第二話 女の子を拾う。

 いつも通りがいつも通りじゃなくなるのはいつも突然である。


 このときのただの気まぐれが後に大きなことを起こすなんて誰も考えない。


 だって気まぐれだもの。


「あのさ、君、大丈夫?」

「…あなたは誰?」


 冷蔵庫の食材が切れ、スーパーに買いに行った帰りである。

 

 綺麗な子が制服姿のまま街灯の下でぼぉーっとしていた。


 同じ学校の人だ。


 一度は過ぎ去ったが、気になり戻るとまだ見つめていた。 


 夜七時の出来事だ。


「通りすがりのおじさんだよ?」

「どう見ても同年代の子、よく見積もっても二つ上くらいにしか見えないわ」

「いや、照れるな。そんなに若く見える?」

「あら、ほんとに年上?」

「それはあなたの年齢教えてもらわないと分からない」

「…じゃあいいわ。考えてみればどうでもいいもの」


 この綺麗な女性は何かと諦めがいいらしい。

 

「で、最初の最初の話に戻るけれど大丈夫?」

「大丈夫です。お気になさらず」

「はぁ、そうですか。じゃあ…さよなら」


 まぁ、当り前だよな。


 気まぐれが何かを起こすなんてアニメかドラマだけだ。


 かと言って、別にあの子と付き合いたかったとか体が目当てとかではない。


 ただ、あの目。あの死んだような目。僕も、少し前まで彼女と同じ目をしていた。


 だから気になったんだ。


 あの子の目には何が映っているんだろう。そう、ただの単純な疑問だった。


 まぁ、答えてはもらえなかったけれど。

 

 気にしてもしょうがないし、僕も無理やりにでも聞きたかったわけではなかったので諦め帰宅することにした。


 家にカレーのルーが余っていたので今日はカレーである。


 簡単だし。


 明日は、挽肉と玉ねぎあるしハンバーグかなぁとか思いながらぱぱっとカレーと、並行して作っていた玉ねぎとジャガイモのお味噌汁を作り終え時間を見ると八時半だ。


 耳を澄ますと雨音が聞こえる。


 外に洗濯物干しっぱなしにしてないよなと思うと同時に、チラッとさっきの子の顔が頭を過る。


 ………流石にもう帰ったでしょ。あれから一時間半経ったんだ。うん、いない、いない。


 そう思いご飯をお皿に盛りカレーをかけ、お味噌汁をよそう。


 いないはずだ、馬鹿馬鹿しいと考えながらもあの目が頭から離れてくれない。


 ………これを食べ終わったら見に行ってみるか。別に無駄足で終わってもいい。ただこのまま分からなくてもやもやするのが嫌なだけ。


 いつもより自分でもわかるくらいに早くご飯を食べ終え傘を持ちあの場所に行く。


 そして…。


「あのさ、君大丈夫?」


 やはり街灯の光をぼーっと眺めていた。


 ずぶ濡れで。


「あなたは……」


 少し驚いた様な表情をしたが、やはり虚ろな死んだような目でこちらを見た。


「通りすがりのおじさんだよ。それよりこれ」

「……これを渡したらあなたが濡れるじゃない」

「そうだけれど」


 馬鹿なことに僕は傘を二つ持ってくることを忘れてしまった。でも家が近いし大丈夫だろうと思っての提案だったが拒否られてしまう。

 

 じゃあ……。


「じゃあ、僕のうちまでくる?ご飯も食べてないでしょ」


 これが本当の気まぐれだった。思い付きだ。


 絶対に断られると分かっていたから言った言葉でもあった。


「分かったわ」


 そう言って彼女は僕の傘に入った。





 

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