第32話 野良少女の恩返し
何故かシセリアが驚いている。
はて?
大事な話の邪魔をする連中をきれいに一掃した。
だから中断させられた話を再開する。
「何もおかしなことじゃないだろう?」
「ケインさん、私には何もかもおかしいように思えます……」
「むう、まあおかしいと思うならもうそれでかまわない。それより、俺が出向いても本当に王様はご褒美をくれないのか?」
「え、えっと、まあ、その通りです。いえそもそも、ケインさんを連れて行っても陛下からご褒美は貰えないんですよ」
「なんだって!?」
ご褒美が貰えない?
そんな馬鹿な!
「ど、どど、どういうことだ!? さっきの連中はご褒美が貰えるからこそ俺をとっ捕まえようと集まったんだろう!?」
「みんな騙されていたんですよ。今、王都のあちこちで公示人がそういう嘘を広めていて、集まった人たちはそれをすっかり信じちゃった人たちだったんです」
「騙されて……だと? シセリア、その嘘をまき散らす公示人とやらはもちろん罪に問われ、死刑になるんだよな?」
「ええっ!? いやっ、そんなことにはなりませんよ!? 公示人は依頼された内容を広めるのがお仕事なんですから!」
「だが嘘をばらまいて人々を騙しているんだぞ!?」
「いや確かにそうですけども……。ケインさんはそんなに公示人を死刑にしたいんですか?」
「べつに死刑にしたいわけではないんだが……。どうも嘘をばらまいて無辜の人々を騙すというのが、な。そうか、あのゴロツキどもは、その公示人とやらに踊らされた哀れな犠牲者たちだったのか……」
こんなの、アレが健康にいい、コレが病気に効くと、視聴者を謀る煽り番組みたいなものじゃないか!
俺に襲いかかってきた連中は、煽り番組に騙されてスーパーに突撃、不必要に爆買いしてしまい、やがて我に返って茫然としてしまう人たちと同じだったのだ。
「シセリア、冷静に考えてみたが、やはり公示人がなんの罪に問われないのはおかしいと思う。これはもう俺が殺るしか……」
「はい待ったー! ケインさんちょーっと待ちましょう! 公示人は必要なんです! 今回は問題もありましたが、普段は王都の人たちに色々な情報を伝えてくれる大事なお仕事をしてる人たちなんです! なので『この世からすべての公示人を消し去ってやろう』とか、そういうのはやめてあげてください! お願いですからぁー!」
すがりつくシセリアは何故か必死だ。
「いいですか、悪いのは公示人に嘘をばらまくよう指示した奴です! こいつは騎士団も捜査中ですから、もし見つけたらいたぶっちゃっても結構です! なので公示人は見逃してあげましょう! ね! ね!」
シセリアはやけに公示人を庇う。
なんだろう、公示人に憧れでもあるのか?
考えてみれば、元の世界でも望んで邪悪なマスコミ業界に進む連中もいるわけで、シセリアが公示人に誤った憧れを抱いていてもおかしくはないのか。
「まあ公示人についてはひとまず保留することにして――」
「ほ、保留……。果物をくれた優しいケインさんはどこへ……」
「いったいぜんたい、どうして俺を王様のところに連れて行けばご褒美が貰えるなんて話が出てきたんだ?」
「あー……っと、それなんですが……何もケインさんが名指しだったわけじゃないんです」
「うん……?」
「えっとですね、正確には大森林の奥にあった家を破壊した者を、って話だったんですよ」
「それ俺じゃん」
「いやまあそうなんですけど、ケインさんがその家を破壊した当人だとは誰にもわからなかったんです。ただ、この話が広まる少し前にケインさんが王都に現れて、ほら、冒険者ギルドで騒動を起こしたじゃないですか」
「騒動……?」
「いやどうしてそこで首を傾げるんです!? 壁をぶち破ったじゃないですか!」
「ああ! うん、ちょっと騒動を起こしたな」
「訪れてすぐ壁をぶち破っちゃうのをちょっとと表現していいものかどうか悩ましいところではありますが、ともかくそれでケインさんは目立っちゃったわけです。で、その話が冒険者の皆さんに広まったところに今回の話ですよ。大森林から来た新参者。もしかしたら『あいつ』じゃないか、って連想されてしまったんです」
「はて、冒険者ギルドには、俺が森から来たことは話してなかったが?」
「たぶんその辺りの話はうちが出所です。今はこんな事態になりましたが、それまではべつに秘匿するような情報でもなかったことですから、遠征でこんな奴に出会った、って話が広まったんだと思います」
「そんな人に話すほどのことか……?」
「現れたその日の内に浴場を作ってくれたり、森で魔獣を狩りまくるような人は噂になりますって……」
なるほど、それで冒険者にも情報が伝わったのか。
「冒険者は噂話が大好きですからね。数日でもその『狩人』とケインさんが結びつくには充分な時間です。それで今回の話ですよ。褒美に目が眩んだ冒険者があんなに集まっちゃったんです。ただ確証はないので、最初は様子を窺うだけだったんですよ。ケインさんが思いっきり喋っちゃうまでは」
「シセリアが聞くから」
「まさかあんなあっさりと喋るとは思わなかったので……」
「べつに隠すことでもないだろ?」
「でもケインさん、どうして破壊したか言いたくないんですよね?」
「む、むぅ……」
言いたくない。
スローライフというマスコミの嘘から目が覚めて、ついブチキレて自宅を吹き飛ばしてしまったなど、言えるものではない。
「まあ俺が狙われるようになった経緯はわかったよ。だが肝心の、話の発端についてはさっぱりだ」
「そ、それについては……えっと……」
と、シセリアはちらちらとエレザを見やる。
しかしエレザはノラに話をしていて気づく様子はなかった。
「もしかしてノラやエレザもなにか関係があるのか?」
「え!? いえ、ノヴ――ラちゃんは、関係ありません!」
「エレザは?」
「副団ちょ――ちょ、ちょいーん!」
シセリアは奇声を上げて謎のポーズをとった。
これで変身でもしていればよかったのだろうが――
「シセリア、いくらなんでもそれで誤魔化そうとするのは無理だと思うぞ……」
「ううぅ……」
「エレザはシセリアのとこの副団長なのか?」
「はいぃ……」
「じゃあ、前の襲撃はなんか示し合わせとかしてたのか?」
「へ? ――あっ、いや、そういうわけではないです。あの時は本当にヤベえ不審者だと思ってたんですよ。戻って父に報告したときにあれが副団長だって……て? あれ? どうしてケインさんがそのことを知ってるんです? 副団長から聞いたんですか?」
「いや、気配でなんとなくわかった」
「気配って……」
シセリアに妙な物を見る目を向けられる。
ちょっと心外だ。
俺としては、相手を『気』で判断できるみたいでけっこう気に入っているのに。
「しかしシセリアんとこの副団長か……。メイドとかえらい嘘ついてやがったな」
「いえ、嘘ではありません」
と、そこでおちびーズを連れたエレザがしずしずと戻って来る。
「騎士団は副職にすぎません。本職はノラ様のメイドですので」
「そ、そうなのか……」
「はい。それから、ノラ様がケイン様と知り合ったのはまったくの偶然であり、そこにはなんの思惑もありません。それはどうか信じて頂きたく……」
「ああ、それは疑ってない」
ノラに関しては俺のお節介が始まりだからな。
「せんせー、せんせー」
と、そこでノラにくいっくいっと裾を引かれる。
なにやら神妙な顔だ。
「うん? どうした?」
「先生は私を信じてくれるー?」
「へ?」
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