第3話 仲良くなんてありません
すっかり初夏の陽気にも馴染んできた6月。梅雨入り前のスカッとした風が頬を撫でるように吹く。
そして例年通りのあの節目がやってきた。
「ねえ
そう声を掛けてきたのはクラスメイトの
「え?」
「あっきー、何か考え事でもしとったん? ほら、あの子あの子」
言いながら、もう1人の子が私の後ろから両肩に手を乗せて微笑む。
始めの頃はよく喧嘩になったりもしたけど、段々とお互いの事がよくわかるようになってからの関係は良好そのもの。
大体はこの2人と行動をともにしている。
「こっちですよ、せんぱぁ~い!」
後ろの出入口の辺りから聞こえてきた、このクラスの誰よりも大きく明るい声。
逸る気持ちを押し殺してゆっくりとその方向へ近づいていく。
「美緒、ちょっと声が大きい。もう……皆見てるじゃない」
「いいじゃないですか。それに見られてた方が燃え上がるじゃないですか! ですよね?」
「あんたの性癖なんてどうだっていいの。ところで、こんなとこまで何しにきたの?」
「はい! 衣替えということで見にきました!」
右手を直角に挙げて元気よく答えた。
彼女はいつも何も気にするでなく3年の教室にやってくる。振り返るとここまで堂々としている下級生はほとんど見た事がない。
「夏服になっただけだけど……一体何を見にきたの?」
「やだなぁ、みなまで言わせないでくださいよ。もちろん薄手の制服に身を包んだ先輩を
斜め角度からの腕組みポーズに少しだけ
「ワードセンスがエロ親父のそれ。もう少し言い方を考えなさい」
「安心してくださいね。もちろん裸体を想像しながらですから!」
「余計たちが悪いわ」
軽く美緒の頭を小突くと「いたい!」「やめて!」と壊れたおもちゃのような声が出てくる。
それがツボに入ったので何回かコンコンとしてみる。
「せんぱい。今日は愛のムチが一段と激しいです……ひどすぎますよ。もう一杯くださいますか?」
「おかわり感覚で言うな。で……用事はそれだけだった?」
「そうですよ。他に何があると言うのですか!」
と、ここでちょうど予鈴が鳴り響く。
「美緒。もう行かないとまた怒られるんじゃない?」
「はい、名残惜しいですけどこれで……。また部室でいやらしい事しましょうね? 絶対ですよ!?」
「はよ行け」
席に戻ると隣の席から、
「亜紀って後輩ちゃんとずいぶん仲がいいよね?」
「ん、そうでもないけど……」
「えー、わたしにはそう見えるけどなぁ。あ、なでちゃんにはまた内緒にしとくね?」
樹理はなんだかにやにやとしている。
「……それってどういう意味? て言うか撫子は関係なくない?」
彼女は何かはっとしたような顔をして「ごめんごめん、何でもなかった」と言ったきり静かになる。
――1限の数学の授業を耳にしながら、私の視線はグラウンドで短距離走をする
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