そうだ 異世界 行こう。 〜異世界無双かと思いきや義兄と義妹の物語〜

祭囃子

勇者アーニャとは。

 連日、朝から晩まで大忙しの『異世界転移サービス』

 所謂『そうだ 異世界 行こう』プロジェクト。

 この社長兼責任者のホータローは、今日も今日とて昼飯を抜いて接客をしていた。


 ほんと、儲かるのはいいんだけど忙しすぎやしませんか?

 こんなんじゃ彼女も作れないし、会社の拡大もままならないじゃないか。


「義兄さん、ブツブツ五月蝿いわ。ちゃんと仕事して」


 部下でもあり、義妹のレーナがギロっと睨んできた。

 もちろん僕はふふんっと鼻歌まじりで聞き流した。


「あのぅ、すみません転移したいんですが……」


 暫くしていると、業務カウンターの対面にはいつの間にか、なんと栗色髪の美少女が座っていた。これには流石の僕も「可愛いのは良いけど気配消しすぎっ」と呟かざるを得なかった。ってか、ステルススキル何レベルだよ……。


「あっすみません。転移ですね。初めてのご利用ですか?」

「はい、出来れば最初から説明をお願いします」


 美少女がぺこりっと頭を下げると隣のレーナが「お任せ下さいっ」と勝手に話し始めた。


「では先ず鑑定からさせていただきますね」

「お願いします」


 レーナが鑑定スキルで美少女を丸裸にしていく。


 名前  アーニャ

 年齢  16歳

 職業  無職 男爵家次女

 婚姻  未婚

 犯罪  無歴

 レベル 1

 スキル ステルスS

 魔法  無


「社長はこの先は覗かないでくださいね」

「あっはい。(すんません……)」


 レーナに身長やスリーサイズの液晶を隠されてしまった。それにしても可愛いすぎだろ。なんで転移なんかしたがるんだか、めちゃくちゃ高いのに……。


「アーニャさん、では次に希望サービスですが、転移、転送、召喚、憑依、時間旅行などありますが如何いたしますか? 料金もそれによりますけれど」


 と、レーナがアーニャに返答を求めた。

 少しアーニャが上を向き「うーん」と考え、


「では転移で、異世界転移でお願いします」

「承知しました、では料金ですが――」


 そう言いながらレーナは料金表をアーニャに見せた。


 転移先

  〜120万ギル 勇者、聖女、悪役令嬢、その他人気職。

  〜100万ギル 魔法使いや戦士。上級貴族など

  〜80万ギル 荷物持ち等の冒険者や下級貴族など


 オプション

  〜各種10万ギル

   ユニークスキル、一度きりの蘇生、ハーレム、逆ハーレム……などなどなどなど。

  〜100万ギル

   チュートリアル、転移戻り


「こんなところでしょうか、ここから選んでいただき、契約書を交わして終わりです」

「ありがとうございます、ちなみにチュートリアルというのは?」

「隣の社長がついてまわり、最初に苦労しないようにしていくサービスですかね」

「なるほど」

「ちなみに、目的といいますか、具体的には何をされたいのでしょうか?」


 アーニャは少し眉を寄せ、


「女の子でTUEEEEはできますか?」

「えー。可能だと思いますよ?」

「わかりました、じゃあこれで――」


 ええと、なになに? 異世界転移。勇者。ユニークスキル。チュートリアル。転移戻り。

 なるほど、結構なお金持ちなんだろうか。とは言っても男爵家の次女か――訳ありだろうなぁ。


「アーニャさん、330万ギルになります。大丈夫ですか?」

「はい、即金で振り込みますね」

「ありがとうございます、ちなみに――似た街並みとか年代とか、何かしら希望はありますか? これはサービスで良いですよ」


 僕は本来料金がかかるオプションをただで提案した。

 さすがにレーナには太腿をつねられた。


「そうですねえ。イギリスかドイツあたりの古い街並みなどがあれば嬉しいです」

「わかりました。ではすぐにでも行きますか?」

「はい。準備バッチリですっ」


 アーニャは眼を細め期待に胸膨らませていた。

 僕とレーナは条件の合致する二人を選出し、少し時間はかかったものの、やっとのことで準備を整えた。


「では、少しの間お世話させていただきます。ホータローと言います。よろしくお願いします」

「社長、くれぐれも――」

「――はいはい、五月蝿いやつだな。わかってるよ」

「ふふっ」とアーニャが微笑んだ。

「すみません、では行きますか」

「はいっ! 行きましょうっ!」


 その声を確認し、僕は転移門を作り出した。

 アーニャは僕の隣にしがみつき少し緊張を見せた。


「じゃあな、レーナ数分のお別れだけど、よろしくっ」


 レーナに見送られ、僕たちは転移門へと一歩踏み出したのだった。





 2020/06/27

 (15:47:35)REC


 「なんで毎回毎回、私がバカの心配しなきゃいけないのよ。それもこれも全部あいつが悪いんだけど。こっちはたった数分だろうけれど、向こうでは下手したら数ヶ月、いやバカ次第では年単位で帰ってこないことになるんだもの。はぁ……さっきの子可愛かったしなぁ」

「レーナさん、お客様ですよっ!」

「あ、はーい。いらっしゃいませー」




 転移空間にいる間に、先日会社に届いていた手紙の内容について触れておこうか。たしか――差出人は僕たち兄妹の熱烈なファンからだったはずだ。


 確か僕たちの生い立ちについての質問だった。そもそも僕たち兄妹は二人で自殺を試みた。結果的に言えば、その影響もあって日本――によく似た異世界に転移することになるったのだ。


 当時の僕たち兄妹は――あまり思い出したいとは思えない程に不幸。いや、地獄とでも表現した方が僕たち兄妹にはあっているのかもしれない。それくらい壮絶だったと思う。この差出人がどうしても知りたいって言うのなら、それはまた別の機会にでも語るとでもしよう。それくらい、人に嬉々と聞かせれるものじゃないのだ。


 ※


「アーニャさん」

「あ、はい大丈夫です……ここは?」


 転移扉から飛び出すと、僕たちはおそらくとしか言えないけれど、どこかしらの街道に立っていた。


「まだ判断はつきませんね。とりあえず――ステータス確認しますね」

「はい。お願いします」


 名前  アーニャ

 年齢  16歳

 職業  勇者

 婚姻  未婚

 犯罪  無歴

 レベル 1

 スキル 聖剣具現化(ユニーク)ステルスS

 魔法  聖魔法S

 身長  158

 体重  49

 スリーサイズ 84-57-82


 レーナよ。こっちで見れるんだぜぇっ!

 ナイスプロポーションッツ、アーニャちゃんっ!


「だそうですね。中々便利そうですよ」

「そうなんですね? ユニークスキルかあ」

「おそらく一通りの聖剣を作り出せる能力だと思います」

「ふぇぇ! 楽しみですねっ、早くTUEEEEしたいです」

「アハハ。いいですね。因みに僕は荷物持ち――所謂ポーターです。前情報ではこの後、皇帝に会いにいくかって二人で話していた様子ですね。で、僕たちは幼なじみで――村を魔物に襲われたから勇者が――決意したとかなんとか。体験した訳じゃないですし、実感わきませんよね。とりあえず仲間を探すもよし、皇帝にあうもよし、アーニャさんに任せますよ」


 僕は勇者アーニャに判断を任せることにした。


「そうですねえ。ホータローさんもチュートリアル期間しか滞在出来なさそうですし、サクッと皇帝のところでも目指しますか」

「わかりました。馬車の轍からすると――あっちですかね? 多分としか言えませんけど」


 彼女の希望の街並みかはまだわからないけれど、ひとまず僕たちは馬車が進んでそうな気配を辿り進むことにした。


 暫く歩いていると、


「あれ、魔物でしょうか?」


 勇者アーニャが指差す方角に――ゴブリンらし生き物が三体、路肩でヤンヤヤンヤと騒いでいるのを見つけた。


「じゃあ、眼の右上にアイコンあると思いますので、そこに意識を向けてスキルを使ってみましょう」

「はいっ!」


 僕のレクチャーと呼ぶには些か雑な説明ではあったけれど、アーニャはすぐにユニークスキルの『聖剣具現化』を発動した。


「ラグナロオオオォォォクッ!」


 大きく叫んだアーニャの手には超巨大な聖剣が握られ、モーゼの海割りのように縦割りの一撃でゴブリン三体をいとも簡単に葬り去った。


 さすが勇者っっ! 火力がえげつない。

 それにしても、剣を振った時の胸の揺れが半端なかったな。ポヨンポヨンしてたじゃないかっ。この人ブラ着けてんのか? むむむ。ああ触りたい。だあああ触りたい。揉みたああい。ちょっとくらいダメだろうか。


「? いいですよ?」

「え?」


 うげっ、この人読心術あんのっ?


「いや、ホータローさんの眼をみてたら私の胸ばかり見てたので――触りたいのかなって。へへっ」


 少し照れくさそうにする勇者。いや、勇者がそれはいかんでしょっ!


「コホンっ、いえ。触りたいのは山々ですが、さすがにまだ昼ですしねっ!」

「ふふっ。エッチな人は嫌いじゃないですよ?」

「……と、とりあえず行きましょうね」


 いやーたまりませんなああっ。こんな可愛い子の――しかもめちゃくちゃ柔らかそうなおっぱい! ずっと触っていられそうだあ。にしても、なんでこんな無防備なんだ? むしろというのか誘ってるようにも見えやがるじゃないか。くそっー、こんな草原のど真ん中じゃなければ一回お願いしたいところなんだけど。レーナがいるとハメ外せないし、僕としてみたら願ってもない話なんだがなあ。


 僕たちが再び歩き出していると、


「先程、受付におられた可愛らしい方はホータローさんの恋人ですか?」

「ふぇっ? いやいやいや義妹ですよ、一緒に会社立ち上げたんです。それだけですよ」


 僕がそう言うと「ふーん」とアーニャは少し前を歩き、何度か頷いていた。


 街までは数時間ほどで辿り着くことが出来た。しかも幸運なことに首都だった。

 いやいや――異世界便利すぎな件だよ。




「ふぅ。ただいまっ義妹レーナっ!」

「うわっ、くっさ……マジ無理。風呂入ってきて」


 人を毛虫か何かと勘違いしてないか? 今の自分の顔を鏡でよく見てみろって話だ。数ヶ月ぶりのニッポンだって言うのに、わが義妹のレーナときたら――こういう時は普通、久しぶりの家族の再会で喜びの表情をみせて「お兄様、会いたかったっ! ぶちゅ〜」がお決まりなんじゃないのかよ……。


「何がぶちゅ〜よ。吐きそうだから早く消えてっ」

「どれだけお前が美人でモテモテだからって、どこにでもいそうな顔選手権一位の兄を、いや社長を愚弄しすぎじゃないのか? ムカつくやつだ」


 どうやらこれ以上は近づかせたくないらしい。

 本気で嫌がっている顔をしている。

 ……悲しすぎるぜ。


 僕は久しぶりにニッポンの暖かい風呂を満喫していた。自宅のマンションの一階――のテナントで僕たちの会社を運営してるという訳だ。ふふーん。


 それにしてもだ。アーニャのおっぱい柔らかかった……。じゃなくて、僕はアーニャに対して、なんか違和感があったわけだ。これといって何がとは言えないけれど。なんと言えばいいのだろうか、僕たち兄妹と似たような雰囲気。昔の――僕たちが死ぬ前の僕たち。それに似ていた気がする。


 しかも、帰り際に言っていた「財産はホータローさんに……」と、鍵の隠し場所だかまで伝えてきた。いまさらといえばそうなのだけれど、やはり――あまりにも怪しいと言わざるを得ない。


「お義兄ちゃん、まだ?」


 どうやら相当長風呂だったみたいだ。

 道理でお湯がぬるい。


「あぁ、すまん。一緒に入りたくなったか?」


 壁越しのレーナがドン引きしているのか、殺気のようなものを僕は感じた……。

 せめてレーナの手で首を絞めてくれるなら。


「なんで私がお義兄ちゃんを殺すことになるのよ。いいから早く変わってよ」


 僕はレーナと入れ替わり髪を乾かしながら尋ねてみた。


「レーナ、明日ちょっと付き合ってくれないか?」

「つ、付き合う?」

「? あぁ、アーニャについて調べてみたいことがあるんだよ」

「……あぁ。ふーん」






 翌日、僕たちはアーニャに聞いた自宅――らしき建物に来ていた。表現としては自宅というより雑居ビルならぬ廃ビルだった。


「で? 何があるのか早く言いなさいよ」

「まぁ慌てなさんな、愛しの姫君っ」

「……」


 これだろうか?

 アーニャに聞いていた三階フロアの片隅にあった倉庫扉。

 そこの隣にあるキャビネットの天板に張りつけたと言っていた、倉庫扉の鍵。


「お、あったよレーナ」


 僕はレーナに伝えながら扉を開けた。


「お義兄ちゃん……」

「あぁ」


 中には、10畳程の広さの倉庫の中には、貴金属や骨董品――などと思われる物が沢山綺麗に並べられていた。


 アーニャはこれを僕にくれると言っていたんだろうか。もちろん鑑定してみないことには価値などわからないのだけれど、それでも多分これは。


「これぞお宝ってかんじね。これをあの人が?」


 レーナはアーニャをあの人と呼称しているようだ。


「レーナ、ちょっと見てもらえる?」

「はいはい……」

「……」

「確かにあの人がここに並べていったみたいね」

「何か他に気がつくことある?」

「うーん。今のところは無いかな。でもこれがしっかりとした価値のあるもの――だとしたら」

「どうやって手に入れたか?」

「考えられるのは相続? 確か鑑定では犯罪履歴無しだったはずよね。それに――」

「それに、男爵華族ではなかなか難しいってのが一般的な価値観だよな。これが普通に価値のあるものだとすればだけれど」

「とりあえずお義兄ちゃん、警察……はまだ早いか。何も起きたわけじゃないし」

「そんなんだよなあ。とはいえ――はいありがとうと素直に貰うわけにもいかなさそうだ」

「うん。だね……」


 僕たちは廃ビルを後にした。

 会社に戻る途中、レーナが「少し調べてみたい」と言い残し、僕は独りで会社に戻ることになった。




 数時間ほど経った頃にレーナが自宅マンションに帰ってきた。


「おかえり」

「うん……」


 何やら浮かない顔のレーナ。


「どうしたんだ?」

「なんとなくでしか今は言えないけどね」

「? うん」

「あの人。アーニャさん……親から酷い目にあっていたみたいなの」


 酷い目……。

 それにしてもレーナはこの短時間で何を調べたのやら。


「あの倉庫にあった貴金属などは、あの家の物で間違いなさそう」

「……」

「これも私の感だけど、その酷い目に対しての腹いせ――とか復讐? のようなものなのかもね」

「それだと犯罪履歴は?」

「あの人が捕まった訳でもないし、家からも被害届出てないんだもの、履歴無しになるのは当たり前よ」

「そっか」


 酷い目というのはレーナが言いたくなさそうにしているのだから、聞くべきことではないのかもしれない。


 あのアーニャという今は勇者の女の子。僕たちのただの憶測でいうのであれば、家からの何かしらの酷い目にあい、家の財産をこっそりと運び出し、何食わぬ顔で異世界転移をして生まれ変わったということになるのであろうか。


「ステルススキル。Sだったけか……」

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そうだ 異世界 行こう。 〜異世界無双かと思いきや義兄と義妹の物語〜 祭囃子 @matsuribayashi

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