第5話 寂しい

「心翔。なんで、ここにいるの?」


僕の腿上に座っているハッピーが僕に問いかけた。


「えっと…実は…」


なぜ僕が死んだのか、経緯を踏まえて、説明した。


本当に何の記憶はなかった。何の記憶はないのに、気づいたら、両親と担当先生、同級生、友達を僕が殺害した。僕の右手に包丁があった。殺したいという気持ちはなかったけど。多分、僕は記憶が失っている間に、僕の体が勝手に動いて、殺害していたかもしれない。


「なるほど。そうだったか。君が殺人罪と尊属殺人罪で死刑されたか」

「恥ずかしながら無様で終わりに向かってしまった」


情けない僕がまさかの結果になるのは思わなかった。しかし、暗い雰囲気になってほしくないので、本当は笑いたくないけど、振り絞って笑った。力のなく弱い声で笑い、後ろの頭を掻いた。


変な僕だなと思った。人殺しの僕なのにどうして笑っているのかわからない。殺害したことを笑うのは、死人に対して侮辱しているような気分になっていた。しかし、今は僕とハッピー、二人だけしかない。暗いな話をすると、雰囲気までも暗くなり、お互いも気がまずくなる。だから、僕は心の中で死人に土下座で必死に謝罪してから、笑った。


「心翔、君は本当に優しいよね。相手のことを考えて、少しでも雰囲気を明るくしようとする気持ちはよくわかった。でも無理に笑う必要ない。本当に苦しいよね」


僕の気持ちを見透かされた。昔からもそうだった。僕が我慢している時や泣きそうになる時、僕のところに寄ってきて、僕の気持ちを和らぐまで、決して離れようとしなかった。


猫と人間は違うので、お互いの気持ちはわからないと思うけれど、ハッピーの場合は特別な繋がりを持っていた。僕の気持ちをハッピーに通じ合うことができる時間は本当に幸せだった。この時間を永遠に続けてほしいなと思ったが、そろそろ現実に戻らないと、きっと酷い目に遭うかもしれない。だから、仕方なく一緒に居られる時間だけ大切にしようと思った。


3度目も泣いた。本当にハッピーに出会えたし、自分の気持ちをわかってもらえて本当に嬉しい。嬉しくて涙腺が崩壊して、再び涙が出た。


さっきの涙と比べて、透き通るような涙が溢れていた。さっきの涙は、相手に嫌われるのが怖い、雰囲気をよくしなければならないなどプレッシャーがあって、少しだけ濁った涙だった。


同じ涙なのに透明感の違いがあるんだ…と新たな発見した。


「…どうして僕だけ置いて、ハッピーだけ先に行くだろう?」


弱音を吐かない僕が三十代で初めてボロッと本音を漏らした。多分、僕の気持ちをわかってもらえたので、ハッピーに対して心から許した。だから我慢すること、嘘つくこと、自分を演じることは何も必要ない。許した相手ならどんな弱音がどんどん吐いていく。


弱音を吐く同時に気持ちは軽くなった。


さっきまで、頭の中で「相手に気を遣わなければならない」「相手に傷つかさせないように…」など無限に溢れていた。思考がゴチャゴチャになり、情緒が不安定になった。さらにネガティブなことが隅から隅まで広がっていく。ますますメンタルが豆腐のよう簡単に崩れてしまう。


生まれ変わってもずっとハッピーと一緒に居てほしいと叶わない願いを心の中から祈った。


「ごめんね…。寿命が短いので、心翔より早く死んでしまったのよ。でも、今なら一緒にいることができる時間があるので、私が居なかった時に感じた寂しさを埋めていこう」

「うん…1秒でも1分でも長く居たい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る