第十三話 第二の発芽。

 「「いただきます」」


 二人で手を合わせたべ始める。


 恥ずかしくて口には出せていないが、彼が作ってくれるご飯はいつもおいしくて温かい。


「…温かい」

「そりゃ、さっき温めたからね」

「違うわ、そういうことじゃないの」


 そうじゃないの。人に触れる温かさ。この安心する感じ。心がポカポカする感じ。


 それにしても四季君は…。


「...........四季君は何も聞かないのね」

「聞いてほしいの?」

「…ずるいわ、そのいい方」

「ずるくないよ」

「急に子供にならないの」


 急に子供みたいになって…少しだけ可愛い。


「まぁ、どうでも良いけれど、もうこんなことしないでくださいね」

「…あなたには関係ないじゃない」

 

 …反射でこう言い返してしまう。色んな感情が、心の中で渦を巻く。


「関係ないかもしれないけれど、それでもやめてください」

「…どうしてそこまで」


 彼はどうしてそこまで、純粋に信じてくれるのだろう。


 私は、これだけ彼に良くしてもらっているのに未だに懐疑心が晴れない。


「少なからず関わった相手があんなことをしていたら誰でも心配になるよ」

「誰でも…ね。そんなことはないわ。みんながみんなあなたのようではないもの」


 四季君のように、みんな平等に優しくしてくれるわけではない。


 私は自分でも分かるくらい、少々捻くれた返しをしてしまう。


「そうかもしれませんけれど」

「そうかもしれないんじゃなくて、そうだわ」

「なんで、そう分かったような顔しているんですか」

「だって、今まであってきた人みんなそうだもの」


 今まで見てきた人、みんなそうだった。純粋に私を見てくれる人がいないかった。卑猥な目で私を見ていたり、私のことを道具だと思っていたり、ステータスで見ている人、嫉妬の目、いじめをする同性。


 私の心は、程々腐っていた。


 けれど、最近私は…私自身を疑い始めた。


 これは、四季君の影響だ。


 本当は、今まであった中にも数はごく少数かもしれないけれど、私のことを見てくれていたひとがいたんじゃないかって。踏み込まれるのがただ嫌なんじゃないのかって。


 そんな、うじうじした私を見て、


「あーもう、ごちゃごちゃうるさいです!」


  キッっとした表情で私を見つめてこういうのだ。


「いいから、もうこんなことやめてください。なんでもです。どうしても雨に濡れたくなったりつらいことがあれば、料理でも、家に泊めることでもなんでもしてあげます。だからもうこんなことはしないでください」


 必死な表情、懇願、私を心から心配して出てくる言葉。私の身を溶かして溺れそうになる。


 無意識に彼の目を捉えて、私はこう言っていた。


「…………それって、本当に?」

「ええ、本当です」

「…本当?」

「ええ、本当です。だからもうこんなことしないでください」

「………分かったわ。もうこんなことはしない」


 …こんなこと、もうしない。


「…毎日来てもいい?」

「そ、それは…」

「え、嘘ってこと?」

「い、いや違くて」

「…………ぷっ。ふふっ。冗談よ。さすがに毎日はこないわ。あなたにもプライベートは大切にしてほしいし」

「冗談きついよ。でも、よかった」

「何が?」

「いつものように戻ってくれて」

「っ…知らないわ、そんなこと」


 彼のことを…心の底から信じてみよう。


 心の中の消えない霧に光が刺した。

 

 そして、もう一つのどす黒い、ヘドロのような感情の芽生えの始まりだった。

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