第6話 私は人間だよ

心翔は最悪な形で亡くなってしまったが、久しぶりに会えて本当に幸せ。言葉で表せないくらい幸せより超えた幸せだ。自分の気持ちを素直に伝えようとしない、自分より相手を優先して我慢するところは、前の心翔と本当に変わっていない。


もし前の心翔と違って、成長した心翔だと、違和感を感じるだろう…。実際に久しぶりに会ってみたら、全然変わっていなくて、本当に安心した。


私の初恋の相手をもう手を放してほしくない。2度も手を放さないよう心の中で固く約束した。


まだ幼いだった私は、歩道者用信号機が青信号になったので、横断道路を渡った。その瞬間、赤信号を無視したトラックに轢かれた。不運で交通事故に遭い、まだ若さで世の中から去ってしまった。


目を覚ましたら、黒猫になっていた。場所は心翔の家だった。どうやら幼女から黒猫に生まれ変わったそうだ。私はまだ幼いなので、わからないことだらけあった。しかも私の家ではなく、別の家に転生されて、知らない人にどのように対応すれば良いかわからなかった。わからないので、なるべく心翔の家族に近づけないようにして、暗くて狭いところで過ごした。


時々、近所の家に届けるくらい怒鳴る音や物を壊す音が聞こえた。もし、見つかれたら、何かされるかわからなくて、ビクビクしながら身を隠した。


案の定、餌は貰わなかった。餌を食べずに生きていくのは難しい。一週間も餌を食べていなかった。腹と背中がくっつくくらいお腹がペコペコになった。そのまま栄養を摂取することができなくて、飢え死になるだろう。せっかく生まれ変わったのに、また死ぬかな。私は本当に運が悪いなと思った。


その時、誰かの足がソファのところに現れ、ソファの隙間を覗いた少年の顔を出した。その少年は心翔だった。餌と水を入れた容器を静かに置いてから去った。多分、心翔は私がいるかどうか、確認していると思う。でも、私がお腹が空いてるのを気づいて、食事を用意してもらって、本当に嬉しかった。さっきまでは冷えて凍った心がいつの間にか暖かくなっていた。


しかし、完全に幸せではなかった。それは…心翔の顔に紫色のアザがあった。多分、さっきの怒鳴る声と物を壊す音を聞こえた時、両親が心翔に暴力を振るったと思う。


もし私が人間だったら、外に出て、助けを求めることができたと思った。しかし、今の私は猫であるので、日本語を話すことができない。何もできない私に時々嫌いになる時があった。


数日後、ソファの上に誰か座る音がした。座ったのは心翔だった。シクシクと声を漏らさないように必死に我慢する響きが私のところまで届いた。なんとか悲しみを慰めてほしいと思って、ソファから出て、心翔のモモの上に乗った。上から何か液体っぽいな物を落とされていた。上を見ると、心翔が泣いていた。目から溢れた涙を舌で舐めてあげようとしたら、涙が止んだ。そして、泣き崩れた表情から少しだけ霧が晴れた表情に変わり、私の頭を優しく撫でた。


泣く心翔を見たくない。見ると、心を傷んでしまう。でも、嬉しそうな笑顔や撫でられる手は好きだった。それだけでも十分に幸せになることができた。

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