第293話 お風呂、行くぞ

 「ぶう、バンイバンミきりゃあい嫌い。」


 なんだかんだで、まもなく晩ご飯、って頃に、僕らはお泊まりしているセスの屋敷に帰ってきたんだけど・・・・

 あ、グレンやレイブンは、トゼに入る前にバイバイしました。

 しばらくは、日帰りできる範囲(グレン目線で、だけど)、タールの魔物とか、なりかけもいなくなっちゃったから、安心だって。

 うん。あの後、もうちょっとだけ、樹海奥地に足を伸ばして、レイブンと僕のどっちがタールたちに有効か、なんて、遊び・・・じゃなくて、実験、そう実験のお仕事、そうお仕事だよ!、をしたりして、まぁ、どっちも一長一短で有効、って結論づけたりして、思う存分はっちゃけ・・・じゃなくて、お仕事、お仕事。そんなことをしてたら、想像以上に時間を食っちゃったんだけど・・・


 はぁ。

 どうやら、レーゼがご機嫌斜めのようです。


 レーゼは、1歳ともう、3ヶ月?4ヶ月くらい?秋生まれだからね。もうすぐ、春の生まれの僕が誕生日で、11歳になるし。


 で、とってもお利口です。

 いや、他の子供とか、知らないけど・・・

 僕の周りには、年上ばっかりだったから、初の年下。

 もうかわいくって仕方が無い。

 けど、特に最近は、あんまり会ってなかったってこともあって、会うたびに大きく、賢くなっているんだ。

 ちょっと前までは、僕が側にいれば、すぐにくっつきたがるし、髪の毛をはぐはぐしたりにぎにぎしたりしてたんだけどねぇ。


 僕が帰宅したのに気づいたのか、玄関先でママたちと一緒に待っていた、はいいんだけど。

 僕に、なんだか泣きながら抱きついたと思ったら、一緒に帰ってきたバンミに飛ぶように移っていって。

 慌てたバンミにしっかりと抱っこで受け止められたんだけどね、そんな抱っこで両手が塞がっているバンミに、ちっちゃいお手々で、顔面を(!)パシパシと殴りつけながらの、冒頭の台詞です。

 お顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、抱っこしてくれてるバンミの顔をグーで殴りつつも嫌い発言。僕だったら再起不能だよ~~

 でも、バンミは、苦笑しつつも、軽く顔をそらしてダメージを削減しているだけで、殴られるに任せてます。大丈夫?


 「あぁ、ごめんごめん。レーゼの大事にお兄ちゃんを連れてって悪かったよ。でもいいのかなぁ。レーゼの悪さを大事なお兄ちゃんがびっくりしてみてるぞ~。人のお顔を叩くのは良いこと?悪いこと?」


 なんか、小さい子の扱いが慣れているバンミ・・・

 僕も彼と出会ったときは小さかったけど、出会い方が出会い方だったから、怖いお兄ちゃん、ってイメージしかなかった。今でも、どっちかっていうと怖いイメージは残ってるけどね。すぐ怒るし~。

 不思議なことに出会ってから身長差が広がってるのも、僕が苦手なことが得意だってことも、ちょっぴり頭が上がらない原因かなぁ、なんて、思う。あ、大好きなんだけどね、バンミのこと。バンミの方も僕の事を一番大切に思ってくれてる、ってのはわかるし。いや、言葉はなくても、そういうのが感じちゃうのは、うれし恥ずかし、なんだけれども・・・



 でもまぁ、僕にとっては、一番身近な怖い兄貴、って感じなんです。

 ほら、片親同じの3バカトリオは、どっちかっていうと、バカやる仲間、な、感じだし。あ、3バカってクジ、ニー、ナザね。とはいえ、なんだか3人とも今じゃ、それぞれに成長しちゃって、バカはあんまりやってないけど。


 で、怖い兄貴ってのは、バンミになっちゃう。ラッセイとかミランダも兄さん姉さんな感じだけど、ほら、ママより年上だと、どうも、ね。2人とくっつけて考えてたヨシュアがママと結婚したし、初めて見たときが騎士の格好だったってのも、大人感があって、せいぜい年の離れた従姉兄ぐらい?あ、でも、ラッセイのポンコツ脳筋ぶりに、彼だけは、はじめからお兄ちゃん的な気持ちもあったかなぁ?ま、いいや。



 そんな僕にとって、おっかない兄貴であるバンミを、どう考えてもパシパシと怒っている実の弟君。とってもたくましい。けど、やられているバンミも、なんか優しげなんだよなぁ。ちょっと嫉妬しちゃいそう。僕にあんな風に優しい顔、見せてくれたこと、無いような・・・

 もともと、孤児院にいたらしいし、自分より小さい子の扱いには長けている、なんてママやヨシュアからは聞いてはいたけれど。


 そんなことを思いつつ二人を眺めていたら、僕の方を急にレーゼが見たから、一瞬固まったよ。

 で、そんな僕を見て、びぇーん、って、レーゼ。

 どうしたの?


 「びぇーん。ダーちゃ、僕、きりゃー嫌い?」


 おっと、久々のダーちゃ、です。

 って、感動してる場合じゃない。どうしたの。


 「レーゼはダーに嫌われないか、心配してるんだよ。」

 「?」

 「悪い子は嫌われる、って思ったんじゃない?」

 「あー・・・」

 叩くのは悪い子だと、レーゼはわかってるんだ。

 っていうか、こんな小さい子がちゃんと言葉を理解してるなんて、きっとこの子は天才に違いない!よね?


 僕が弟の非才ぶりに打ち震えているのを見て、バンミはハァーッてでっかいため息をついたよ。

 「フフ。レーゼはダーに似て賢いだろ?」

 パパヨシュアが、ちょっぴりデレ顔で言ったよ。

 そして、

 「お帰り。先にお風呂に入って着替えておいで。」

 ハイです、パパ。

 「バンミも。」

 ママがレーゼに手を出しながら、バンミに言ったよ。

 「ああ。」

 バンミがレーゼを剥がそうとして・・・


 「いやぁぁぁぁぁ。」


 珍しくママの抱っこを拒否して、バンミにしがみつくレーゼに、みんなびっくりです。けど、さすがはママだね。


 「レーゼもダー兄ちゃんとお風呂が入りたいのかな?バンミ、お願いできる?」

 「わかった。」

 ママの言葉に、涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、レーゼはキャッキャッと笑ったよ。どうやら正解のようです。っていうか、今泣いたカラスがもう笑った、って言葉前世にあったけど、こういうのを言うんだろうね。

 想像以上の変わり身の早さに戦慄だよ。


 ・・・


 ていうか、レーゼは僕とお風呂入りたいんだよね?

 なのに、なんでバンミにしがみつく?

 それに、ママも。

 なんで、バンミにお願いする?

 僕一人でも、レーゼのお風呂のお世話ぐらい出来るんだけど?

 そりゃ一緒にお出かけしていたバンミも汚れているし、一緒にお風呂に入るのはやぶさかではないんだよ?

 けどさ・・・・


 「ダー、さっさと行くぞ。」

 「くどぉー行くぞ。」


 うん。やっぱり納得いかない僕でした。


 

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