第289話 レイブンって?
レイブン
僕がその名を決めたらね、なんか、ロンベたちの姿がもやから固体になったみたいに感じたんだ。
でね、一回り縮んだその姿は、どうやら他のみんなも見えるらしい。
うわぁ・・・って驚いたような声が漏れたよ。
『あるじ~。力が湧く~。』
嬉しそうなそんな声も聞こえ・・・
?
なるほど、そういうこと。
彼(ら)の声が、その念話が、僕に届いたとき、僕にはわかったんだ。そう、彼らはいっぱいだけど一人なんだって。あ、一人てのはおかしいかな?1羽?
ストンって感じでそれが理解できたっていうか・・・
口で言うのは難しいけど、彼らは1羽であり全員でもあるんだって、そんな風に思えたんだ。
でね。それと同時に、っていうか、彼らが伝えてきたんだけどね、わかった事がある。
彼らは、あのスズメもどきの形の時から、身体に似合わず大量の魔力を持っていたんだって。他の魔物よりずっと多くて、もう魔力が皮を被った、そんな存在だったんだそうです。
だからだね。人が食べたら魔力過多症とでも言うべき症状に陥って、体調を崩したり、最悪亡くなったりしたんだろう。
彼らを食べたら体調を崩すのは人だけじゃない。
魔物だってそうだから、本能的に弱い魔物は近づかない。害虫がいなくなる、って噂もそれが原因かもね。
ただ、こんな魔力が多い魔物なんだけど、これも彼らの特徴なのかな?魔力が外に出ないんだって。ていうか、その羽はとっても効率よく外の魔力を吸収し、中の魔力と相殺して、魔力が多いってことを気づかせないんだそうです。
種としては、そんな特徴があるスズメもどきなんだけど、この相殺が崩れると、あの瘴気の塊みたいになるんだそうです。
外からの魔力も効率よく取り込めるけど、個体差はあるものの限界が来る。
主に魔素が満ちた場所ではそうなりがちで、パァンってなったら羽、ていうか、肉体がはじけるんだって。その状態が、ロンベって言われる魔物らしいです。
パァンってなった後だけど、パァンってなるときに、魔石が細かく砕けるんだって。で、その砕けた魔石がきれいにスズメもどきだった魔力に混ざり合う。うまく混ざり合ったら意識は消えないそうで・・・
そうなると形を保つために魔力はかたまったまま維持できる。そんな魔力だけの身体になったのが、ロンベ。
なんで、そんなことがわかるかって?
ここにいるレイブンなロンベたちは、全員その行程をたどってきたからです。
過去の記憶が僕に流れてきて、それを言葉に表したらこんな感じ。
でね。
魔力になると、どうも自分とか他人とかの区別が曖昧になるみたい。
自我はあるけど、拡散していく、みたいな?
最終的には広がるだけ広がって、周りの魔力に同化しちゃう、そんな怖さがあったみたい。
で、ここにいるロンベたちは、僕の名付けで、1つの強固な人格を得た。
ここにいる子は全員で1つになった。
そういうことらしいです。
ま、いいや。
嬉しそうに解説してるけど、正直僕にはその感覚も感情もわかんないです。
けど、あの滝壺は、もともと魔素が多い、森の奥地にあってなお、魔素に満ちた場所らしく、それは水にもたっぷりと含まれているんだって。
他の魔物みたいに、浸かってすぐに出れば、癒やしの水に。
ただし薬と毒は同じ物ってことで、その浸かる時間をミスったら、魔力過多の時と同じく、壊れちゃう。
そんなことはわかっていたところで、ほぼ魔力でできているスズメもどきにとっては、その甘美で芳醇な魔力たっぷりの水の誘惑にはあらがえず、スズメもどきのままでは、脱出できないんだとか。
ロンベとなれれば、解き放たれる。
少し、というか、だいぶと賢くなるからね。
とはいえ、そのままじゃ、森の糧となるのは目に見えている。
それに気づいたとき、初めて「怖い」って思うんだって。
ワイズはね、そんなロンベのことをようく知っていたみたい。
で、僕ならなんとかなるんじゃないか、ってなぜか思ったんだろうね。その辺りは本人に聞かなくちゃわかんないけど。
でもまあ、彼は言ったそうです。
自分のあるじである僕の子分になれば、きっと助かる、怖くなくなるよって。
ロンベはじゃあ、僕の子分になる、ダーはあるじだって、一生懸命僕の魔力をたどってやってきたみたいです。
魔力の塊の彼らのこと、おいしそうな(!)僕の魔力は、たとえスズメもどきからロンベになっても、しっかり覚えている。むしろ魔力むき出しの姿になった今の方がはっきりわかる、と、群れをなしてここにやってきたって感じだね。
まぁ、一方的なレイブンの記憶から読み取ったことだから、正解かはわかんないけど。
そんな彼ら。
僕の前に降り立ったって言ったよね?
それは、ドクの結界が解けたってことでもあるんだけど・・・
当然、というべきか、結界の中は白い世界で。
結界で閉じ込められていたこの世界は、僕がホーリーを唱えたときから、さほど変わってなくて。
土だって、木だって、草花も、小屋も真っ白で。
なのにね。
じわじわと、彼らが立っているその地面から、白が消えていく?
そういやね。僕が歩いたその後は、白い大地は足跡を残したんだ。
漏れ出た魔力を吸って、魔力を持ったってことみたい。
白い=まったく魔力が無い、っていう状態は、この世界ではあり得ないはずの状態で、すぐにでも魔力を取り込もうとするんだ。
白くなった物体は風にあおられて消える、って。
でもどこへ?
白くなったのは、元に戻らない。
ただただ崩れて消えちゃう存在。
そんな風に思ってたけど、それは本当?
風に乗って消えちゃうのは、粒子状になったら周りの魔素と混ざりやすく、それで色を取り戻すことが出来るからじゃないの?
それが証拠に・・・・
魔力の塊であるレイブンの足下から、土は白から茶へと変わっていく。
僕が踏みしめた大地のように。
僕が気づいたと同じように、みんなも徐々に気づいたようです。
僕はグレンから飛び降りた。
ドクから渡されている、僕の魔力を吸収して隠してくれるペンダントを外して、ポシェットへ。
僕は、少しの時間をおき、片足をそうっと上げる。
僕の足型が、地面にくっきりと・・・
黙って、僕の様子を見ていた人たち。
ゴクン、って誰かが唾を飲み込んだ。
僕は、物は試し、とばかり、一番側にあったシャッセン博士の魔導具のところに向かう。小さな足跡を白い大地につけながら、ね。
真っ白になった魔導具に軽く手で触れる。
じわりと僕の手形が浮かび上がる。
もとは胴っぽい色の金属だったんだろうか。
つるんとしていたのかもしれないけど、手形はざらっとしているね。
僕は、近くにレイブンの一羽を呼んだよ。
そして、その子にこの魔導具をやさしく抱きしめて、ってお願いする。
黒いカラスのようなきれいな羽は、広げると想像以上に大きくて、魔導具をしっかりと抱きしめて姿を隠した。
次に翼を広げたとき、魔導具は、けっしてつるつるの金属ではなかったけど、ざらざらで長年戸外に放置された金属にしか見えなかったけど、でもね、元の姿を取り戻しているように見えたんだ。
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