第290話 僕とレイブン
レイブンに包まれた魔導具が、本来の姿を取り戻した。まぁ、ずいぶんと劣化したようではあるけれど・・・
その様子に、声のない驚愕が満ちたよ。
知ってた?
本当に驚いたら、声なんて出ないんだ。
そもそも、黒い水たまりに捕まった魔物が、触れる物すべてを同じように黒い半固形の物体に変えていくということはそれなりには知られていた。
その黒い塊は何もかもを喰らい、同化していく。
しかも、とんでもなく高い魔力を帯びていて、近づくことは不可能。
触れれば剣も矢も同化する。
じゃあ魔法で、と、思っても、相手は魔力の塊みたいなもの。
まるでその魔法に含まれる魔力を取り込むようにして霧散させてしまう。
その性質は、なぜか魔力=魔素の濃い方へ濃い方へと移動しようとする。
そうして周囲を取り込んでは、さらに魔力が多くなり・・・
だがどこかで、その固形状の形は保てなくなって、崩れ落ちる。
崩れ落ちてしまえば徐々に黒い塊は周囲に同化するのだけれど、大量の魔力が撒かれたのと同じで、その辺りの魔力濃度はかなり上がる。
魔力濃度が上がると、人は住めなくなるから、この国の人たちは、人の住む地から極力遠ざけたところで、黒い魔物が崩壊するように、と、導いたり見守ったりする他はない。それが常識っちゃあ常識だったんです。
まぁ、もっとも、この現象の始まり=黒い水たまりは、魔素が異常発生してできるらしく、魔力の濃い地でしか起こらないんだけどね。
そんなこともあって、時折発生する災害みたいなものとして黒い水たまりは考えられていたし、そこから発生する黒い魔物も、人里から離れて現れるものとして認識され、一部の者しか知り得ない存在だったんだ。
そして、ホーリーは僕が始めて使ったんだから、このホーリーを唱えると白くなるって現象は、さらに知っている人は少ない。
だから、その白くなった物体が元の物体に戻る、って考えたこともなかった。
だって白くなるととってももろくなるんだもん、違う物になっちゃったんだって思っても仕方ないよね。
だけど、実際は違った。
レイブンが触ると、ううん、僕が触っても、物体は元に戻ったんだ。
なんで?
レイブンは、僕の言う瘴気の塊みたいなものです。
タール状のものとの違いは、他の人に見えるかどうか、かな?
あ、今は、ちょっと変わって、他の人も見えるようになっているみたいだけど。
瘴気、っていうのは、僕が勝手に思ってる状態で、強い強い魔力を帯びたもの、なのかもしれないです。
僕は、魔力を素のまま纏える。
瘴気ってのは、それと同質のもので、僕のイメージで黒くみえちゃってるんじゃないかって、今、思いました。
だって、レイブンになる前のロンベって、他の人には、魔力の塊が蜃気楼のように揺らめいているって見えるんだよね。
てことは、特に色なんてついていない魔力の濃いところってのが、僕の目にだけ、何だったら自分で判別できるために、黒い瘴気として認識してるんじゃないか?って、そんな風に思ったんだ。
たしか、色ってのは光の反射を見てるんだよね。
反射が全部なら白、全くなかったら黒、だっけ?あれ?逆だったかな?
どちらにしても、魔力は色を持っていて、髪の毛に顕著に表れるけど、白や黒ってのは、属性を持ってないか、または全部が同量で混ざっちゃった状態、なのかもしれないね。
だからぶつかり合うと、互いに吸収し合って、空っぽになって色をなくし、属性のない、または全て持つ魔力が注がれると、元に戻る。
いや、あくまで推測ね。
全然、事実じゃないかもしれない。
「事実として、白くなった物体を元に戻す
ポツポツと復活しつつあった僕らは、考察ってほどじゃないけど、色々意見を言い合い・・・
でも結局結論なんてすぐに出ないよね。
てことで、ドクが、「事実として・・・」なんて述べて、これをどうするか、って聞いたんだ。
「小屋は戻せるだろうか?戻ったものがどうなるかも検証したいし、ガーネオの研究の残りが回収できるなら回収したいんだが?」
一緒にいたセスの人の一人が言ったよ。
たぶん、セスの村で、研究とかしている人だね。
みんなの視線が僕に刺さる。
えっと・・・
僕は、ゴーダンとドクに視線を送る。
二人とも、やれって感じで頷いた。
僕は、そうっと、小屋の取っ手に手を置いたよ。
うん、しばらく触れたところは木っぽく戻っていくね。
ゴーダンに言われて、ペンダントを首にかける。
僕の漏れた魔力を吸収してくれるペンダント。
ペンダントをして触っても、全くもって変化しない。白いままだね。
「どうやら、ある程度の魔力量が必要ということみたいだな。ダーのダダ漏れ状態の魔力があって、はじめて変化する、か。」
うん。ゴーダンの言うのは正しいね。
けど、言い方!
ダダ漏れ状態って!
僕が口を尖らせると、笑いながら、頭を撫でるけど、グリングリンされて、それは撫でるじゃない!
僕が抗議すると、なぜかみんな笑うんだ。
なんだよ~
とはいえ、笑いに包まれて、ピキンって張ってた空気は、ちょっと緩んだから、良いのかもしれないんだけどね。ダシにされた本人はご立腹なんだよ、わかってる?
まぁまぁ、なんて言われながらも、僕はみんなに言われるまま、ペンダントを再び外したよ。
小屋にペタペタ・・・
『ダーが触ってたら時間がいくらあっても足りんわ。おういレイブンよ。小屋を包めんか?』
グレンが言った。
そうだよね。僕が全部やらなくてもいいじゃん!
だけど、レイブン。
いっぱいいるけど、彼らが飛んで小屋に近づいたら、あっという間に崩壊しない?
『だいじょうぶ~~。まかせろ~~』
嬉しそうな、ちょっと甲高い声が僕の頭に響いたよ。
レイブンのみんなは地上から飛び上がり、風を舞い上・・・・・がらなかった!
えっとね。
僕が名前をつけたら、みんなにも見えるようになって、明らかに物質っぽかったんだけどね。
カラスのように羽を広げて飛び立ったら、どういう仕組みか、その身体は瘴気みたいに、魔力の塊。
戻った、って言うより、そもそもが魔力の塊だったようで・・・
彼らはみんなで一人(羽?)、って言うのも頷けるように、薄く黒く広がると順番に小屋にペタって張り付いていって。うん。音もなく、風もなく、そもそも実体すらあるのかどうか。
黒いその魔力は、数羽の鳥から未分化のもやのように小屋にとりついて、中には、小屋の中に浸透していくものまでいて・・・
小一時間後
もやっていた黒い霧は小屋から離れて、徐々にいくつかのかたまりとなり、地面に降り立つ。
順々に降り立つのだけど・・・
なんだか縮んだ?
一羽ずつが、すっごく小さくなっちゃってるよ。
『あるじ~。げんか~い。魔力ちょうだぁい~』
フラフラとしながら、小さくなったレイブンが言う。
僕は返事を・・・・
しようとしたけど・・・
急速に魔力が減る?
減ってる・・・よ・・・ね・・・?
・・・・・
・・・
僕の意識は沈んだようです。
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