第295話 いざ、帰ろう!

 「次は俺!」

 「え~、私が先よ!」

 ワイワイガヤガヤと賑やかなのは、子供だけじゃない。

 みんな順番の取り合いです。


 えっとね、レイブンのブランコにレーゼを乗せて怒られてから、4日後。

 ついに、この国を出て、我が国へと出航しました。

 何気に、ちゃんと僕がアレクサンダー号に乗るのははじめてです。

 一応、この国に向けた出港時とか、時折、ご報告だとかで、一時乗船はやったんだけどね。ちゃんと、乗組員として乗るのは初なんだ。



 出港したときは、それは賑やかでした。

 なんせ、兄様の初外交(?)。

 聞いた話では、外国に行ったことはあったけど、代表としていくのは今回が初なんだそうです。

 長い船旅と、全く違う文化、考え方の国での、政治活動。

 それを涼しい顔でやりきった兄様はたいしたもんです。


 僕?


 僕は兄様と入れ替わりで、お役御免でした。

 まぁ、何回か、お昼のパーティーとか、身内だけの(!・・・嘘じゃん!)夜のパーティーとかにおよばれはしたけどね。

 まぁ、あんまりおしゃべりはしなかったです。兄様かゴーダンが一緒じゃなきゃダメって言ってあったみたいで、年頃の(笑!エルフさんたちの基準だったりするから、察してね)お嬢さんを紹介したい、みたいなのが多く、『僕は子供だからわかんない。』で通せたのも大きいかな?


 パーティーには何度かバフマを近衛騎士的な形で連れて行ったりしたよ。本人が、この国の料理を見たいって言うんだ。同席しては食べられないけど、お付きの人たちがかわりばんこで食べる場所があるからね。研究して、食材を仕入れる、って張り切ってました。

 この国、っていうか、トゼは海に面しているし、また、魔物いっぱいの森に囲まれているからね、不思議な組み合わせの料理も多いんだ。多種族がいるってことも大きいかもだけど。

 バフマ曰く、出汁は海の物でとって、食べるのはお肉、ってのが多いんだとか。そのバランスの妙で、美味しいのも美味しくないのもあるんだけど、それが楽しいらしいです。アハハハ・・・


 まぁ、そんなこんなで、僕は社交、みたいなのはほとんどせず、冒険者な暮らしを楽しんでたかな?タールの魔物系の対処で大わらわだった、とも言う。


 これに関しては、レイブンが大活躍でした。

 レイブンって、よくわからない魔物です。

 魔素だけでできているんだろうね。魔素が実体化した、というか・・・

 逆か?

 実体が魔素化しちゃった魔物?

 個で全。全で個。一羽が体験したことは全部で共有する。しかも増えたり減ったりしても、本人(?)的には、気にならないみたい。

 よくわかんないけど、そんなものだと受け入れたら、とっても便利なお友達でした。


 レイブンの一部は、生まれた北の地へと戻ったみたい。

 で、なぜか、ワイズの下で働いてるらしいです。

 北の地は人の知らないところだけれど、タールの魔物は、樹海と同じくらい、それなりに発生するんだって。でね、一度発生すると、結構な魔物がタール化して、森の魔素量がぐっと増えたりして、そこから逃げる魔物も多いんだそう。

 こういうのが、人の住むところでも魔物が増えた、みたいな状況の原因だったりもするのかな?


 ワイズはかなり長い間、タールに呑まれなかった正気の魔物を守ったりしてたので、あのあたりのボスみたいになってるんだそうです。

 多種多様な魔物のボスみたいだから不思議だったんだよね。

 で、今回、レイブンが、タールの魔物たちに対処できるってわかったから、ワイズのお手伝いをするんだって。そうすれば僕が褒めてくれるでしょ?なんて言ってたよ。動機は何であれ、ちょっと安心。


 でね。

 レイブンの別の一部は、北の大陸のあちこちに散らばってるらしい。

 魔力さえ調達できれば、ご飯の心配は無いみたいだし、存在を薄めれば、僕にしか見えないそうです。うーん。これはなんと言って良いか・・・

 タールの魔物の発生を見つけたら、ワイズに報告して、放置か討伐か、決めるんだって。


 そんな話をしていたら、グレンが精霊の華さんに、このことを言ったみたいでね。華さんも協力するって。

 具体的には、華さんのところから森の精霊のところに道をつないで、グレンが自由に行き来できるようにするそうです。

 そうすると僕の足になれるでしょ?ってことみたいだけれど・・・


 ?


 なんと、精霊さんたち。

 森やそのほかの生命を守るのに、タールとかの対処の手伝いをすることに決定したそうです。

 いや、僕、聞いてないんだけど・・・

 それになんだって?

 レイブンの魔力をめがけて、宙さんが扉をつけられる?

 レイブンが僕の魔力を纏ってるから?

 何それ?


 レイブンって精霊とは違うけど精霊・・・というか妖精に近い魔物なんだとか。

 で、僕の友達になったときに、僕の魔力をずいぶんと取り込んだんだそうです。

 だから、レイブンの居場所は、僕の魔力を使っている宙さんがわかるし、他の華さんとか、森の精霊さんもわかる、らしい・・・みんな僕の魔力で繋がっているから・・・だそうです。


 いやぁ、ハテナがいっぱいだね。



 てことで?

 どうやら北の大陸だろうが南の大陸だろうが、精霊の空間を通じて、僕1人ならばレイブンのいるとこに移動が可能になりました。うーん・・・


 僕一人だと色々大変だろうって精霊さんたちが思ったみたい。

 いやいや、そもそも僕がやるなんて、一度も言ってないんだけれどもね?

 そんな、僕の都合は関係なく、僕の移動に足も必要だろうし、サポートも大事、なんて話をしたそうです。僕の知らないところでね。

 そんな中、大陸移動は、グレンなら、森の精霊さんちと花の精霊さんち経由でできるよね、ってなったんだそうです。

 他の僕の仲間もチラッと話には出たらしい。けどね。

 華さんのところはともかく、森はねぇ、ってなったんだって。

 魔力等々の質と量の問題もあって、森の精霊の場所に、僕の身内であろうと通すことは出来ないんだって。てことで、グレンだけがこの道をそもそも通れるんだけど、これからは、精霊様へのお伺いなしに、自由に通れるようになった、のだそうです。



 そんなこんなで、精霊包囲網がいつの間にか完成していたわけで・・・


 グレンは、とっとと、花から森へと通って、南に帰って行きました。この帰るときに精霊様たちとグレンの取り決めを僕が知った、とも言う。


 ともあれ・・・


 僕らは、さよならパーティーからの、犯罪者引き渡しセレモニーを行いつつの、盛大にお見送りされつつの・・・

 な感じで、出航したのが2日前だったんだ。



 いつの間にか、徐々に春の日差しが照りつける今日この頃。

 レーゼが興奮気味に空の旅を片言で語る様子に、みんな興味津々です。

 この船には、レイブンが1羽。

 僕についてきてたんだけどね。

 魔力も魔石もいらない通信道具、みたいな認識だったみんなでした。

 うん。はじめはね。


 そう、それは何気ないおしゃべりのときでした。


 レーゼはみんなにうらやましがられて、鼻高々。

 そうです。僕と一緒に冒険し、空の旅を楽しんだことを鼻を膨らませつつ、お話しします。

 そう。とってもかわいく自慢するんだ。

 で、また空のお散歩がしたいです、なぁんて、たどたどしく上目遣いで僕にお願いしてくるじゃないですか。

 そりゃ、よろこんで!ってなっちゃうよねぇ。


 最近じゃ、顔の作りもはっきりしてきて、髪も伸びて、一見金髪碧眼の、見た目だけなら僕なんかよりずっと王子様、なんだよ。

 ちなみに、髪の毛はお世辞にも濃い色じゃなく、実際には淡い黄緑色。若葉のような色で、多分風と土の魔法が使えるんじゃないだろうか、って言われている。パステルでとってもかわいいけど、この世界じゃ、パステルの髪は美人さんって思われないんだよな。でも緑がかった淡い金髪ってとってもかわいいよね?

 もちろん、絶世の美女とクールな美男子の父母を持つんだもん。顔のつくりだってすっごくイケメンだよ。

 ちなみに僕は、幸いなことに(?)父親の遺伝子はほぼ入ってません。ママに似てるって言われるけど、リッチアーダの人に言わせれば、ママのママであるパーメラばぁちゃんの小さい頃によく似てるそうです。活発でゴージャスな美人さんだったみたいだよ。



 ま、僕の事はいいや。


 僕がレーゼのお願いを無視することなんて出来るはずもなく・・・

 ついてきてくれたレイブンと相談して、僕の魔力をレイブンにお裾分け。

 あっという間に6羽になりました。

 からの・・・

 いってもナッタジのお船だからハンモックは必須です。

 お裁縫が得意な人たちがあっという間にハンモックをブランコ仕様に。

 あ。ちなみに僕が作った二人用のブランコは、帰ったときに取り上げられちゃって、ハンモックに戻されちゃいました。


 今回は1人用にしたんだって。バランス的にその方が良い、ってなぜかブランコ作りに参加していたカイザーが言ったんだ。


 出来た後はお察しです。


 順番にちょっとだけ船から舞い上がっては、体感5分くらいかな?

 空の旅を楽しんでます。

 子供も大人も、やっぱり暇してたんだよね。船旅はいくら快適な設備があっても、どうしても暇な時間が出来ちゃうもの。娯楽を楽しむのは仕方ないんです。


 ちなみに、複数のブランコ作成は、ゴーダンたちに却下されたよ。

 レイブンを増やすのに僕が魔力を使っているのを見て、これ以上はダメだって。

 他の人も同意したから、仕方ないね。

 1つのレイブンブランコで楽しんでください。


 こうして、僕らの船旅は、楽しみを増やしつつ、順調に進んでいったんだ。

 

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