第22話 好きなものを好きだと言えないのはつらいな
「ずっと前から好きだったの……! 私と……付き合ってください!」
「は、はぁ……」
帰りの会が終わり、やっと帰れるとるんるんでランドセルに荷物を詰めていたところ、とある女子に呼び止められた。
そして一緒に校舎裏に来てほしいと言われ着いてきたら……という感じで今に至る。
この子の名前も顔も知らないし、もちろん話をしたことだってない。
……どうしよう。中にはとりあえず付き合ってみて考えるという人もいるけれど、どうにもその気になれなかった。
「ごめんね」
俺はそう言い残してその場から立ち去ろうとしたのだが、その女の子に腕を掴まれた。
「待って! どうして!? 私のこと嫌いなの?」
「そういうわけじゃなくて……」
俺が困った顔をしていると、彼女は泣き出してしまった。
なんとも居心地の悪い空気が流れてしまう。
しかし、ここで泣かれてしまっても……と思いながら、なんとか彼女を宥めようとした時だ。
突然、後ろの方から声をかけられた。
「ねぇ君、その子嫌がっているじゃない。やめてあげなさいよ」
振り返って見ると、そこには同い年くらいの女の子が立っていた。
泣いている子を庇うようにしてこちらを見つめてくる。
鋭い視線が痛い。
なぜか俺が悪者になっているが、実際なにもしていない。
したことと言えばせいぜい手短に振ったくらいだ。
あんまり知らない子だし、そもそも女の子と付き合う気もない。
確かに少し可哀想なことをしたかもしれないけど。
でも仕方ないと思う。本当に興味ないわけだし。
「えっと、俺別に何もしてないんだけど……」
「じゃあどうしてこの子泣いてるの?」
「それは……」
言葉に詰まってしまう。
正直俺にはよくわからないのだ。
なぜこんなことになっているのか。
「私っ、琉璃くんに付き合ってって告白したの……それなのに、琉璃くんは、お前と話すことなんてないって……」
……唖然とした。
もちろん、そんなことは一言も言ってない。
それに俺が言ったのは『ごめん』だけだ。
つまりは、この子が勝手に解釈したということ。
だけど、そんなこと俺を悪者としてみてる女の子は事実として捉えるだろう。
「へぇー、そうなんだ。やっぱりあなた最低ね。人の気持ち踏みにじるようなことして恥ずかしくないの?」
「だ、だから誤解なんだって……!」
思った通り、どんどん状況が悪い方に転がっていく。
このままではまずいと直感的に察する。
しかし、そんな思いとは裏腹にさらに状況は悪化していくばかり。
正直、どうにかしなきゃというよりめんどくさいという気持ちの方が大きくなっていった。
「はぁ……もうわかった、俺の気持ち伝えてやるよ」
「ん? どうしたの? 謝る気になった?」
ここまできたら引き下がれないだろう。
俺は覚悟を決めて口を開いた。
そしてそのまま勢いに任せて言ってしまったのだ。
――実は男が好きなんだ。と。
すると、彼女たちは目を大きく見開いて驚いたような表情を見せた。
さっきまで騒いでいたのが嘘のように静まり返る。
「……」
しばらく沈黙が続いた後、女の子たちは急に笑い出した。
まるで俺のことをバカにするかのようにお腹を抱えて笑っている。
「ふふっ、あっはははは! 何それ、面白すぎでしょ!? ていうかありえないんだけど」
心底おかしいというように笑う彼女を見て、俺は怒りよりも先に呆れを感じた。
同性愛は理解されにくいものとはいえ、いくらなんでも失礼すぎる。
こっちは真剣に言っているのに。
それとも、冗談だとでも思っているのだろうか。
泣いている女の子を見てとっさに声をかける正義感は大したものだが、その後の行動はあまり褒められたものではないなと思った。
まあどちらにせよ、これ以上関わりたくないというのが本音だが。
しかし、彼女はそう簡単に見逃してくれそうにはないようだ。
どうやら俺のことを諦めてくれるつもりはないらしい。
彼女はまだ笑い足りないようで目に涙を浮かべながらもこちらに向かって歩いてくる。
俺は警戒しながらも一歩後退りをする。
「男が好きってことはクラスの子たちとかそういう目で見てるんだぁ。気持ち悪いね」
そう言いながら彼女は俺の目の前までやってきた。
その顔に浮かぶのは悪意しかない。
俺の顔を下から覗き込むようにして睨みつけてくる。
その瞳には軽蔑の色が浮かんでいた。
よく誤解されがちだが、なにも同性全員を恋愛対象として見ているわけではない。
それもそうだろう。異性が好きでも、その全員を恋愛対象としては見ないだろうし。
だいたいなんでこんなふうに言われないといけないのか。
俺は……間違ったことをしたのか?
「ねぇ、何か言いなよ。図星だったのかな?」
彼女は相変わらず嫌味ったらしく煽ってくる。
俺は色々耐えられなくなって、その場から逃げ出した。
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