11歳編

第297話 王女の婚約

 船上で僕の誕生日会が行われてからしばらくして、僕らは無事タクテリア聖王国に到着したよ。

 到着は、僕が代官をしているミモザです。

 基本的には、ミモザが我が国の海の玄関口だからね。

 商会のみんなとはミモザで別れて、プジョー兄様と僕たち宵の明星の正規メンバーは王都に向かいます。


 無事王都に到着した時点では、帰還の報告は、王城へとあらかじめ入れられていたようです。

 で、王城からの指示で、3日間の静養期間の後、王城にて報告、なんだって。あ、ちなみに表側、つまりは王族のプライベート空間じゃなくて、ちゃんとした執務スペースの方で報告は行われるんだって。まぁ、ほとんどはプジョー兄様のお仕事で、僕は陛下にお褒めの言葉をいただくだけらしいです。



 王都に入ったあとの静養中は、リッチアーダのお屋敷でのんびり、なんて計画してたんだけどね、僕は王宮、つまりは王城の裏側というか奥側というか、まぁ、王家のプライベートスペースの方で過ごすようお願いされました。うん。命令じゃなくてお願いなんだ。無理強いじゃないから断りづらいよね。タハハ・・・


 王宮には第3王子として、僕のお部屋も用意されています。

 王宮ではね、メイドさんがお世話してくれるんだけど、それが結構恥ずかしい。服を着せてくれたり、湯浴みとかも手伝ってくれたり・・・

 だから本当はあんまり行きたくないんだけどね。


 なんだか、お願いが、とっても切実に感じて、断りづらいし、陛下への報告の儀式の段取りのお稽古とかもあるみたいだから、僕だけみんなと別れて王宮で過ごすことになったよ。

 本当は、近衛であるミランダとラッセイも一緒に、って言ったんだけどね、なんだかんだで、レッデゼッサ関連の引き継ぎがあるんだって。

 そんなこと言って、実際は逃げたんだよね?だって、引き継ぎだって、お泊まりを王宮にした方が便利なんだもん。本人たちは、近衛が護衛対象から離れて出たり入ったりするのはよろしくない、とかなんとか言ってたけど、怪しいものです。



 王宮に戻った日は、プジョー兄様も一緒にお疲れ様会をしてくれたんだ。

 そのときに、船の上での僕の誕生会が話題になり、プジョー兄様もちょっと自慢したもんだから、その次の日は、王宮でも僕の誕生会が開かれることになりました。

 おじいさまである陛下とかも呼んで、ちょっぴりロイヤルなパーティーにするみたいで、内心ちょっと面倒だな、って思ったのは内緒です。

 とはいえ、陛下も他の皆さんもみんな僕を大事にしてくれるのはわかるからね、ありがたく楽しもうと思います。



 そんな話をしていると、半年ちょっと前の、ポリア姉様のお誕生日の話になりました。

 姉様は、今年で15歳。そう成人になったんだよね。

 成人になると色々と服や化粧が変わるんだそうです。

 姉様的には、できる服装が増えるとかで、おしゃれが楽しいんだって。

 とはいえ、目の前にいる姉様は、相変わらず元気いっぱいの少女な感じで、そんなに変わったかな?と思うんだけど・・・

 え?

 口紅は大人用になってるし、アイシャドウも解禁?

 言われてみれば・・・な感じですが、僕には・・・アハハハ。もともときれいだからわかんない、ってことでよろしくお願いしますね。



 大人になった、ってことで?だかなんだかよくわからないけれど、な、なんと、姉様の婚約が決まったんだそうです。

 え?

 えええええ~~~~?!

 まだ15歳だよね?


 「何驚いてるの?生まれる前からお相手が決まってる人なんて大勢いるわよ。」

 なんて、姉様は平然としています。

 とはいえ・・・

 「いや、だからと言って、成人してすぐに決めなくても・・・」

 と、お父様はもごもご言ってるけど?

 ちなみにお母様は、お父様に

 「諦めてください。ポリアは一度決めたら、曲げない子ですもの。」

 と、おほほほ、笑っています。

 て、どういうこと?


 聞くところによると、どうやら姉様が勝手に婚約を決められたそうで・・・・

 え?マジどういうことと?



 どうやらそれは盛大に開かれた姉様の誕生パーティーの時の話のようで・・・・


 王族の成人パーティーということで、それは盛大に開かれたそうです。

 国内の貴族はもとより、他国の貴人もたくさん招待されたんだって。

 その頃、僕は、南部の方でわちゃわちゃやってる頃だったらしいです。

 こういう派手なパーティーには、僕は出なくていいことになってるからね。正式なお誘いもなかった感じです。

 養子とはいえ家族なのに王子の僕が出ないのはおかしい、っていうクレームもあったらしいけど、王家としては、招待客の狙いはほぼほぼ社交で、特に姉様が主役のパーティーに、僕狙いの人がいっぱいいたら、そっちの方がよろしくない、と、突っぱねたらしいです。

 あ、一応、ゴーダンたちに僕の出欠の希望は聞いたらしいです。けど、ゴーダンも、ほとんど社交に出ない僕と接触しようとする人たちが大量発生するだろう、って言って、断ったんだって。そういや、姉様の誕生パーティーという名の、タヌキの集まりに出たいか?なんて質問をされたような気がしないでもないなぁ・・・・ハハハ・・・



 で、そのパーティーでは、王家とよしみをつなごうと、本当に多くの人が訪れたらしいです。

 姉様のお相手を薦める人だけではなく、兄様たちにもお相手を薦めたり、その場にはいない僕にもたくさんお相手を、なんて、言ってくる人がいたんだそう。

 本人たちはもとより、お父様お母様も、その対応に大変だったんだって。


 とはいえ、王家がそれでいいのか、と思うけど、子供たちには愛情が抱ける人と結婚して欲しい、なんて思っているらしく、まぁ、このロイヤルファミリーは、代々そんな感じなんだって。

 それは参加者も知っているからこその、本人にアタック、は、あたりまえになってるらしいです。参加しなくて本当に正解でした。


 そんな招待客の中で、僕が出てくるのが今か今かと待ち望む人は、少なくなかったようです。中にはお父様たちに、ちょっと詰め寄る感じになる人も。

 国内の貴族は、いつものことだしやっぱり僕は参加してなかったか、みたいな感じで諦めもするけど、わざわざ僕目的に他国より来た人もそれなりにいるみたいで、礼儀ギリギリの人とか、それはアウトじゃない?な、人もいたんだって。


 そんなアウト!な人の一人でした。


 「そんな冒険者見習いは発見できなかった、そう正式に連絡いただけましたよね?我が国が切実に迎えたいと思っている子供です。あれは、アレクサンダー王子なのでしょう?私が先に見つけたのです。是が非でも我が国の復興の旗印にと、養子にしたいと大事に扱うと、何度も申し出ております。今からでも良い。是非彼を我が国に!」

 なんて詰め寄る、ガタイのいい男。


 が、そんな様子に、姉様はキレたのだとか。


 「あなた、失礼だとは思いませんの?これは私の誕生パーティーです。なのにアレクアレクと、弟のことばかり。それでもかわいい弟です。褒め称えるなら許しましょう。ですが、なんですか?弟の気持ちも無視して、復興の旗頭に養子に寄越せ?ふざけないでくださいませ。あの子は私のかわいい弟。タクテリア聖王国の『宵闇の至宝』です。何が先に見つけたですか!この二つ名は10年も前に陛下より賜ったのですよ。そのときにはもうすでに王家の子として私の家族も同然となったのです。彼は生まれながらに我が国の、王家の至宝ですわ!」


 大男はタジタジと、姉様から後ずさったのだそうで・・・


 姉様はその後、フォローというか、その大男を呼び出して、色々と話をしたそうです。

 姉様は、彼がそれなりの力のある騎士であり、政治家である、ということを知っていたようです。

 彼は、自分の国が内乱で衰えてしまっている、と、嘆いていました。

 しかも、多くの優秀な人材が海外、というか、我が国に出てしまった、とか。

 どうやらその優秀な人材というのは、ドワーフを中心とした鍛冶師らしく・・・って思いっきり身に覚えがあるような・・・・


 姉様もその辺りにはすぐに気づいたそうです。

 で、ちょっとは協力してあげてもいいかな、なんて思ったそう。


 ちょっと話をすると、彼は文武ともにそれなりに優秀で、しかも民のことを大切に考えられる為政者だ、と、姉様は思ったのだそう。

 だけど、なかなか復興が進まず、自分が目にした幼子のことがどうしても頭から離れないのだとか。彼が自分の下にいてくれさえすれば・・・・なんて、しょうもないことを、ずっと考えていたらしく、実際、あのとき見た見習い冒険者の子供は、タクテリア聖王国に籍を持つ冒険者である、と聞かされ、冒険者ギルドにも、タクテリア聖王国にもずっと問い合わせをしているのだとか。

 噂に聞く、この国の王太子の養子が、自分の探す子供ではないか、と当たりを付けたものの、実際に目にするまでは、国からの正式の返答に、否やは言いづらく、ことあるごとにこの地を訪れている、なんて(姉様曰く)グチグチと語ったんだって。


 「ああ、もう、グチグチと!復興なんて子供が一人いたからって変わりません。長い目で見て進めなきゃでしょ?大体人がいなくなるのは、国に魅力が無いから。もっと魅力のある方へと流れるのは仕方ないでしょ?だったらどうすべきか?ゆっくりとじっくりと、住みたいな、と思う国に変えていけば良いじゃない。人に頼る気持ちがあるうちはそんなことは夢のまた夢でしょうけど。はぁ。まったくしょうがないわね。その復興、この私が手伝ってあげても良くてよ。あなたが誠心誠意私に仕えるなら、あなたの隣に立って、復興の旗印になってあげても良いわ。」


 その後、この力強い姉様に、全面降伏したその大男。

 名を、レニボード・ザウ・フォン・ザドヴァ。

 ザドヴァを率いる革命の騎士にて、現代表その人でした。

 

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