第296話 11歳の誕生日

 目の前には、僕の大好きなものでいっぱいです。


 もちろん一番好きなのはママのスープ。

 本日はそのなかでも一番の、ナッタジ製の乳製品たっぷりのホワイトシチューのようなやつ。中のお肉も我が家産のだよ。

 バフマもいっぱい張り切って、多国籍ってだけじゃなく、僕をはじめとした異世界の前世記憶持ちが思い出し思い出し再現してもらった料理もいっぱいで、これにはプジョー兄様たち外交組も目を見開いていました。


 みんなから、いろんなプレゼントももらったよ。

 今回の目玉は本当はイヤーカフなんだろうな。


 これは宵の明星のみんなが作ってくれたやつで、通信、と言っても念話でだけどね、それができるやつなの。ようは、ベルトにつけられた通信用魔導具の簡易版。

 どうやらこれには僕の魔力を吸い取って魔石代わりにする、なんて高等技術が使われているらしいです。

 こんな小さな物にすごいね、って話したら、モーリス先生とカイザーががんばった、だそう。

 プラ板って前世にあったんだけどわかるかな?

 プラスチックなんだけど、焼くと縮むの。焼く前に絵とか描いておくと、そのまま縮んでアクセサリーにしたりする 。幼稚園のときに、僕は遊んだりしたみたい。それと大きくなってからは、これを利用したアクセサリーなんかも作ってたうっすら記憶が・・・


 でね、こういうのをモーリス先生も知っていたらしい。

 金属を混ぜて焼く工程で縮む物もあるからね、これを応用して、小さな魔法陣ができないか、なんて研究してたみたいです。

 この世界、前世と違って金属だって魔力を含んでたり、特殊なものもたくさんあるからね。合金次第でどう化けるかわかんない、っていうのも面白いところ。

 鍛冶師の中には、そういう合金の研究ばっかりやってる人もいるらしい。まだ僕はそれを専門にやっている人とは会ったことはないけれども・・・・


 何はともあれ、プレゼントのイヤーカフは、モーリス先生の科学知識とカイザーの鍛冶師の技術、ドクの魔法陣の技術によって生み出された特別な魔導具なんだ。当然のこととして、他のメンバーたちがあちこちからいろんな金属を見つけてきた、そんな成果の上で成り立っています。みんなありがと。


 そんなこんなで、世界に1つのイヤーカフ。僕がとっさの時にSOSをナッタジの本宅と、このアレクサンダー号へと届ける機能をメインとした簡易の通信装置なんだって。使い方は、イヤーカフに魔力を流すだけ。すると、受け手になっている2つの魔導具がアラームを鳴らすんだ。

 これのすごいところは、2カ所同時ってこと。それと、リアルタイムの僕の居場所がわかるらしいです。あとは1度起動すると、僕が気絶しても発信し続けてくれる・・・って、どういう状況を想定しているのか、ちょっと疑問です。タハッ。


 あ、そうそう。

 ピアスでないのは、僕の特殊事情かな?

 ヒールが使えるからか、魔力が多いからか、僕は傷の治りがとっても早いです。

 でね。すぐにピアス穴は埋まっちゃうと思うんだ。付けたままにしていたら、体内に飲み込まれるか吐き出されるか、それとも良い具合に同一化するか。やってみないとわからないとはいえ、外すには最悪耳ごと・・・なんてブルブル案件なんで、イヤーカフになったそうです。これ、魔力の多い人あるあるみたいだよ。


 そんな、みんなからのプレゼントは嬉しいけど、今回ナンバーワンは違うんだ。

 フフフフ。

 いやあ、うちの弟は天才だね。

 まだ1歳なのに手作りプレゼント!

 あの小さいお手々でコネコネして作ってくれた、お箸セット!


 今やナッタジの名物の1つと言って良い陶器製品は、食器を中心にずいぶん売れてるみたいです。

 ママも、人気作家?

 ていうか、ママが作ったものって素敵なんだけど「会頭作」ってのも付加価値がついてなかなかの品薄状態です。ママは、っていうか、もともとひいじいさんの頃のナッタジ商会は、お金を出せば買えるって感じではなくて、貴族とか庶民関係なく、必要な人に必要な物を、ってのがモットーなんだ。当然、ママの代でもその方針は受け継いでます。

 途中のなんちゃってナッタジ商会時代は・・・まぁ、あれは別物だということで・・・

 で、ママの作品はそんなわけで人気のわりにリーズナブル。大枚もって買いたたこうとする貴族とかお金持ちを、一店員であっても、堂々と追い返す、ってのも、うちが人気の秘密です。

 ま、それはいいや。


 生まれたときからママがコネコネといろいろ作っているのを見てきたレーゼ。

 ママの側で粘土をもらって、一緒にコネコネ。

 お座りが出来るようになると、コネコネしていたというから超天才です。

 で、そんなレーゼ大先生の一大大作、それが僕にくれたお箸と箸置きのセット、ってわけ。レーゼ~、一生大事にするからね~。



 僕の感動を乗せ、船上の宴はまだまだ続いているよ。誕生日関係なく、飲めや歌えは、海の男の本領発揮、ってところかな。一応の本業は商人に冒険者ばっかりだけどね・・・

 ていうか、王家に仕える騎士様たちもなかなかに、はっちゃけてるなぁ・・・



 「アレク、おめでとう。ちょっといいかな?」

 僕が満足げにみんなを見ていると、プジョー兄様が声をかけてきたよ。ちなみに兄様からは、きらびやかなペーパーナイフをいただきました。


 「もちろん。」


 僕とプジョー兄様は、みんなが騒いでいる甲板を離れ、船首の方へと向かいます。

 夕方から始まったパーティーだけど、今はすっかり暮れて、キラキラと星が輝いています。


 「フフフフ・・・」


 しばらく、二人で並んで空を眺めていると、突然僕を見て兄様は笑ったよ。

 ?


 「いやね。本当に夜の星空のようだ、と思ってね。けど、アレクの方がずっときれいだ。星々にたくさんの色の輝きがあるのを知れたのはアレクの髪のおかげかな?フフフ。」


 確かに、ほとんどの人は夜空にこんなにたくさんの色が輝いているのに気づく人はいないみたい。白っぽい輝きが多いけど、赤や緑に黄色、結構な色が夜空には輝いている。

 僕の髪は、そんな星々の色を取り込んだラメのように光る不思議仕様なんだけどね。それにどうやらこの黒っぽい髪色って、いろんな色が混ざったから濃紺になったのかも、って思わなくもないんです。だって、魔法を使うとき、ちょっぴりその属性に近い色に輝くんだもん。とはいえ、それなりの魔力をつぎ込まないと光らないけどね。


 ちなみに髪を褒めるのは、この世界では愛の告白の定番です。愛は愛でも恋愛だけじゃなくて、友達とか仲間への愛をささやくにも使うんだ。えっと、変な意味じゃなく、強さを称えるとか、そういう意味でね。髪を称えて、そんな君とパーティを組みたい、みたいな使い方をする感じ?まぁ、社交辞令にも使うけどね。

 ただ、ほら全盛だって、本能的に美人さんにデレるでしょ?

 あんな感じで濃い色の髪に男女問わず惹かれる、というのは、この世界の常識みたいです。

 僕はそういう意味でも異端みたい。パステルな髪を心底きれいとかかわいい、って思えるのは子供としても普通じゃないらしく、僕みたいな髪の人がそんなこと言うと嫌みに聞こえるんだそうです。これでずいぶん失敗してきたよ、ハハハ・・・



 にしても、兄様の今の言い方は、ちょっと、なんか弟を愛でる感じじゃないような・・・


 髪について色々言われるのはしょっちゅうだから、その人の心の動きもなんとなく感じるんだよね。

 今の兄様は、僕の髪を通じて、強さに憧れを持ち、だからと言って悪い感情を持っているって感じじゃなかったんだ。どっちかって言うと、そんな僕にお願いしたいけど、でもそれを逡巡している感じ?

 プジョー兄様のことは好きだから、別に無茶なことじゃなければ、力になるよ?


 そんな気持ちで、兄様を見上げる。


 「フフ、本当にアレクは良い子だね。それに、その幼い容姿にかかわらず、髪の美しさに負けぬ強さと賢さもある。」

 うー・・・褒め殺しは勘弁ですよ?


 「フフフ。そんなに警戒しないで大丈夫ですよ。王子となったときの約束は私の代でも違えはしません。そう私の代になれば、の話ですが、聞いてくれますか?」

 「・・・はい。」

 「もう数年のうちには、陛下も代替わりを考えているのでしょう。王太子たる父上が陛下になられます。そのときには新たな王太子として、今のままでは私が任命されるでしょう。」


 それはそうだろう。

 第二王子のパクサ兄様もそのつもりだ。騎士としてプジョー兄様を支える、そんなことを言っていたし、だからこそ、僕が今回の事件で色々やっているのに、自分が活躍できないと、悩んでいたもの。

 ちなみに僕ははじめから王になる予定はない。成人したら新しい公爵家を興すことが内々に確定しているしね。

 そんなことが頭をかすめた僕は、当然兄様の言葉に頷いた。


 「でね、実はアレクサンダー、君におねがいがあります。」

 「え?僕、ですか?」

 「そう。僕が信頼する偉大な冒険者である君に、です。ダー・ナッタジ。」

 「?」

 「フフフ。そう身構えなくても良いよ。話はもうちょっと先のことだしね。まだ正確なことは教えられないのですけど、我が王家には秘密の儀式があってね。それは王太子として認められるための最大の儀式なんです。」

 プジョー兄様はいつもの笑顔で僕を見つめる。

 「その儀式には、冒険者としてのダー、君に協力してもらいたいと考えている。」

 「冒険者として?」

 「今は返事はいらないです。けど私は時期が来たら声をかけるつもりです。そのときまでに、僕を、我が国を見定めて欲しい。まぁ、何年後になるかわからないし、儀式はパクサが受けるかもしれないけどね。フフフ。今はまだ忘れてくれていいよ。王子としてしっかりこの国を見定めて、冒険者として己の力を研鑽してください。これが兄として、君に今言える全てだから。」


 フフフフ・・・

 そんな風に笑いながら、いつもの調子でみんなの元に兄様は戻っていった。


 王子として、冒険者として・・・

 僕はこれからどうなっていくんだろろう。

 ちょっぴりの不安と大きな期待が、夜空の星のように煌めいていた。


                ~10歳編 完~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(作者より)

投稿がランダムの中、ここまで読んでいただきありがとうございます。

とはいえ、まだまだ続きます。

飛び飛びの年齢になるかもですが、最終話は成人(15歳)の予定。

とまれ、モチベ維持に☆や♥をいただけると、執筆速度に繋がるかもです。

(はっきり言えない弱メンタルですみません。)

11歳編、今日中(2004/10/13)または、明日には始められる予定ですので、これからもダーを見守ってくださいませ(拝)

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