第288話 新しい友達のお名前は

 胴体部分だけで僕より大きそうな、ほぼカラスみたいな鳥の魔物。

 顔、というか頭?

 そこだけは猛禽類っぽくて、特にカラスと違うのは、そのくちばしです。

 くちばしは猛禽類独特の上がアーチをかいたような、それでいて下は小さく平らの、そんな形になってるんだ。鷲、鷹、あとはオウムとかインコとか、そんなの。


 ただそれはシルエットがそうだっていうだけで、僕の目には、それがもやっとした瘴気で出来てる真っ黒な色に見えるんだ。瘴気の揺れがちょっとテカった羽っぽく見えなくもない。うん。まさにカラスの濡れ羽色?って、違うか?


 僕は、グレンの背に乗っているから、上から見れるけど、なんか全体がゆらゆらしている。黒い煙でできてるみたいです。


 でね。グレンもだけど、みんなの目には、これが透明な蜃気楼みたいに見えてるみたい。

 グレンの視界を見せてもらったら、うん、透明だね。透明すぎて、向こうが透けてる。


 ロンベって言うのは、幻の鳥の魔物の名前で、光の鳥って感じの古語が訛ったもの、だそうです。

 セスも、うちのみんなも、見たことはないそうで、ロンベって言葉を知っていたのも、年長のセスさんたちだけみたい。ドクは物知りだから知っていたけど、知っている中で最年少かも。ちなみに300歳くらい?はっきりとは知らないけど、エピソードを色々聞いたらそんな感じ。この大雑把な世界では長命種の年齢なんてほとんど覚えてないって感じなので、正確には誰もわからないです。


 それはともかく、このロンベって思われる魔物だけど、どう考えても瘴気を纏っているよね?

 けど、話しかけてくる内容は、どうやら僕の事を主だって思ってて、で、僕らのお手伝いをしてくれる、って言う・・・

 ワイズの名を出してるところから、クッデ村奥地の子だとは思うけど、救出した中にこんな魔物いたっけ?


 『あるじ~、名前、くれ~。賢いわれら~、もっとしんか~する~』

 同意~同意~同意~


 ロンベたちが騒ぎます。

 うん複数いる。

 念話は一人っぽいけど、同意の感情が、後ろから押し寄せる感じ。


 て、名前?

 みんなに?


 『われらに~。われらたくさん。だが、いちとおなじ~』


 ?


 ?


 言葉って言うより、気持ちを伝えてくるから、ちょっとよくわかんない。僕の言葉に置き換えると、自分たちはたくさんだけど一人だよ、って、言ってるみたいなんだけど・・・・

 だよね?


 『あたり~』

 そう言うと、全員でキャハハハみたいに笑う。耳から聞こえる声も、カ~キャ~と、笑い声に聞こえるから不思議です。


 『ダーよ。このバカ鳥どもは、悪い人間に捕まった中にいたぞ。もっと小さい個体であった。このように透明でもなかったがな。捕まっていたと言うよりも迷い込んでしまっとった、というべきか。』

 そう言ったグレンは、言葉と一緒にイメージを伝えてくる。

 ?

 いやいや、それって、スズメもどきじゃん!


 小さいものだと前世のスズメとほぼ同じ大きさから、大きい物ではハト大ぐらいの茶色っぽい地味なその鳥は、どこにでもいます。町でも森でも海辺でもね。


 あのね、あんまり、この世界の人は魔物に名前をつけない。

 ううん、特に必要じゃなきゃつけないって言った方が良いのかな。

 凶悪で倒した方が良い魔物、役に立つ魔物、狩りの目的になる魔物、そんなのには種族名をつけてるけどね。

 それでも、こっちの北の大陸では、ほとんど魔物に名前をつけてない場合も多いです。

 不便はないんだって。

 僕にはちょっと理解できないけど、でっかい赤い奴、とか、四つ足で早いの、とか、そんな風に表現するんだ。小さな集落だけで生活する人たちには、それで十分わかるから、名前なんてなくてもいいんだそうです。


 そんなだから、このどこにでもいる鳥は、だいたい「あの鳥」みたいにしか言われてないの。

 これは不便だな、って思って、僕はスズメもどきって呼んでるんだけどね。

 スズメもどきはどこにでもいるけど誰も捕獲しないんだもん、名前って必要?ってことらしいです。


 鳥だから食べられる気がするでしょ?

 でも、食べたらダメって言われてる。

 実際、どうしようもなくってこの鳥を食べるってことがないわけじゃないけど、少なくない人たちが体調不良になったり、ひどいときには死んじゃったりするらしいです。

 小さな集落が、飢饉のときに食べるものがなくて、この鳥を食べたら、全滅した、なんていう話もあるんだそうです。僕はそういうのは見たことがないけどね。都市伝説的に、そんなことが言われてる。

 そんな物騒な鳥なのに、なぜ排除されないのか。それは、彼らがいると害虫がよらなくなるって言われてるから。

 これも本当かどうかはわかんないけどね。

 そんな言い伝えだかなんだかがあって、この種族は駆逐されることもなく、かといって食べられたりすることもなく、どこにでもいるという名の魔物として生息しているんです。


 そんな小さなスズメもどき。

 グレンは、ワイズたちが捕まっていたところに出入りしていたそんな鳥が、この目の前のロンベだって言うんだ。

 マジで?


 『われら~。森の守護者とともに奥地で成長の泉に浸かったのだ~。成長して、立派なわれらになったのだ~』

 そんな言葉と共にイメージが・・・


 確かに泉?

 っていうか、滝壺、かな?


 まるで怪我した動物が温泉に浸かるみたいに、滝壺に浸かっている魔物たち。

 ほとんどの魔物はすぐに出入りしている。

 そんな中、複数のスズメもどきが、浸かったまま動かない。

 多くのスズメもどきが腹を上に浮かんできたと思ったら、しばらくして沈んでいく。どう考えても命を落としてる?

 が、数羽。

 その身体がゆっくりと拡張していく。

 そのまま拡張しきって霧散してしまう個体も・・・


 イメージだから時間感覚はわからない。

 けど、そのたくさんの犠牲を越えて、拡張した身体が、すうっと濃く色づきつつ、収縮していくものたちがいたよ。

 気がつくと、それはこのカラスのような黒い魔物になっていた。

 とっても誇らしげに、カ~キャ~、と鳴いたんだ。


 『あるじ~。名をくれ~。くれないとわれら、いなくなる~。名をくれ~。くれると主の役に立つ~。』


 イメージを終えると、そんな風に言うロンベたち。


 「こんなに奇跡的に生き残ったのに、名前を上げないといなくなっちゃうの?それは大変だ!」


 僕は慌てて、今までの彼らの念話をみんなに話したよ。

 まぁ、うちのメンバーは僕の心のイメージをある程度フォローしていたみたいだけどね。セスの人たちとかに説明です。それにゴーダンたちだって、完全に言葉になっていないと、把握は難しいみたいだし。


 僕の説明に、みんな驚きつつ、名前をあげてみようって話になったんだ。

 グレンに名前をあげて、言葉が通じやすくなったし、それはワイズもだ。

 この世界に、名付けで心が繋がる、なんてシステムがあるかは知らないけど、実感としてあり得るし、グレンたち曰く、僕からスムーズに魔力をもらえる、って言っていたから、彼らにとっても悪いことじゃないとは思うんだ。

 てことで、名付けをしよう。


 「う~ん。でっかいカラスもどきだもんね。そうだレイブン。君たちはレイブンだ。」


 !


 そのとき、彼らレイブンの喜びの感情が溢れたと思ったら、ゆらゆらゆれている彼らの身体が、実体を持ったかのように、まさにカラスのように黒く光り輝いた。

 それは、タールの魔物の黒とは違い、本当に雨を反射して光っている、そんな黒色になったんだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る