気づいていないぞ。
「ケインさん、なら、あの、牛丼って出せますか!? チェーン店の!」
「どの店がいいニャ?」
「吉○家でお願いします!」
「並でいいかニャ?」
「ここは特盛りで! つゆ少なめでお願いします!」
「紅ショウガとかはいるかニャ?」
「あ、僕たっぷり派です! お肉が隠れるほどのせたいです!」
それから俺は七味とか半熟玉子とか醤油とか、レンが理想の一杯を食べられるよう要望を聞いて用意してやる。
「すごい! すごい! 牛丼! すごい! やったー! 牛丼! あはははー! ケインさんはあれですね、注文をいっぱい聞いてくれる料理店ですね!」
「こんなレン、初めて見たわ……」
あまりのテンションにマリーに引かれるも、今のレンには些末なこと。
さっそくレンはハフハフと夢中で牛丼を食べ始める。
たぶんもう頭の中は牛丼でいっぱいで、用件のことはどっかへ飛んでいってしまっているのだろう。
「ケイン、ちょっと私も食べてみたいのだが」
あまりにレンが幸せそうに頬張るからだろう、シルが牛丼に興味を持ち、それはこの場にいる女性陣(大福に悪戦苦闘中のヴィヴィ以外)の総意だったので俺はお茶碗にミニ牛丼を拵え、レンゲを添えて提供してやる。
「もぐもぐ……。ふむ、確かに美味しいのはわかるが……」
「そうね。そこまで喜ぶほどではないと思うわ」
ドラゴン姉妹の反応はかんばしくない。
たぶんレンの反応を見て期待しすぎていたのだろう。
「もう食べられないと思っていた故郷の味ニャ。察するニャ」
たぶん味をドンピシャで再現するのは不可能だろうからな。
元の世界でも『再現』となるとなかなか上手くはいかないのだ。
「ふぅ~……」
皆が牛丼を食べ終えるのに少し遅れ、レンは特製の特盛り牛丼を平らげてお茶をすすりひと息つく。
「マリー、ケインさんがこんな能力を持っているなら教えておいてもらいたかったよ……」
「むっ、私もここまでとは知らなかったのよ! 聞かされたのはなんか『どれだけでもお酒を創造できる!』みたいな話だけだったし!」
マリーがついとシルを見る。
シルはやっぱり顔を背ける。
ふむ、ここは俺も『いちゃいちゃしてる!』と突っ込みを入れるところだろうか?
いや、たぶん逆にキレられる可能性のほうが高そうだ。
「まあまあお嬢さん、これでも食べて機嫌をなおすニャ」
俺はそっとフルーツパフェをマリーに提供する。
竜ならお酒のほうがいいかもしれないが、マリーの場合は理性が緩んでキレたとき殴りかかってこられたら困る。
「あら、綺麗ね。ありがとう。いただくわ」
その見た目と甘い匂いに惹かれたのだろう、マリーは素直に礼を言ってパフェを食べ始める。
スプーンを口に運ぶたびに表情がほわっとする。
「ケイン、マリーにだけか?」
「わかってるニャ」
鋭い視線を送ってくる希望者にもパフェを提供してやる。
「ああ、僕も食べたい……! でもさすがにお腹いっぱいだし……! 今食べたら絶対気持ち悪くなる……! でも……!」
「落ち着くニャ。食べたい物をリストにまとめてよこすといいニャ。同郷のよしみで、好きなだけ用意してやるニャ」
「あなたが神か……!」
レンがすごいキラキラした目で見てくる。
そういうのはもうお腹いっぱいなのでやめてほしい……。
それからレンはさっそく紙とペンを用意し、うんうん悩みながら食べたいものを書き連ね始めるが……マリーが隣で「パフェよ、パフェを追加するのよ」と囁いているのは聞かなかったことにしよう。
と、そんなおりであった。
服のポケットに入れてあった猫スマホがにゃんにゃん騒ぎだしたのは。
「たぶんシセリアだニャ。クーニャ、頼むニャ」
「お任せください」
猫スマホをクーニャに取ってもらい、そのまま顔の近くにかざしておいてもらう。
これを見てレンは目をぱちくり。
「え!? スマホ!?」
「あとで説明するニャ。ちょっと待つニャ」
驚くレンに待ってもらい、俺は電話に出る。
と――
『ぬわぁぁぁん! ケインさん、ちょっと聞いてくださいよ! あの鎧ったらホント適当なんです! 妖精たちを助けるーとか言ってなんか大きな町に突撃したのはいいんですが、仕事の邪魔すんなって妖精たちに怒られて拗ねて置物に戻っちゃったんです! 帰ろうって言ってもしばらく様子を見る、とか言って動いてくれないんです! わたし帰れないんです! 今日はケインさんについて公園いって、久しぶりに子供たちの踊りを見てあげる予定だったんですよ!?』
俺に公園へ行く予定はなかったのだが……。
「あー、あー、シセリア、落ち着いて聞くニャ。まず、ニャーの予定を勝手に決めるのはやめるニャ。次に、すぐそっちに向かうことはできそうにないニャ。だから頑張って生き抜くニャ」
『あ、なんか妖精門を開くのがなんかって話ですね。どうやって帰ったらいいか妖精たちに尋ねたら教えてくれました。まあそれならしばらくここの宿に泊まればいいんですけど、それとはべつで無視できない問題があるんです』
「なんだニャ?」
『お菓子がありません! 手持ちのお菓子は妖精たちに奪われてしまいました! なのでもうないんです! なんか不思議な手段でお菓子をこっちに送ったりできま――』
と、シセリアが喋っている途中だ。
『おっ、シセリア、それなんだ!? お菓子か!?』
『あー、ちょうだいちょうだい!』
『シセリアのお菓子、すっごく美味しよねー!』
『あーもー、邪魔しないでくださいよ! これはお菓子じゃありません! 遠くの人と話ができる道具です!』
なにやらシセリアの周囲で騒がしい声が……。
まあ妖精たちだろう。
『そういうわけですので、なんとかお菓子を! お菓子をお願いします! 不思議な力でお菓子を送ってください! なんなら私のいる場所を狙ってお菓子を創造するとかできたりしませんかね!』
こいつもこいつで俺をなんだと思っているのだろう……?
「まあ努力はしてみるニャ。それでそっちはどんな感じニャ? 情報を知りたいニャ」
『こっちですか? なんだかすごく立派な宿が――で、妖精た――すよ。――で、けっこ――人たち――』
「シセリア、なんか声が途切れてきてるニャ」
ふむ、妖精界と汎界の通話は無茶だったのか?
『あれ――ちょ――ンさーん、聞こ――すかー!』
どうやらシセリア側も同じらしい。
どうしたものかと思っていたところ――
『――キャハハッ――』
甲高い笑い声が聞こえ、それを最後に通話は途切れた。
――――――――――――――――――――――――――――
『あとがき』
突然ですがうちの猫です。
もし興味がおありでしたら……。
画像投稿サイト『みてみん』に飛びます。
https://25719.mitemin.net/i727356/
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