第五話 あなたって…。
「「いただきます」」
二人で手を合わせて食べ始める。
改めてみると、城幸さんは礼儀正しいし所作がきれいだ。
それに昨日もそうだけれど、おいしそうに食べてくれるから作った僕としてはとてもうれしい。
「…食べているところをジッと見ないで欲しいのだけれど」
「ごめん、でも綺麗に食べてくれるからおじさん嬉しくなっちゃって」
「だからあなたは同年代でしょうが」
と呆れたように言ってくる。
「そういえば、家に連絡しなくてもいいの?」
「…大丈夫よ。もうしたから。友達の家に泊まってくるって」
「そっか」
と丁度その時、電話が鳴る。
一度名前を見て、興味が失せたように画面を伏せて机に置く。
「でなくていいの?」
「大丈夫よ。別にどうでもいいもの」
「そっか」
「……あなたって…」
と言い掛けて口を噤み、また黙々と食べ始めた。
微妙に気まずい空気の中食べ終え、女の子には準備があるのだろう洗面台のほうへ行ったままかれこれ二十分経った。
良かった、僕の家が学校に近くて。
「僕なら五分で終わるけれど」
「……ごめんなさいね、遅くて」
と身だしなみを整え終わったのか寝起きの時より数段綺麗な幸城さんが嫌味を言ってくる。
「別に気にしてない、女の人はやること多いだろうし」
「あら、最近は男性の方も美容には気を使っている人が多いみたいよ?」
「まだ、僕には早いからいいや」
「あら、勿体ない。顔は悪くないのに」
「良くもないし、さして変わらないからいいよ」
「あなた、面倒くさいだけでしょ」
「そうともいうかも」
「そうとしか言わないのよまったく。…こっちに来なさい。今日のお礼に髪型整えてあげる」
「いや…」
「いいから、早く。五、四、三…」
「はいはい、分かりました」
彼女は僕の寝癖を手早く直し、買ったまま放置していたワックスとドライヤーを使って僕の髪を整えていき、十分後には教室にいる陽キャのような髪型に大変身。
「ほら、やっぱり顔は悪くないわ」
「良くもないでしょ」
「素直に賛辞は受け取っておくものよ」
「はいはい、ありがとうございます」
「ふふっ…やっぱりあなたって」
「何?」
今度は躊躇うことなくこういう。
「面白い人だわ」
「お嬢様に気に入ってもらえて何よりです」
「照れなくてもいいのに」
「……照れてないし」
ズルでしょそれは。
別に照れたわけではない。
普段、無表情なこの子の微笑んだ顔が可愛かったからそらしてしまったんだ。
「じゃあ、そろそろ出ますか」
「そうね、というかもう出ないと間に合わないかもしれないわ」
「そうですね。…あ、ちょっと待ってください」
「何?」
「これ」
手渡したのは朝作ったお弁当である。
「良かったらどうぞ。不味かったらそっと捨てておいてください」
「はぁ…そんなことしないわよ。…本当にあなたって」
今度の言葉は小さくて聞えなかった。
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