第二十七話 雨

 私は、今幸せの中にいる。


 まるで夢みたいで毎日ふわふわしているけれど、現実に引き戻される時がある。


 それが、自分の家に帰った時だ。


 無駄に大きな家。誰もいない冷たい空気が漂っている。


 冷たさが肌を刺し、ずきずきと痛む。


 私は、自室へと駆け込みベッドへとダイブする。


 体が冷えてしょうがない。


「佐紀君」

 

 私の口から無意識に零れる最愛の彼氏の名前。


 少し会えないだけで私は無性に寂しくなる。


 その時


「銀花」


 扉の前から聞きたくない声が聞こえた。


「何ですか」

「あなた、今回のテスト。順位が少し落ちていたわ。何をしているの?」

「すみません」

「すみませんじゃないわ。あなたが良い成績をとってくれないと私が恥ずかしいし、あの人に怒られるんだから」

「申し訳ないです」

「頼むわよ」


 扉から遠ざかっていく音がする。


 息苦しかったのが少しだけましになる。


 あの人は、人じゃないんだ。あの人は私をものか何かだと思っている何かなのだ。あの人だけじゃない。殆ど家に帰ってこないあいつもそう。偶に帰ってくれば、私に説教をしてくる嫌な何か。


 何も見たくない。感じたくない。知りたくない。


「佐紀君」


 会いたい。


 私は、部屋を抜け出し家からも抜け出した。


 勝手に足が動く。


 空を見ると、曇りでもう直に雨が降りそうだった。


 会いたい。


 佐紀君と付き合わなければ、出会わなければ知らなかった感情。


 誰かに会いたいだなんて思わなかった。

 

 でも、今では無性に会いたい人がいる。


「佐紀君」


 なぜだかあそこにいる気がした。


 走り続け、そこに着くと


「佐紀君」


 雨が降り出した。


「あのさ、君大丈夫?」


 そう言った。

 

 なぜだか、安心して笑ってしまう。


「あなたは.............私の彼氏」

「うん、そうだよ」

「佐紀君!!」


 私は彼の胸に飛び込む。


 体は寒いはずなのにポカポカしてる。


「佐紀君、どうしてこんな所にいるの?」

「んー、説明はできないけれどなんとなく、かな」

「さきくんー」


 やっぱり私たちって繋がっているんだ。


「銀花、泣いてるの?」

「な、泣いてないもん。雨のせい」

「.........そっか、雨のせいか」


 そう言って彼は、私の背中を擦ってくれる。


 彼の優しさが胸にしみて、じわっと広がる。


「家に帰ろっか」

「うん。一緒にね」


 彼が手を差し出した。


 私はそれを彼の指に自分の指を絡ませる。


「銀花、今日のご飯は何が食べたい?」

「佐紀君が作ってくれるものならなんでも」

「分かった、頑張って作るから食べてね」

「うん」


 佐紀君、大好き。

 

 

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