第十五話 成長中

「ここはー、こうで、ここの式に当てはめると解が.........」

「なるほど」

「ここは主語で、ここがVで.........」

「ふむふむ」


 幸城さんは教え方がうまい。


 ここは、学校から近い図書館。


 もし学校の生徒と鉢合わせるといろいろめんどくさいので図書館の角、死角になっている部分で教えてもらうことになり、三日ほどたった。


「幸城さん、教えるのがうまいね」

「それは……理解できているって、完璧に説明できているってことなのよ」

「なるほど?」

「そうじゃなきゃ……天才というものだわ」

「そうなんだね」


 幸城さんは、何故だか暗い顔をした。


「んー、そういえば、今日夜食べてく?ハンバーグにしようかなって思ってるんだけれど」

「ハンバーグ!……っあ」

「…可愛い」

「うぅぅ。もぉー。んぅーー」


 っとものすごく恥ずかしいのか言語化しづらい言葉を発して、首を振っていやいやしている。


「……か、可愛くないもん。恥ずかしいだけ」

「いや、ものすごく可愛かったですよ?」

「し、知らない」

「じゃあ、ハンバーグ食べない?」

「.........食べる」


 顔を、赤く染めながらもこくんと小さく頷いた。


「じゃあ、もう少し勉強したら帰りましょう」

「そうだね。もう少し頑張ってから帰りましょう」


 それから、英語、数学、古文をある程度今回のテスト範囲の部分を教えてもらえた。


 帰り支度を、素早く済ませ帰路に就く。


「そういえば、幸城さんって嫌いな食べ物はありますか?」


 ここ数日、幸城さんの料理も作っているが聞くのを忘れていた


「嫌いな食べ物……納豆とニンジン」

「なるほど、なるほど」

「.........子供っぽいって思ってる?」

「いや、誰にでも好き嫌いはありますから」

「じゃあ、四季君はあるの?」

「ゴーヤかなぁ」

「あ、私もゴーヤは苦手」


 と和気藹々としながら家に帰り、『ガチャ』っという音とともに幸城さんが玄関の鍵を閉めた。


「.........ねえ、四季君」

「…?なんですか」

「今日、一緒に昼休みにいた女の子って誰?」

「女の子……?あ、美紀さんのこと?」

「美紀さん?」

「う、うん。同じクラスの子で荷物運ぶの手伝ってくれて」

「ふぅーん。そう」

「.......どうしたの?」

「いや、なんでもないわ。それより、四季君」

「何?」


 幸城さんの様子が、家に帰ってから少しおかしいような。


「私の事、銀花って呼んでくれない?」

「いいですけれど、どうしてですか?」

「……四季君、というより佐紀君のほうが言いやすいからよ」

「……分かりました」


 どっちも同じ語数だけれど、人によって感覚は違うからな。


「じゃあ、改めて.......銀花さん」

「…う、うん」

「.....照れないでください。逆にこっちが恥ずかしくなります」

「.....照れてないし」

「じゃあ、銀花さんも言って下さい」

「さ、佐紀君」

「…なんだか、照れますね」

「う、うん。あ、あとそれと敬語も禁止」

「わかりまし.....あ、分かった」

「うん」


 っと満足そうに頷く銀花さん。


 ほんと、表情豊かになったなぁ。


 

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