第十四話 水をまかれる苗
「おはようございます、幸城さん」
「…おはよ」
まだ、少しだけ眠たいのか目をこすりながらふらふらとした足つきでリビングまでやってくる。
「今日の朝ご飯は、トーストとベーコンエッグ、コーンスープにサラダなんですけれど、嫌いなものはないですか?」
「……嫌いなものはないわ。ありがとう。全部美味しそうだわ」
「ありがとうございます。気に入って頂けて何よりです」
「そんなにかしこまらないで、私がお邪魔させてもらっている側なのに」
「いやいや、僕の我儘でこうなったわけだから」
「そんな風に思わないで。あなたはとても優しい人よ。我儘な人なんかじゃないわ」
とうっすら微笑んでくれる。
最初に会った時より確実に感情が豊かになったように思う。違うか、表に出してくれるようになったのかな。
「…だから、私の顔をじっとみないで」
「美味しそうに食べてくれるなぁって」
「…美味しいもの」
「ありがと」
と照れるように顔を背け、コーンスープを口に含む。
「美味しい」
ほんとに何でもおいしそうに食べてくれるなぁ。
「あ、今日のお弁当少し手を抜いてサンドウィッチにしちゃったんだけれど、ツナとかって食べられる?」
「食べられるわ。…本当にありがとう。四季君のお弁当、楽しみ」
「良かった」
本当に今日は良く感情を表に出してくれる。
少しは距離が近づけたってことなのかな。
「あ、そう言えば四季君」
「なんですか?」
「やってもらうばかりは嫌だから、今日も髪セットしてあげる」
「えー」
っと、僕が顏を顰めて嫌そうな顔をすると
「なんで嫌なの?そっちのほうがかっこいい?というか可愛いのに」
「だって、みんななんか見てくるから嫌なんだよね。女子とか男子もだけれど」
「………」
僕がそういうと、一瞬静寂が訪れる。幸城さんのほうに顔を向けると、さっきまで無表情ながらも微笑んで和やかだったのが、いまでは完全な無表情に見える。僕、結構、幸城さんの表情分かるような気がしてたんだけれど。
「…それは本当なの?」
「…何がですか?」
「その…他の子たちに見られるっていうのは」
「そうですね、イメチェンしているのを面白がっているだけかもしれませんけれど」
「…………やめましょうか。四季君も嫌がっていますし」
「?はい。そうですね。やめましょう」
妙に何故だか、へんな感じがするけれど気のせいだろう。
目の前にいる幸城さんはさっきの和やかな雰囲気を漂わせているし。
「じゃあ、そうね…家事の手伝いは…」
「大丈夫です、自分でやれるので」
「…私、家事出来ないから手伝えないしね」
「勉強を教えてもらうっていうのはどうですか?」
「……四季君の学力ってどのくらいなの?」
「普通よりちょっと上くらいですかね。幸城さんは結構上のほうなんですよね」
「…そうね」
「だから、教えてくれると助かるなぁって」
「分かったわ」
と若干意気込んでこぶしを握っている幸城さんが可愛い。
「それで…ね」
「なんですか?」
下を向いて、ぼそぼそと話す幸城さん。
「四季君って…どんな人が好きなの?」
「…?どうして急に」
「だ、だって、さっき女の子に見られるのが嫌だって言ってたから」
そう焦ったように返す幸城さん。
まぁ、確かにあの返しだと僕が変な趣味持っていると疑われるか。
「それは、普通に目立つのが嫌なだけです」
「…そっか」
「それで、僕の好きな人は…」
「う、うん」
真剣に、数分考えるが答えは出ない。
「........分からないです」
「…じゃあ、好きな髪形は?」
「…その好きな人に合っていればいいと思います。幸城さんはロングが似合っていますよね。ショートでも似合いそうですけれど」
「.........ありがとう」
そう言った幸城さんの顔は下を向いたせいか見えなかった。
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