第十六話 すくすく育つ

「銀花さん、あのちょっと近い気がする」

「そうしないと教えずらいもの」


 ここは、特別等の空き教室。


 お昼休みの時間。

 

 僕は、銀花さんにLINEでこの場所に呼び出され一緒に昼食を食べ、勉強を教えてもらっている。


「それでね、ここはこうで……」

「う、うん」


 隣の銀花さんは眼鏡をかけ、髪が邪魔なのかそっと耳にかける。


「…あんまり見つめないで、.......恥ずかしいわ」

「ごめん、でもやっぱり近いと緊張するし」

「…ドキドキしてるの?」

「そうです!だから.........」


 僕はそう言い席を立ち銀花さんの隣から正面に座る。


「どうして逃げるの?」

「だから.........」

「ドキドキしてもいいじゃない。私は.........構わないわ」

「でも、銀花さんって男嫌いじゃないの?」


 そういうと、銀花さんは逡巡して


「確かに男の人は、大、大、大、大嫌いだわ。女の人もおんなじくらい大嫌い。でも、あなたはいいの」

「どうして?」

「.........友達だから。大切な」

「.........そっか」


 二人とも顔を背け妙な空気が流れる。


「あ、あのさ」

「う、うん」

「今日の、晩御飯何がいい?」

「.........カレーがいい」

「カレーね。分かった。あーでも、材料なかったかも。帰る途中、スーパー寄ってもいい?」

「うん」


 こくんと頷き、夕食が楽しみなのか無表情ながらもわくわく顔の銀花さんにほっこりする。


「あ、もうすぐ時間だね。教室に戻らないと」

「そうね、じゃあまた帰りに」


 お互いの教室に戻り、授業を受け終え学校から少し離れたところから一緒に下校する。


「あの........ね、佐紀君」

「何?」

「これからは、一緒に帰りましょう?」

「?一緒に帰ってるじゃないですか」

「そうじゃなくて、学校から一緒に」

「えー.........」


 確実にめんどくさいことになるような気がする。裕也とか特に過剰な反応しそうだし、男子たちの視線とかすごそう。


「だめ、だよね」

「うーん」


 上目遣いでこちらをじっと見つめてくる。


 .........そんな目で見つめったって。


「.........ダメ?」

「うっ.......」


 ダメ、百パーセントめんどくさくなる。


「というか、なんでそんなに一緒に行きたいんですか?」

「それは......あなたの事を知りたいから。友達だから」


 そんな、純粋な目で僕を見ないで。


「.........」

「.......分かりました、分かりましたから。だからそんな目で見ないでください」


 根負けしてしまった。


 明日からの登校、ひいては下校まで少々憂鬱だ。


「......今日のカレーは、カツもつけてカツカレーにしよう」

「....嬉しいことでもあったの?」

「そうだね」

「私と一緒に登校できること?」

「.......そうだね」


 僕は、男子共の視線に負けない!勝つ!


 


 

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