第2話 動揺なんてしてません
天候もよく5月晴れとはよくいったもの。今日は晴れ渡るゴールデンウィークの
「せんぱぁ~い! ここです、ここ!」
映画館のロビーの中を歩いていると、飛びぬけて明るい声が正面から聞こえる。
それは言うまでもなく
直後ものすごいスピードで私の側を通過していくと、「いきすぎたぁ!」。まるでフライングディスクのようにこちらに戻ってきた。
「ちょっと、そんなに慌てなくてもいいから」
「ごめんなさい!
「デートじゃないし。それにお仕置きなんてご褒美、してあげるわけないでしょ」
食い気味に割り込んで最後まで言わせない。
「そんっなあああああああああああ!」
膝をつき頭を抱えている。彼女のリアクションは普段よりも大げさに、何事かと瞬く間に衆目を集めていく。
本当、黙ってさえいれば可愛いものを。
「はいはい、そろそろ行きましょうね」
「はーい、ただいま軽食をお持ちいたします! 亜紀様はお席でしばしお待ちを!」
「おのれは
それを言い終える前に彼女はミサイルのごとく飛んでいった。
先に場内の指定座席につく。5分ほどして「ピンポーン。みーおーイーツです!」と、その声とともに正面に回った彼女は、トレーに乗せたポップコーンとコーラをこちらに差し出した。
「御代は?」
美緒が隣にちょこんと座った後それを聞くと、
「貴女のからだごふぁあ!?」
無理矢理、握りこぶし一杯分のポップコーンを口に詰め込んで黙らせる。彼女はもぐもぐばりばりと、コーラでそれを流し込むとひときわ目を輝かせた。
「たまには強引なのも
薄い胸をピンと張りながら見せた、恍惚な表情にしばらく呆れる。するとちょうど上映開始時刻になったようで場内は真っ暗に。これはしめたと、何も聞こえなかった
映画が始まるとすぐに、隣から手が伸びてきて私に触れる。またかと美緒の横顔を見てみるとその表情は
……しまったな、この子がホラー系苦手なのを忘れてた。
絶対に「嫌」を口にしない彼女らしいと言えばらしいのだけれど。
罪悪感にひどく
思わず取った行動ではあるけれど、多少だったはずの気恥ずかしさが心臓の音とともに膨れ上がり増していく。
手汗、大丈夫かな。手の平からドキドキしてるの伝わってない? でも映画に集中してるみたいだからいける? 本当は気付いてる?
そればかりに気を取られて、上映内容はほとんど頭に残らなかった。
「いやぁ、ものすごい迫力でしたね! 美緒なんて何度か死んで、その都度生き返るのを繰り返してましたよ!」
映画館を出ると美緒は開放感からか元気一杯に笑っている。
「そうだね。すごかったねー」
「え……なんだか素っ気ないです? もっと美緒と語り合い……くんずほぐれつ愛し合いましょうよ! 続きは先輩の――」
「そうだねー」
「あ、あれ。亜紀ちゃん先輩がおかしくなった……? あの――――」
気付くと体はがくがくと揺さぶられ、不安そうな目が私を覗き込んでいた。
その後はやたらと心配されて、最終的には家まで送り届けて貰う事になった。
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