第三話 どうやら有名人だったらしい
「お邪魔します」
と言いきれいに靴を揃え入っていく。
「あー、お風呂入る?着替えは僕のジャージしかないけれど」
「…分かったわ。入ってくる」
…なんか、従順というか諦めているというか、男の家のお風呂に入ることも構わないのか。普通、嫌だと思うけれど。
それから彼女はお風呂を入り終え出てくる。
「あーちょっとサイズがブカブカだね」
「…そうね。というかあなた私と同じ高校じゃない。それにこの色ということは二年生でしょう?」
「そうだよ」
「親御さんは?」
「父は海外に。母は…死んじゃったよ」
「…ごめんなさい。無神経だったわ」
「いいよ、大丈夫。それより君は何年生なの?」
「……あなた、私のこと知らないの?」
「知らないけれど?」
もしかして…芸能人とか?最近のトレンドについていけていないおじいちゃんだから許してほしい。
「…ぷっ。ふふっ」
「どうしたの?急に笑って」
「いや、何でもないわ。私の名前は、
幸城銀花………あっ。
「もしかして、氷姫とか学校一の美人とか美人だけれど冷たいとか言われてる人?」
「…あんまり本人を前に言わないで欲しいのだけれど」
「ごめんなさい」
「別に構わないわ」
別に構わないのなら言わないで欲しい。
「…あなた顔に出やすいから気を付けたほうがいいわよ」
「…さいですか」
「それで、あなたの名前は?」
「四つの季節に佐藤君の佐に紀元前の紀で四季佐紀っていう」
「普通の名前ね」
「さいですか。それで、はい。これ」
「ありがとう」
「辛かったら、ごめん。味を変えたいときはソースでも使って。あとお味噌汁も僕好みの味付けだから合わないかも」
「大丈夫よ、例え不味くても何も言わないわ」
「…君はそういうことを心にしまう努力をしたほうがいいと思う」
「あら、そう」
そう言って彼女は一口食べる。
「温かい」
噛みしめるようにゆっくり食べている。
そりゃそうか。あの雨の中、理由はよくわからないけれどずっといたもんな。
そのまま黙々と食べ続け米粒一つ残さずきれいに食べきってくれた。作った側としてはものすごくうれしい限りである。
「ご馳走様」
「お粗末様」
「その…美味しかったわ」
「お口にあったようで何よりです。お姫様」
「……」
「ごめんなさい」
その目で無言で睨まないでくれ。
「あなた、いつも料理作ってるの?」
「まぁ、一応。毎回買ってたら食費がかかるし。それに自分の好みの味付けにできるから」
「……すごいわね。それに男子なのに部屋きれいだし」
「男女差別ですか?」
「男子高校生なんてそんなものでしょ?」
「ひどい偏見だ。それに僕だって男子高校生だぞ。この部屋を見て全国のきれい好きの男子に謝って」
「私の謝罪はそんな軽く使うものではないのわ」
「さいですか」
一筋縄ではいかない気難しい女の子のようだ。
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